リンダリンダリンダ、本当の「青春」 - リンダ リンダ リンダの感想

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リンダ リンダ リンダ

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
4.50
感想数
1
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1

リンダリンダリンダ、本当の「青春」

4.54.5
映像
5.0
脚本
4.5
キャスト
4.0
音楽
5.0
演出
4.5

目次

何よりも、青臭く。

映画は画質の悪いビデオカメラの映像で幕を開ける。青みがかった映像、青臭いポエムを棒読みで読み上げる、可愛いとは言い難い女子校生…。あまりにも青臭い。この映画の最も大きな要素は、この「青さ」だ。

リンダリンダリンダは、あえて分類するならば青春映画のジャンルに入る映画だろう。高校生の主人公、文化祭でのバンド演奏、恋模様…こうして要素を書き連ねると、青春映画ど真ん中の要素がたくさん詰まっている。それなのになぜか、この映画には他の青春映画にはあまり見られない雰囲気が漂っている。どこか怠いような、少し息苦しいような、閉塞的で冷めた雰囲気が。まさしくその空気感こそが、この映画のキーとなる「青さ」だ。

「青春」は文字通り、青い春だ。「青い」春だ。ただの春ではない、青いのだ。多くの青春映画では、「春」の部分にフォーカスが置かれることがほとんどであるように思われる。恋愛ものの映画などは特にそうだ。しかし、青春は「青い」春なのだ。この映画の独特の空気感は、あえて青春の「青」の方に完全にピントを合わせたことによって醸し出されている。この「青さ」にフォーカスを置いて、この映画について考えてみよう。

愛じゃなくても、恋じゃなくても

恋愛も、この映画の大事な要素の1つだ。物語を通して、3つの恋が描かれている。

一つ目は、ドラムの響子とクラスメイトの大江の恋だ。2人は明らかにお互いを意識し合っている。文化祭前日の電話での会話のぎこちなさからもひしひしとそれが伝わってくる。無意味な確認、ざわついた沈黙。これらの細かいリアルな描写の演出は見事だ。響子に電話してホットプレートを持ってくるように頼んだ大江が、クラスの友人と話す時には「(響子に連絡を)してねえよ」と嘘をつき、戸惑いつつも話を合わせた響子と気まずい視線の交差をするシーンなども、青さとリアリティに溢れていた。この二人の恋の描写は、時間に遅れ、びしょ濡れで学校に到着した響子たちを大江が迎え、二人で傘に入るシーンでクライマックスを迎える。かなりいい雰囲気のシーンだが、結局響子は告白できないままメンバーたちに遅れてステージに現れることになる。

よく考えれば、それはそれで当然だ。告白しようと思っていた時間に大幅に遅れ、直後にバンドの演奏を控え、全身びしょ濡れな状態で告白なんてできっこない。映画の盛り上がりを重視するならばここで響子を告白させるだろうが、山下監督はあくまでもリアリティを突き詰めたわけである。主人公の恋がここまで不完全燃焼なまま幕が降りる映画は、なかなかない。

もう一つは、松山ケンイチ演じるマッキーの、ソンへの片思いだ。ソンを備品室に呼び出し、拙い韓国語を使って告白しようとするが、最初の一言にソンが日本語で返した時点で出鼻をくじかれ、発音が誤っていて会話は詰まり詰まりでギクシャクし、挙げ句の果てには「嫌いじゃないけど好きじゃない」と面と向かって言われ、返事も曖昧なままどこかへ行ってしまうという仕打ちを受けるマッキー。しかし韓国語の分からず「え、オッケー?」とヘラヘラ笑う彼が、また青臭くて良い。バンドでソンが歌っているのを眺めている彼が映されるシーンも、一瞬だが印象的だ。

三つ目は、恵と前園だ。二人はストーリーのはじめの時点ですでに別れている。終わった恋だ。二人が別れた理由は定かではないが、元恋人同士の微妙な空気の漂う会話や、年上である前園にからかわれる恵のぎこちなさも、青臭い。

××××扱いされた日々

これらのシーンにおいて、彼ら・彼女らの「青臭さ」の演出に多く使われているのは、コミュニケーションなどにおいてのすれ違いだ。

これは主人公のソンが韓国人で日本語が得意でないことから、不便さや滑稽さを表現するために映画内で何度も登場する。カラオケ屋の店員とのやり取りや、恵とソンとのバス停での会話などにも見られる。ソンだけではなく、何か良い事を言おうとしているのに何も出てこない顧問の小山先生(演じる甲本雅裕は、ブルーハーツ甲本ヒロトの実の弟だ)のセリフなどでもそうだ。

しかしこれらのシーンにおいては、この「すれ違い」が青さの演出の上で大きな役割を担っている。響子と大江の会話もそうだし、言語のバラバラなソンとマッキーの会話でも、またそうだ。

