一瞬も見逃せない展開へと発展するサバイバルサスペンス
それは教えか支配か
絵は整っている感じ。蓮実の肉体は好みの線で描かれている。空気は当初は軽めで、これから何が起こるのかわからない。しかし、蓮實の裏がちらつき始めた時、心がざわつき始める…「悪の教典」は漫画から読み始めたが、巧妙な手口と、蓮實の表情、それぞれが抱く心がリアルで、蓮實だけがおかしいのかな?…って途中までは思う時もあった。それでも、伶花が言う。
この学校には怪物が棲んでる
気になるセリフを入れるのがうまいなー…。みんなやりたいことをやりたいようにやって生きてるってわかるよね。救世主が救世主とは限らない。キモさが悪とは直結しない。そんなことを教えてくれる。
蓮實の統率力って、はっきり言ってすごいよ。生徒と話をし、わかってあげること。解決してあげること。解決への糸口を一緒に探ること。未来ある子どもたちを未来へ羽ばたかせてあげること…。でも何か違う、と気づいていく。蓮實のお気に入りは羽ばたき、邪魔な人間は排除されていく。蓮實の立場を悪くするような人間は先生だろうが生徒だろうが容赦なく落とされていっている事実。蓮實のやりたいことは、自分の思い通りの空間をつくること。自己中で、独善的。「教育」と「支配」が紙一重であることを教えてくれていると思う。
それぞれにね、悪意を感じるんだよ。自分が楽しいことがおもしろい。そして、見た目で悪意が分かる人ほどまだ親切だ。蓮實みたいに、善意の裏に自分本位を隠し持ち行動する人間のほうがよっぽど厄介。笑顔で人を殺すんだもの…でもね、これまた紙一重なんだわ…自分がいい人だと思って、自分は間違ってないって、笑って人に迷惑をかける人って、いるんだから。蓮実はそんな人たちを思いっきり誇張させてわかりやすくした、悪意のサイコパスだ。
蓮實のやりかたは実にうまいやり方
学校で巻き起こる様々な出来事。いろいろな生徒が通い、いろいろな先生が教えている。人が集うからこそ活気があり、悪いものも集まるんだと思う。
「信用させて落とす」まずこれが蓮實のテクニックだ。体育教師からセクハラを受けていた美彌は、蓮實に救われて巣食われたって感じ。いじめのリーダー格ってことにされた鷺沼は唯一の仲間から切り離されるという、最も残酷な方法で退学をさせられた。BLに燃え上がっている久米先生と生徒の前島はまだかわいいもんだったのにさ、だからこそ、利用されちゃったんだよね…お金から家から車、そして愛しい人、最後に自分の命…最もじわじわと殺された、かわいそうなパターンだった。
「あらゆる情報を入手しておくこと」これも相当うまかった。いろいろな関係が転がっている中で、上手に着実に、信用を得た面々から常に情報を入手する。蓮實信者だった教頭、蓮實を辞めさせようと嗅ぎまわっていた釣井先生、蓮實とか圭介とか若い体を楽しんでいる田浦先生、個人情報ダダ漏れさせる学校カウンセラー…カウンセラーは唯一中立的な立場だったのかもしれないけど、いい人なんだろうけど、かなり重要な情報を流した張本人だ。美彌をセクハラしていた体育教師はマジでキモいし死ねって感じだが、悪はどこにだって転がっているんだと嫌でも知らずにはいられないのだ。
漫画の中で蓮實がやっていると、悪いことしてるよねって空気が流れているが、誰でもやっているんだよ、こういうせこいことを。だから蓮實に利用されるんだ。「常に冷静に、落ち着いて、笑顔で」これも蓮實のテクニックの1つだと言えるだろう。
最終的に全部殺してしまえば済むと考えているところだけが、蓮實のイカレているところだろうね。神様は…なんでもできる人間なんてつくらんよね。
子どもだって考えている
