佐藤秀峰氏らしさが最大限に出ている作品
佐藤秀峰氏らしさとは何か
この作品の第一部にあたるとも言える「ブラックジャックによろしく」をはじめ、海猿や特攻の島といった佐藤氏の各作品にも共通してある「らしさ」がある。
作品の中で語られている職業の内容や時代背景に特に関心がない人でも、普段仕事をしている中で、特にサラリーマンが感じやすい葛藤を表現している。会社の経営理念や上部からの指示が机上の空論になっており、現場の実態との矛盾を感じることなどは、問題意識が強い人は誰しもあるだろう。
医師として研修中に、各科でその矛盾と対峙し、常に戦ってきたため問題児とされている斉藤は、新シリーズでも基本変わっていない。彼の様なタイプは生きづらさを感じやすく、損なタイプだと言えるが、彼に共感を覚え、素直さやその頑固さにあこがれを感じる人もいるだろう。
大事な人だと言っているのに薄っぺらい
医療に対しては情熱がかなりはっきりしている斉藤だが、どうも恋愛に対しては彼女をどう思っているのかよくわからない。新シリーズでは、全編を通して泌尿器科勤務、同僚赤城の命を救うことに全力を傾けているが、仲間を死なせまいという正義感、自分の臓器の提供も厭わないというのは、彼ならば想定される行動である。しかし、前シリーズから彼女である皆川本人も感じているように、好きだの大事だのと言葉で気持ちを述べている割には、彼女のどこがどう好きでどう必要なのかがよく分からず、非常に愛情が薄っぺらい感じがするのだ。
結果的には破局も仕方がないと言えよう。同時に、皆川がなぜああも斉藤にこだわるのかも不可解で、一種意地なのか、すっきりしなかった。唯一理解できたのは、赤城が医師として異質なものを持つ斉藤に興味を持っていたというあたりだろうか。
答えは前シリーズの中にある
移植編では、そもそも死ぬ運命にある人を助けるのに意味があるのかという医師という職業の根底への疑問が投げかけられており、一先ず斉藤はその問いに対し、目の前で死にかかっている人を死なせたくないという感情論で納得しているように思える。
医者とは何か?この問いに対しては、生きるか死ぬかという極端な選択肢ではなく、いつか死ぬなら死ぬまでの生活の質の向上のために寄り添うという一つの結論。それは、緩和ケア科の設置を提案した、第四外科編で答えが出ていたのではと思う。
完治を目的とした治療にしろ、完治できなくても悪くならないようにする治療も、死を待つにしても苦しまずに済む処置にしろ、なるべく人生を居心地よくするために必要なことであり、医師とは死に抗うものではなく患者の生のクオリティを上げるものという気付きを、斉藤が若干忘れてしまっているような感じがした。このままだと斉藤は永大で泌尿器科に勤務しそうな終わり方であったが、彼が求めている物は実は緩和ケア科にあるのではないだろうか。
緩和ケア科の庄司医師や宇佐美医師の両極な考えこそがこのシリーズにまで引っ張られている斉藤の葛藤と通じているため、中庸案を提案した時の自分を、もう一度斉藤が思い出せたとき、新たに医師として成長できるように思う。
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