爬虫類と共にのびのび育つ恋
ゆるい絵柄ほどストーリーは凝っている
何となく自分の中では定説になりつつあるのだが、ゆるい絵ほど中身は最高におもしろかったりするよね。この作品の絵が下手だとは言ってないけど、ベタぬりものすごく時間かけなきゃないとか、そういうことがなさそうだし、じっくり内容を考えていそうだなって勝手に思っている。ゆるそうだなーと思って手に取ったこの漫画も、案の定中身はなかなかよかった。
爬虫類ペットショップの息子である環に、なぜかよく知りもしない美少女・さやが告白をする。男子校育ちで女に免疫のない環は、ドギマギしながらソッコーでOKしてしまうのだが…問題は、さやが爬虫類大好きである、ということ。環は爬虫類ショップの息子でありながら、爬虫類を扱うのは大の苦手なのである…あぁ…好きな人に絶対ばれてはいけない。がんばる健気な環は、ついつい応援したくなってしまうキャラである。
一方のさやも女子校育ち。ほわほわーっとしている女の子だが、爬虫類大好き。愛する爬虫類たちを毎日愛でている彼女が、一生懸命環くんを甘やかす。ほほえましいね。2人とも初めてのお付き合いなのだろうが、お互いを大好きな気持ちが崩れることがないので、とても安心して眺めていられるリア充だ。
物語は環とさやちゃんの目線で進んでいくが、主軸は環。男子校の仲良し3人組についてあまり掘り下げていないのがもったいない。もっと掘り下げてくれればいいのに。メガネとさやの姉・葵とのエピソードなんて…これから盛り上がる要素たっぷりではないか!お互いが男子ばかり・女子ばかりの空間で生きてるせいで、お互いに対する好奇心と妄想がすごい。そしてそれをひっそり見守るお母さんが、いいところでいいセリフをくれる。子どもは親なしには成長できないもんだよ。とか言ってみる。
環だってがんばるのだ
いい奴なんだよ環って。ヘタレだが、さやの誘惑があっても家の仕事だからと断ったり、爬虫類が嫌いだからって母親から頼まれた仕事を投げ出したりしない。怖いなりに歩み寄る・大切にしたいものを一生懸命大切にするのが環である。さやも自分が爬虫類ペットショップの息子だから好きになってくれたんだろう。がんばって興味のあるフリしとかなきゃ…と背伸びする環。自信がなくても嘘をついても、君を大切にしたい。嘘はダメだけど、そんなひどいものでもないので、応援してしまう。
しかし、思春期の男の子の体はとても正直。もしさやちゃんだったら…って想像してつい失敗してしまったり、さやちゃんに名前を呼ばれた…って思い返すだけで心臓が飛び出るほどドキドキしてる。反応がいちいちピュアでかわいらしい。男の子って、自己処理するときとっても大変なのだ。
少しシュールなのは、パンツを洗ってる最中にお母さんが出くわすとき。うん、まー汚さないでよってさらっと流せるお母さん。茶化しても仕方ないけど、息子の成長をきっと感じているはずだ。真顔なのが若干シュールな描写である。
ほわほわさやちゃんの魅力
さやは見かけによらず積極的。中身を知ればその通り若干Sな一面を持つ女の子である。爬虫類が好きだということ以外、あまり目立って特徴的な子ではない。表裏の区別はなくて、正直で優しくて。自分が好きになった人に自分から告白できる勇気ある女の子である。
場所もずいぶんと思いきっていて、大勢人がいてもお構いなし。ムードが大事だと言うが、それは男から女への告白の場合であって、逆に女の子の方から告白しようとしたら、むしろ人が大勢いたほうが緊張がまぎれるのかもしれない。ロマンチックな告白ではなかったが、自然体で告白するところ・そして環がOKするところ、両方かわいらしかった。
さやは環が爬虫類がものすごく苦手であることを承知の上で付き合っている。実は、嫌いなのに一生懸命お世話をしている姿に恋をしたのであった。実はさやの姉妹みんなが環のペットショップにお世話になっていたので、環の存在はすでに知られていた。よかったね環。背伸びしなくても、さやはちゃんと環のがんばりを認めてくれているんだ。「苦手なものでも理解しようとする姿勢」というのは、恋とか人間関係でもきっと同じで、だからこそさやも自分の事をきっと分かろうとしてくれるはずだって思えたのではないだろうか。
まだ環がそんな事情を知る前から、さやは環に爬虫類攻撃を仕掛けている。それはもう困っている環を見たいというさやのS根性だろう。そして、環に喜んでもらいたくて、女子っぽく料理をしてみたり、かわいくしてみたり、実はさやもがんばっているのだ。さやも環ともっと仲良くなりたいと思って努力中。いい組み合わせやね。
割とみんないいこと言うんだよね
4巻という短さだが、いい短編集だ。大きくとらえると、いつもの学校生活での人間関係は爬虫類の生態とも似ているらしい。それをうまーく毎回表現しているのは、けっこうな労力をかけてリサーチしているおかげではないだろうか。
そして、大事なところで心に沁みる言葉をくれる環のお母さん。子ども、というよりオトナ向けの言葉をくれる。
目の前に現れたら手あたり次第抱きつくのがこいつ。と言われれば、環たち男子校の男子の生態を表しているのが分かる。そして、寂しいときに他のトカゲに目が行って…っていう言葉を聞けば、環は浮気の心配をしてオロオロする。たまには不安も煽ってやらねば、という母の愛である。実際には環とさやの周りに要注意人物はまったくもって存在しないから大丈夫なのだが。また、目に見える位置にカメレオン同士がいてはだめなんだ、という言葉。仲が良くたって、近くにいて迷惑をかけてしまうことがあるってことを教えてくれる。同じ仲間でも節度が大事。親しき中にも礼儀あり、ということだろう。
爬虫類が環とさやの恋のキューピッドであるため、爬虫類抜きには語れないのである。同じ生き物だからね。似ているところはきっといっぱいあって、極論、生きていくために必要なものに違いはないのかもしれない。お母さんの爬虫類豆知識と含みのあるトーク、いつも楽しみにしている。
中学生って未熟でいいよね
思春期の男女のかわいらしい恋。少女漫画っぽくはなくて、絆は確実に強まっていくけど、爬虫類を抜きにしては進まないこの物語。絵柄もストーリー展開も癒し系で、オトナこそ癒されるお話たちである。さらっと読めるので、軽く手に取ってほっこりできることだろう。
初恋って大切な思い出だが、やはり女の子から男の子に告白するのは相当な勇気がいる、というイメージがある。でも女の子ががんばると、男の子ががんばるより輝いてる気がする。世の中の女の子たちは、いつまでも待ってないで突っ走ったほうがいいのではないだろうか。仕事と同じ。恋も正面突破してもらいたい。
環にも多少は女の子のようなところがあったし、探り探りではあったけれど、環とさやはお似合いの安定カップルへと成長する。やきもちをやくときがあるが、別れの危機はない。途中からもう爬虫類の気持ちを知るために読んでいた感すらある。未熟な中学生のもじもじした雰囲気は、いつ見てもニヤッとするもの。この時の気持ちをいつまでも忘れずに、恋するときはいつでも全力投球で挑みたいものだ。慣れたとか言って恋を捨ててしまっては、すぐに歳を取ってしまうきがする。癒されたいときにまた読み返して環とさやに会いにこようと思う。
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