おもしろいのに全然表沙汰にならない
カラーで見たい繊細なイラスト
一見雑なのかな?と思いながらよく見ると、本当に細部までよく描かれていて、闇の描き方もだまりと別の鬼とでは違いがよく出ている。単行本の表紙とか、ゲッサンのカラー部分はかなり美しい。雑魚キャラ、メインキャラ問わず、楽しめるイラストだ。バトルでは血しぶきも炸裂するが、グロさは強くなくて読みやすい。
鬼と人が共存する世界を舞台に、絶対に相容れないはずの鬼と人が協力して鬼を喰らっていくストーリー。そうならざるをえなかった背景は深く、少し読んだくらいでは全然わからない。途中仁・だまり・楽・花たちの微笑ましいエピソードも続くので、こんな毎日が続いてくれたらな…と読んでいるこちらも本気で考えたくらいだ。仁とだまりはお互いの利害が一致しているからこそ、共闘している関係性。鬼を倒すべく動いているはずの鬼導隊の中での怪しい動きはミステリアスで、なかなか真相は明らかにならない。それでも白陽がラスボスであることは1巻の時点ですでにバレており、そこから少しずつ進んで「絢糸屋事件」解明と鬼と人との関係そのものを揺るがすものに繋がっていく。何が秘められているからは終盤まで全然わからないので、飽きることなく10巻まで読み切れるだろう。ラストの白陽がミニマムな感じで気に食わないのだけれど…神様ってこんなイメージなのかもね。
鬼導隊の中での協力者は咲なのだが、存在感・必要性が微妙な始まり。才能の片鱗、キーパーソンとしての行動は序盤にはなく、変人扱いだ。花のほうが断然かわいいし、鬼神族としての立場も魅力的。総じてただの人間にはほとんど出る幕がない。
ただの協力関係から生まれるもの
呉服屋として生きがいを持って働いていた仁。お店のみんなを守って、母さんを守って、ただ呉服屋として幸せに生きていきたかった。それが突如として崩れ去り、死にかけた自分が鬼と同化することによって生きながらえた。鬼もまた自分が不完全な状態であり、なぜその状態に至ったのかもわからず、鬼を喰らってエネルギーを蓄えるしかないと知る。だまりは強力な鬼を喰らいたいし、仁は家族を皆殺しにした鬼を倒したい。利害関係の一致した2人が「顔の無い鬼」を求めて毎夜鬼狩りをする。
おもしろいのは、鬼が不完全な状態で仁から離れれば、仁に今までだまりが回復させてきた体の傷がまた戻ってくるという点。人ではない状態だからこそできることだ、という強調がなされている。鬼が人としての感覚を麻痺させ、戦いやすくさせていたこともまたおもしろい。憑りつかれていることがまず第一の前提で、それを崩さずに、どこまでだまりと仁が理解しあうことができるのか。憎むべき相手同士で、何を思い、最後はどんなお別れが待っているのか…最初からそんなことが気になって、ワクワクさせてくれる。
だまりと仁が知り合うことによって、ただ恐れていただけの鬼という存在について、その意味を考えるようになっていく仁。そこに人間のほうが怖いんだと言う楽、鬼の血を受け継いでいるからこそ曖昧な存在に惑う花が加わって、より深く、忌み嫌うものに対しての思考を深めていく。別の生き物に出会うことによって、自分を見つめ直すきっかけになるんだよね。
絢糸屋でのコメディーもまた魅力
楽・花・咲とのお店再興も魅力的で好きだ。もちろん、物語の進行がいったんストップしてお店の再興に時間をかけていくのは、早くこの展開を進めてほしい人にとってはだらけた部分なのかもしれないが、この部分があってこそ、花と楽との関係性、だまりとの関係性が深まったことをしっかりと認識できる。何の漫画だっけ…?って思うような話もあるが、ちゃんとメインストーリーには戻ってきてくれるし大丈夫。
