行き場のない気持ちのはけ口になってくれる温かい場所
それぞれが抱える苦しいもの
とにかく、絵がかわいい。しま奈がかわいくて、虎も朝陽も善もみんなイケメンで。でもウザさがないからすんなり受け入れることができる、かわいい物語だ。だけど、それぞれが心に秘めている気持ちは本当に切ないものばかり。諦めようとして、でも諦めきれなくて、そこにとどまっているような…そんな迷える子羊たちのお話だ。
朝陽は紳士的で知的で優しい。毒を見せるのは虎にだけで、それも愛のあるSだ。しま奈の最初の想い人。ミステリアスだけどひねくれているわけじゃなくて、本当にどこまでいってもいい子なんだよね。そして善はバカだけど一生懸命で、誰よりもしま奈を想って泣いてくれた、心優しき人。虎は大人ぶってるくせに一番自分の事に鈍感な人・そして愛情の深い人…このルームシェアをしているメンツ、最強すぎる。そこにしま奈が飛び込んで、みんなのつながりをより強固にしてくれていた。男には女が必要で、女には男が必要だなとつくづく思う。
しま奈の家庭環境の問題も、なかなか涙を誘ったね。しま奈は別に両親から愛されていないわけではなくて、自分がそれを受け入れることを怖がって、亡くなった母親を想って戸惑っていた。弟もできて、自分だって家族のためにできることを探していたのに、何をやってもうまくいかない・理解されない気がした。そこで家出したしま奈が虎と出会い、自分が何に悶々としていたのかをちゃんと言葉にして、家族とも話すことができた。全部虎のおかげなんだよね。そこから家に戻るのではなく、ルームシェアを継続するっていうのがファンタジーやなと思うけれども、「何かが始まる気がする」っていうワクワクした気持ちが爽やかで、単純に恋だけじゃなく、心が変わっていく感じが伝わってくるから素敵だと思っている。
ルームシェアしているメンバーたちはみんなそれぞれにあきらめた夢があって、最初に助けてもらったしま奈は、それを応援する立場に変わっていく。その中で恋もして、お互いが刺激しあっていく様子は微笑ましいなーと思うし、よくできた話だなーと感心できる。
虎なんかより善がよかった
善みたいに一生懸命なキャラクターってなかなかないと思う。自分が恋しちゃったことに苦しくなって、嫌いなはずなのに、なんでこんなにドキドキするんだ…!ってムカついて、でも認めたらなんでもできるんじゃないかってくらい力が湧いてきている。善の告白がもうね…ときめきを通り越して発狂レベルのかわいさだった。泣きながら、しかも嫌いなのになんで…って言いつつ愛を語る。この複雑な気持ち、すっごいわかる~…!って思う。しかも、しま奈を一番見てたから、誰を好きかも気づいてて、それでも気持ちを伝えなきゃってがんばったことがえらいな~…!愛しすぎだった。
しま奈が一番つらくてどうしようもないとき、一番最初に来てくれたのが善だったね。パンダが好きでキモイとか思ってごめんよ善。ぬいぐるみを卒業して、男になっていく善を見れて嬉しかったよ。そして、しま奈のファーストキスの相手が善だったことは、むしろ一番だった。朝陽より、虎より、誰よりも善だったことが自分としては嬉しすぎた。
善はずっと辛い想いばっかりしてきたけれど、サエコという善のことだけ考えてくれる女の子が登場して、好きになれた。もうね、おめでとう、善。苦しい恋だっただろうけれど、善を男にしてくれた初恋だったね。これからは、一生懸命、サエコを大事にしてほしい。
しま奈の心強い味方
これほどまでに、見た目が王子で中身も王子なキャラクターってなかなかいない。だから、どっかで変貌するんじゃないかってけっこうハラハラしていたよ。でも最後までしま奈の最高の味方でいてくれて、虎や善のこともわかってあげていた朝陽はすごいわ。ルームシェアの家の中で、一番周りの見えているキャラクターであり、しま奈にとってはもうお母さんだよね。しま奈、お母さんいったい何人いるんだよ…。
