当たり前のように家業を継いでいく人もいると知る
ほっこりボーイズの楽しい毎日
24歳って子どものころから考えたらものすごく大人。だけど、実際自分たちがその年齢になってみたら、全然大したことないって気がする。学生と社会人のハザマで、何となく大人っぽく、でもやっぱり大人にはなりきれていない自分を自覚していたりもする。そんなお年頃の男性3人組のほっこりストーリーだ。
みんな家の家業を継ぐことが決まっていて、恭太郎は神社を、孝仁は寺を、工は教会を、すでにある程度は仕事もできる状態になっている。この漫画のいいところは、3人とも自分たちの継ぐ仕事を嫌ってはいないということ。難しい事、大変なことはあるけれど、ちゃんと自分のやると決めたことをただ一生懸命に取り組んでいる姿にとても好感が持てる。まだまだ遊びも大好きで、3人集まって旅行に行ってみたり、常日頃男子会を開いて楽しんだり。とにかく話題に事欠かない、盛大なオチが待っているので、どの話も楽しく読むことができるだろう。それぞれの仕事に焦点を当てた話題になるが、もちろん恋もするわけで…普通のサラリーマンとは違う優しい時間が流れている気がする。
3人組は仲良しこよしであることは間違いないが、みんなお互いを「君(くん)」を付けて呼び合うので、はじめは少し違和感を感じるだろう。1巻をまず読めば、それはお互いの間に壁があるからではなく、お互いがお坊ちゃんだからこその礼儀正しさの1つなのだと気づく。身なりも整っていて、言葉遣いも整っているんだよね。もちろん、人間的に足りないところはそれぞれにあるのだけれど、仕事をする上での立場をわきまえているので、自然とそういうふうに小さなころから行動してきたのだと思う。それを感じ取ると、なんだかまたしんみりとした気持ちになってきて、すごいなーって尊敬に変わる。タイトルが「さんすくみ」で3人とも進むべき将来を前にすくんでいる状態なのかと思ってしまうが、すくんで蓄えて、まさに変わっていく時期を描いているのだなーとわかる。
敬遠したくなる世界もやっぱり仕事
宗教って聞くと、一歩引いてしまう気がすると思う。神聖な雰囲気で、簡単に立ち入ってはいけなくて、礼儀正しく、雑念を持たずに挑まなくてはならない気がしてくる。この「さんすくみ」の中では、神社・寺・教会それぞれが持つ宗教の側面を、ごく当たり前のように見せてくれていて、宗教と言えど“仕事”なのだなとわかってくる。もちろん、他の仕事よりは心遣いの能力が試されるたろうけど、仕事をして、お金をもらって、生きていくことには変わりがない。
つまらないことで一喜一憂しつつ、バカやってわいわいしている3人組。反抗期って…あったのかな?すんなりと家業を継ぐことを引き受けたわけでもないのかな…って予想していたのに、すでにみんなちゃんと将来を見つめていて…本当にエライよね、この人たち。お茶目でバカの人ばっかりで、仕事は大丈夫なの?って心配になるくらい。それでもやるべきことはこなすことができるから、ついつい応援してしまうのだ。歴女たちも神主さんってだけでテンションが上がると思うんだよね。3人がその仕事を継ぐこと前提で育てられたことでの弊害みたいな、そんな真面目な話は多くなくて、工がドイツ行きを決定するまではほぼショートストーリーのトリオ漫才に付き合ってきた形だった。崇拝・信仰の威力がハンパないのだろう。誰も守ってはくれない世の中で、人でなくても頼る対象を持つということが、人間にはかなり重要なことだ。
まさかの工が一抜け
工はオカルトが好きすぎて、女の子たちにそのずば抜けた趣味を理解されずに、ボッチになっている。顔と口のうまさでは3人の中で一番上手に女の子をひっかけることができる工…残念な奴。
しかしそんなチャラくて軽い工が、いち早く自分の将来のことを見つめて新たな決意。この決意には心底驚いたし、見直した。自分がやってみたいことを一生懸命考えていたから、3人の中では一人だけ大学院という道を選んでいたのだし、頭がいいからこそ気づきも早かったのだと思う。グロいもの好きなゼミの先生との間に、何かアクシデントが…!と期待していたが、全然そんなことにはならなくて、どうやら同志になってしまったらしい。歳の差BLを一瞬期待しただけに、ショックはデカかった。まぁよく見たら工は最初から選択肢の広い、可能性を秘めた人だったんだけどね。ドイツ語、英語をしゃべれる上に、大学院というスペックと、教会の牧師を継ぐ存在であるということを踏まえると、女の子からは一番遠くにいたのかもしれないとすら思う。きっかけはおじいちゃんが亡くなってしまったこと。こんなに大きな影響力を及ぼすなら、おじいちゃんと工のエピソードや、シュトーレンの話題をもう少し多くしてもよかったのでは…?とも思った。
工の行動が引き金となり、3人の楽しさだけの関係はいったん終わりを告げることとなる。それぞれの道を見直し、ただ歩いていくのではなくて、向き合って再度原点に返るというか。そんな姿勢がまた「いい話やな~」って感心する。
物理的に離れても大丈夫
カレカノなんかじゃないのだから、離れたって大丈夫…とは言いたくなかったね。ずっと3人楽しく仲良くいてくれって思ってしまった。最初から熟成しきった人たちが友達になったわけじゃない。足りないところがあるなら学びに行って、一回りも二回りも大きくなってまた再会すればいい。そういうあっさりとした別れがせつなくもあり、男らしくもあった。大好きな友だちだったら、離れて嫌いになることはないんだよ、本来は。
工の決断が孝仁や恭太郎にも影響を与え、それぞれに気づきと成長を与えてくれた。人と関わり、学ぶことをしなければ、選択肢を多く持つことはできない。孝仁と恭太郎だけが友達でも成り立たない。工を加えた3人組だったから、できたことだったのだろう。人間何歳になろうが、どのタイミングで・どれくらいの覚悟で決断できたのかが重要なんだよね。…別にホロリと感動したりすることは期待せず、ほわほわした空気を楽しんで読めばいい。
自分のやるべきこと・やりたいこををちゃんと見つめ直した3人組は、5年間も離れ離れになってしまった。もう30歳も超えてきて、それでも再会すれば昔みたいに当たり前に語り合える。こんなお友達の関係って最高すぎるわ。
基本はくだらない空気
ヘタレの恭太郎、チャラさとオカルト好きが強い工、常識人だが霊感高すぎて常に苦労している孝仁。彼らの毎日はくだらなくて微笑ましい失敗と面白話からできている。短編集っぽくまとまっているので、出てくるエピソードの数はかなりの多さ。作者の絹田さんはネタをどうやって拾っていたのやら…序盤は宗教間の違いとそれぞれの悩み、徐々にそれぞれの成長の物語へと広がっていった。すっきりと終了させてくれて、特に悩まず読めた作品だったと感じる。
3人は仲がいいということはわかっているのだが、オチに対する他のメンツの対応が実に辛辣で、薄情なんだよね。そこがまたツボなんだけど、実際考えたらけっこうひどい気もする…。3人の中で誰が一番ヒットかなー恭太郎は浮気発覚事件の一件でぐっと好きになったキャラクターであるが、やはり工だろう。最後の決断の早さ・潔さがお気に入りとなった。
大人になるってどういうこと?悩みながらも、いろいろなことを決意して、進んでいくしかないんだね。友達ってどんなもの?生きていくってどういうもの?そんなテーマも垣間見える、いい話である。
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