思えば、仁も楽も花も、みんな敵討ちや恨み辛みで埋め尽くされていたね。そんな3人が出会って、仲良くなって、理解しあえたことは嬉しい事。鬼から切り離されたいと思っていた仁と、鬼になりたくてたまらなかった楽、鬼の立場で人間を恨み続けてきた花…まったくバックグラウンドの違う人たちが出会えば、こんな化学反応が起こるんだね。怖いのは、こういう大事な人たちはどこかで死んでしまう可能性があること。この物語ではなおさら、死が近いからね…。花が一番、こんな穏やかな日々がずっと続いてほしいと願っていたし、一番犠牲になりそうで…怖かった。
咲が仁によってコーディネートされて、服がかわいくなっていく、というシーンがあるのだが、果たしてどっちのセンスがいいのかどうか…難しい。仁に仕立ててもらった服は確かにかわいいが、咲のセンスが最高に悪いということがいまいちわからなかった。咲が大切な家族を失った原因も白陽にある。そこで彼女がどう行動するか。正義を貫こうとする者ほど脆く、いつでも悪へ転落する可能性を秘めている。この物語では危うい人ばかりだった。だからこそ、絢糸屋がそんな人たちの心の支えになる場所として、長く描かれる必要があったのかもしれない。
やっと終わる道のり
8巻で終わりか、と言われて9巻になり、衝撃のラストが!と言って10巻まで到達。ようやく最終回を迎えることとなった。長い時間をかけて白陽が成そうとしたこと、巻き添えをくらった仁、父親と母親…。無関係だったのに襲われたわけじゃない。そこにはちゃんと理由があった。意識を失っただまりと仁の対話は泣けるものがあった。そこからさらに白陽の怒涛の攻撃があって、ラストへと駆け抜け、そしてさよならが待っている…。一緒にいてはいけない存在があるんだ。…こんなにおもしろいのに、なんでみんな知らないの?
鬼を殺すために人は鬼を利用する。恨みと憎しみは連鎖し続ける。それを断ち切るために、本当にたくさんの犠牲と、心が失われた。誰もが自分以外の感情を読み取ることができないから、やっぱり自分の幸せを考えてしまう。裏切って、裏切られて、誰も信じられなくなる。誰が始めたのかわからないけど、誰かが生み出して、連鎖して、止まらないんだよね。誰かが止めてくれるまで。こういう裏切りの物語を読むたび、普通に思いやるってことがいかに難しいのか、守れる範囲がいかに小さいかとか、考えてしまうね。「あやしや」はただの敵討ちの物語じゃなく、泣ける余韻たっぷりに駆け抜けている。
鬼はいつも人のそばに
陰の力が集められた場所に門ができ、鬼が生まれる。皮肉なことに、人がつくりだした力を源にして鬼が生まれ、鬼は人を食べてしまう。人が多いほどに希望も多いが、絶望も多い。そういう場所に鬼は生まれ、牙をむく。だったらむしろ、共存したいよね。鬼を目印に、人が変われるようになりたいよね。
鬼神族がキーになって、白陽が最強になろうとして、人を巻き込み、鬼を巻き込み…仁とだまりだからこそ解決できた物語だった。…何回も言うけど、なんでこんなに人気が表在化しないの?すげー好きだって言ってる人いっぱいいるのに、なんで流行らないんだろう?普通に少年誌に載ってて単行本になってて、アニメとか映画になったっていいレベルなのに。マニアックとか言われるのが心外だ。
主人公の仁は、その子どもな見た目と裏腹な絶望の経験と、芯の強さを持ち、鬼に同化されたことによる日光への弱さと低血圧そうな表情がよくマッチした、かわいい主人公だ。家族想いでかわいいやつよ。そのあやしい雰囲気と、人としてのあったかさ、決して最強ではないけれど闘っていく彼の強さを、しっかりと目に焼き付けたいと思う。
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