クライマックスとも言える傘のシーンで響子が大江に告白できなかったのも、ある意味では、「ストーリーとしての盛り上がり」と「響子自身の心情」との間で、ある種のすれ違いが起きていたのだと捉えることもできる。このぴったりと縫い目の合わないもどかしさの中に、青さがある。

ブルーハーツ(訳:青い心)

THE BLUE HEARTSのボーカル、甲本ヒロトが初めてラジオでパンクロックを聴いた時、気がついたら涙が流れていたらしい。

たまたま通りかかってボーカル候補になってしまったソンも、ヘッドフォンでリンダリンダを聴きながら、いつの間にか泣いていた。

これがきっかけになってソンはバンドに入るわけだが、なぜソンが涙を流していたのかは明らかではない。曲に感動していたのかもしれないし、日々の生活のディスコミュニケーション状態で感じていたストレスが、パンクロックで解放されたのかもしれない。

4人が演奏していた『僕の右手』の一節に

今にも目からこぼれそうな

涙のわけが言えません

という歌詞がある。「特に理由はない」というのも、一つの答えだ。

青春には理由がなくて不条理なものがいっぱいある。この映画の中でもそうだ。恵の理不尽なイラつき、元々やる予定だったバンドの解散、突然の大雨…。そもそも、ソンがバンドに誘われたのも、理由のない全くの偶然だ。

バンドは3つの曲を練習していた。『僕の右手』、『終わらない歌』、そして『リンダリンダ』。『僕の右手』は、本番のステージでは時間が足りず演奏していない。しかし本番前日、深夜の練習でぴったりと4人の息が合い「いいねー!」と言いあっていた曲は、『僕の右手』だった。本番の演奏はかなりの熱気と盛り上がりだったが、これを考えると、4人のバンドは不完全燃焼に終わったと言える。

4人だけではなく、芝崎高校の文化祭の何もかもが、不完全燃焼だ。そもそも体育館の軽音部ステージに観客がたくさん集まったのも、急な大雨のせいで、屋外に屋台を出していた生徒たちが撤収しなければいけなくなったからだ。文化祭の最終日の午後、テンションとしてもクライマックスな状態の時に大雨だなんて、あまりにも不完全燃焼だ。

リンダリンダの演奏があれほどまでに盛り上がったのも、体育館に来た生徒たちが、雨で中途半端に冷まされてしまったテンションを無理矢理にでも燃え尽きさせようとしていたからかもしれない。バンド演奏の熱気にも関わらずどこか冷めた雰囲気が漂っているのも、このどうしようもない不完全燃焼感のためではないだろうか。熱のこもった『終わらない歌』の演奏が流れる中、順番に映し出される大雨の校舎やプール、薄暗い昇降口などの映像は、まさにその冷めた興奮を印象的に演出している。

この不完全燃焼が、映画の中における「青さ」のクライマックスでもある。不完全で、冷めていて、気怠くて、息苦しい。バンドの演奏に合わせて、それまでに出て来た人物たちが演奏を聴いている様子が順番に映し出されていく。指を骨折してバンドができなくなった萌。恵と喧嘩になって、バンドを抜けた凛子。響子との進展が全くないままの大江。振られたマッキー。頼りない顧問。ソンが青いペンキでべったりと落書きをした、日韓交流の展示の教室。全てが不完全燃焼で、未解決で、どうしようもなく青臭い。映画全体に漂っている抑えられた空気がこのシーンで一気に巻き上げられ、ブルーハーツの音楽がそれを殴りつける。全編にわたって彼らを閉じ込めている閉塞感を、パンクロックが叩きつける。

青さの底でもがきながら、飛び跳ね、歌い狂う高校生たち。別に不完全燃焼でもいいのだ。それが青春なのだから。中島が屋上でギターを弾きながら恵に言ったように、「やりゃなんだって楽しいんだから」。

パンクロックの元祖とも言われるバンド、The Whoのピート・タウンゼントがある言葉を残している。

ロックンロールは、別に俺たちを苦悩から解放してもくれないし逃避させてもくれない。 ただ、悩んだまま躍らせるんだ。    ––ピート・タウンゼント

終わらない歌

ここまで紹介したほかにも、映画の空気感を演出している要素は多く、4人が土手を歩くシーンなどに見られる映像美や、ジェームズ・イハの手がけるアトモスフェリックなBGMなど、挙げていけばキリがない。

このレビューではあえてそれらを画面から外し、純粋に登場人物のセリフやストーリーに焦点を置いてこの映画の雰囲気を掘り起こしてみた。

青さの底でもがく高校生たちの、しっとりと流れていく青春。これを読んで、その感覚が懐かしくなった人もいるかもしれない。もう一度この映画を観て、その雰囲気に浸ってみてはいかがだろうか。

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