朝陽自身も好きな人と離れなくてはならない状況になっていて、それには虎の父親、検察官、弁護士…といろいろな人が関わっていた。自分だけの力ではどうしようもなくて、誰よりも、大人にならざるを得なかった朝陽。自分の気持ちを正直表現することを、しま奈が教えてくれたから、本当にちょっとだけだけれど、素直になった朝陽が悶絶レベルでイケメンだった。
虎のアホさを知っていたし、もししま奈が付き合うことになれば苦労するであろうことも予想できていた朝陽。だから、善としま奈がうまくいくようにと誘導しつつ、でもしま奈が選ぶ道を優先させてあげようとしていたね。何となくだけど、ちょっとはしま奈のこと、好きだったんじゃないかなって思ったりもした。だけどよーく観察してみれば、虎のことが好きなんだなーってわかっちゃう。結婚初夜を邪魔するのも、虎への愛情なんだなとわかるから、素直じゃない朝陽を包んでくれるのは、やっぱりあの人だけなんだわーって気づくね。
いつか弁護士になって、因縁の相手を引きずり下ろす。きっと朝陽ならやってくれるんじゃないかって思うよ。
みんなが夢を見ている
虎、善、朝陽のメンバーだったルームシェアに、しま奈が入ってくれて本当に良かったよね。むしろ入らなかったら、善はずっとパンダ好きでバカだっただろうし、漫画家になるって夢も捨てていたはず。虎は人を見守ることに注力して自分の事はそっちのけ状態で生きていっただろうし、朝陽も想いを告げることもできずにただ復讐の気持ちに支配されていたんじゃないだろうか。
夢も恋も全部諦めなくていい。がんばっていい。誰もバカにしたりしないんだってことを、しま奈が導いて教えてくれたと思う。本気で心配してくれて、応援してくれる人がいかに大切か、そういうふうに人と接することがいかに心強く感じられるか、教えてくれたなーと思う。
夢を持たない人っていうのはたぶんいなくて、別に一日中何もしないで過ごしたいって思うことでさえ、その人にとっては実現したい夢なんだと思う。それを叶えるために努力ができるかどうかが必要で、それがたった一人で達成できてしまう場合もあれば、誰かの助けが必要な場合もある。一人で考えるよりも、誰かが自分をわかってくれているという安心感って、何よりも心強いものだなーと感じるね。
タイトルの通り、虎(つまり太陽)が求める夢が最終的な目標であり、捨ててしまった夢にもう一度トライする、そのために朝陽、善、そしてしま奈がいたんだなーって思う。虎はとにかく鈍感すぎて、まさか自分自身がまた恋をするなんてことも想像できていないヘタレだった。まだ好きだと自覚できていないくせにしま奈と付き合いだしたときは、こいつは本当に終わってる…善としま奈がうまくいけ…!って思ってしまったくらいだ。両想いになって、今度は全力でオープンにする虎にも若干引いたしな~…しま奈じゃなかったら、誰もこいつをコントロールできないって思うわ。
気持ちのいいハッピーエンド
せっかく両想いになれたのに、虎の父親が邪魔してきて韓国ドラマかよってノリになり、遠距離恋愛を強いられた二人。まぁそれでも、お互いに進むべき道・夢が明確になっているから、2年間という時間は夢に近づくために有意義な時間になったらしい。そして、結婚まで本編で描いてくれて、思い残すことないな!って終わりになった。朝陽や善との関係もそのままに、幸せな気持ちで終わってくれて、笑顔いっぱいに読み終わることができた。
みんなが夢を諦めて、どうがんばったらいいかもわからなくて過ごしていたけれど、しま奈をきっかけにしてどんどん動いていき、恋をきっかけにがむしゃらにがんばっていったわけである。迷える男たちを救ってくれたのは間違いなくしま奈で、誰かを幸せにするウェディングプランナーを仕事に選んでいるところも彼女らしいなーって思った。
ハッピーな気持ちになりたいときは、何度でも読みたくなる作品だ。
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