宗教のジュニア世代が大人になるまでの話
仲良し男3人組のドタバタの毎日
神社の息子・恭太郎、寺の息子・孝仁、教会の息子・工。3人は24歳の幼なじみでそれぞれが別の宗教の家業を継ぐ人間です。それぞれ、自分の家業を嫌っているとかそういうことではなくて、いろいろ難しいことがありながらもちゃんと仕事として向き合っています。そして、大学を出て間もない若人たちにとって24歳という年齢は、いよいよ社会人としての自覚と責任を感じ始め、自分が何をしたいか・何をするべきかといったことを考えていく時期でもあります。まだ遊び足りない・でも仕事もしっかりしなきゃなーと思う。どちらも本当でどちらも譲れない3人組。そんな3人のゆるーい日常が、疲れた心を柔らかくしてくれる。そんな優しいお話です。
ちゃんと友だちなんですけど、それぞれの名前を「くん」付けで呼び合っています。よそよそしいわけではなくて、坊ちゃん感がうまく醸し出されていたと思う。どれだけふざけたシーンでも、名前は絶対「くん」付け。名前の呼び方をきちんとしていると、「ちゃんとしたところの息子さんだね」って思われるのではないでしょうか。あまり絵がうまいとも言えない気がするし、工くんの顔なんてまさに狂信者に陥りそうな表情なんじゃないかと思ってしまうんですけど…工くんごめん…3人絡むと予期せぬ失敗ばかり。楽しいことより驚くことばかりな毎日ですが、それぞれの家の仕事もちゃんとこなしているからかっこいいです。読経が完璧にできて、季節の行事をわかっていて、立ち居振る舞いも完璧。こんなジュニア世代もいるんでしょうね…今の21世紀においても、その家に生まれれば後を継ぐことを考えるのでしょうから。
宗教をマイルドにみせてくれる
世代が若いからなのか、出てくる宗教用語がそんなに嫌な感じがしないんですよ。お経とか牧師さんの言葉とか、全然意味わからないんですけど、これも1つの仕事なんだよなー…って思うと、バカばっかりやってる3人ですけど、えらいなーって思えてきます。
神社・寺・教会といってもそれぞれにちゃんと家庭があって子どもが生まれ、その子どもがまた継いでいくわけですよ。「宗教」と聞くと、何となく少し敬遠したくなる雰囲気があるじゃないですか。修行して出家しなきゃいけないとか、若いうちしか遊べないとか、お金の出どころが怖かったり、人の私利私欲を相手にしているところがまたつらそうだなーと思えたり。でもよく考えたら、そんなのどの職業に就こうが同じなんですよね。何をやっていくにしろ、生活のために嫌なことでもやらなきゃならないときがあるし、仕事をバリバリやって稼いでいくことには変わりない。それがたまたま宗教に関連するものだったっていうだけの話。
3人のジュニアたちは、反抗期にあるわけではなくて、自分たちの仕事となるものをちゃんと見つめているしね。失敗ばかりだけれど、辞めようとはならない。というか辞める選択肢が頭に浮かばないのでしょうね。そうあるべくして育てられてきて、自然と跡取りとしての自分を認めてきたんだと思う。神様に対する畏敬の念っていうのは、悪用されると怖いけど、人を導くために支えになってくれるものとしてこれからも続いていくのでしょう。世の中が人工知能ばかりになっても、何かに対する信仰・崇拝の精神はあるんでしょうね。それがないと、人ってダメになるんだろうなー…と想像してしまいました。
恋が近いと思ってた人ほど真面目になったら遠くなる
工くんがとにかく若い女の子とオカルトが好きな人で、誰かと結婚するならきっと一番だろうなーと思っていました。たぶん同じくオカルト好きな人と…ところがそうはならず、3人の中でいち早く自分の道を決めてドイツ留学へと旅立ってしまいました。チャラいだけの奴かもって思ってたんですけど、見直しちゃいましたね。やるなら即決!というのが潔く、孝仁や恭太郎にもいい意味で刺激を与えてくれました。まさかの展開で、研究好きでゾンビやらグロ映画好きな男性とのラブもあるんじゃないのかと予想していただけに、意外にも真面目だった工くん。おふざけが過ぎるのでたまに忘れるけど、3人の中で唯一大学院へ進んで論文書いてるくらいの人だしね。ドイツ語も喋れて、英語も喋れる、そして教会(牧師)関係の情報に強いんですから、選択肢も広い。若いからこそ、そして今の時代だからこそできるグローバルな学びが、きっと工くんを育ててくれることでしょう。最後まで工くんのおじいさんが謎だったんですけど…亡くなってしまう前にもう少し何か背景情報でも教えてほしかったな…シュトーレンをつくっているおじいさんの姿をがっつり見せてもらいたかった。クウォーターとかハーフって、今やそんなに珍しくないってのにまだまだブランド力があるよね。自分と違うものを持ってるって感じが相当かっこよく映ってしまう…差別じゃなくて、いい意味でね。
友だちは離れていたとしても友だち
そんなこんなで工くんはドイツへと言ってしまい、残された孝仁と恭太郎は寂しさを感じずにはいられません。そして、孝仁も3年この慣れ親しんだ街を離れなくてはならないことが決まってしまい、恭太郎は残されてしまいます。あれ?自分はここで、この家を継いでいくのに、自分だけまだ何も先が見えていない気がする…確かに決まった道なのに、そこに目的がなければ、やっぱり人は力が出ない。そういうとき、後押ししてくれるのが恋人!!だからね、恋をして大人になりなさいっていうのは、人と関わり選択肢を学びなさいってことなんでしょうね。孝仁も恭太郎も、自分一人だけでは導き出せなかったことを、愛する人のおかげで見つけることができました。素敵ね~…ほろりとはしないけど、単純に安心するフィニッシュだったと思います。ちゃらんぽらんでいつまでもヘタレでいるんじゃなくて、これからは誰かを守れる人になる。そんな力強い決意を見せてくれました。
そして、3人とも自分のやるべきことのためにしばしの別れを選びます。まさか再会が5年も先になるとは思わなかった…5年経ってもう30歳を超えた仲良し3人組。
さぁ 何から話そうか
この3人の関係性が、いつまでも優しく続いていくことを予感させてくれる、いい〆の言葉でした。
最初から最後までほっこりと
甘いものが大好きでヘタレな恭太郎、チャラくてオカルトが好きすぎる工、常識人だがビビりで霊に敏感すぎる孝仁。それぞれのキャラが楽しく、1巻ごとの話数も多くておもしろい物語でした。作者の絹田村子先生は、ネタ集めが相当大変だったのではないでしょうか。終盤は宗教関係っていうより3人の成長物語になっていたので、もしかしたらネタ切れを起こしていたのかも…まぁそれでも、終わりへ向けて着実に話を進めてくれたので、すっきりと読み終わることができました。
3人組の失敗は、たいていのオチが予想できてしまう展開が多かったんですけど、その返しが絶妙に薄情なものばかりで、ついつい笑ってしまいました。一番印象深いのは、恭太郎がある家の一室に潜むという霊をお祓いしなきゃいけなくなったときに、浮気発覚へと至ったという話。あれは…発覚の仕方が秀逸だった…(笑)。初穂料が帰ってきたときの展開もまたウケたよね。そこで一気に恭太郎を好きになったよ。
大人になるって大変だ。20歳超えてからだって大変だ。だけど何歳になったって友だちはずっと友だち。そういう途切れることのない関係を大事にしていかないとなーとしみじみ思いました。
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