蓮實の悪事を解決するために唯一動いていた圭介、伶花、雄一郎。みんな仲良し(わかりづらいが)、そして圭介の推理力、伶花の悪に敏感な体質(これは謎)、調査力に優れる雄一郎。まぁ雄一郎はあんまり活躍してない感じなんだが、3人をまとめてくれる、いい奴だった。
蓮實が黒い。勘でそう気づいている高校生たち。みんなが気づいていなくても、俺たちで暴いてみせる。…カッコいいけど、諸刃の剣だよね…相手はすげーやばいんだって、気づけない。好奇心だけで挑んじゃいけない相手だった。
そして圭介は死んじゃった。頭もよくて、もしかしたら蓮實と同じような思考回路を持っていた圭介。蓮実になくて圭介にあったものが何か?と考えると、それは、仲間と、優しさだなと思う。伶花がいて、雄一郎がいて、心配してくれる人がいる。そして自分も、誰かを思いやる気持ちを持っている。だからこそ、最後の局面で死んでしまったとも言えるのかな…抜け目のない人間だけが生き残れるってことなのかな…
子どもだって、オトナから学んでいるだけじゃない。子ども一人でだって、道を見つけることがある。子どもなりに考えて生きている。支配できると思って侮ってた蓮實は、自分ですべてを完了させたと思い込んで、足元をすくわれた結末がこの悪の教典なんだ。
なんか嫌だなーヒーローが死んじゃうって本当に心臓が痛いよ。人の社会でうまく生きていける自信がなくなるわ…疑心暗鬼の渦にのまれても、揺るがない心を持ちたい。
蓮實のほころび
蓮實はまずいと思ったらその都度ほころびを取ってきた。毎回ちゃんと摘んでいるはずなのに、なぜか次々と歯車がずれてくる。なんでなんだろうね。カラスが・お父さんとお母さんが見てるのかな。こればっかりは、もう抗えるものじゃないのかもしれない。そして苛立ち、逆上し、あとはもうプッツンと“皆殺し”にすればいいという結論に至る。楽しそうに、嬉しそうに、人を殺していく。
昔はね、人を簡単に葬り去る蓮實の行動が、絶対にあってはならないことだと思った。でも数年経ってじわじわと思うのが、それ自体が理解できないものだとしても、そういう心理が存在することが理解できなくはないということだ。
蓮實が人を殺せなかったときのエピソード。ありゃー沁みたね。高校1年生のとき、唯一仲良くしていた女子生徒を、殺してと頼まれて殺せなかったこと。なぜなのか、蓮實は理解できなかったし、大人になった今でも理解できなかった。そして美彌との関係を楽しむようになって、同じ気持ちをまた味わうことになった。心は殺そうとしているのに、体は殺せないなんてことがあるんだね。心だけがどこか別の次元にいるような…心が愛していなくても、体が覚えていることだってあるのかもしれない。偽の愛の感情を、体が錯覚してしまっていることもあるのかな…笑顔を無理くり作ると、脳がストレス解消になるとかいう論理の逆パターンで。
ラストは何度読んでもしてやったり
最後に生き残ったのは伶花と雄一郎だけ。残りの生徒と邪魔な先生はみんな銃殺されちゃった…でもそこに至るまでがすごくうまい。電気ショックで一度倒れた蓮實は、まさにカラスからの仕返しと言える状態。さらに、殴られて顔半分が膨れ上がった蓮實は、まさに悪と善が一緒になった形相に。殺すたび、蓮實の最後の化けの皮が剝がれていくような、そんなバトルロワイヤル。それをまんまと出し抜いた伶花と雄一郎。そしてAEDの録音機能に残った決定的な証拠…蓮實の無の表情…秀逸ラストだった。
伶花は恐れる。またあいつは帰ってくる気がする、と。蓮實は警察をも出し抜いて、またそこから出てくるんだろう。自分が精神異常者だと言えば、日本は彼を殺せないのだから…悪はいつでも、どこにでも生まれる。
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