かなり酷評受けてたけど思ったより良かったかも - 食堂かたつむりの感想

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食堂かたつむり

3.333.33
映像
3.50
脚本
3.33
キャスト
3.67
音楽
3.50
演出
3.33
感想数
3
観た人
4

かなり酷評受けてたけど思ったより良かったかも

2.02.0
映像
2.5
脚本
2.0
キャスト
2.5
音楽
2.0
演出
2.0

目次

小説よりは良かった、ような気がする… 

この映画は2010年の公開時に多方面でかなりの酷評を受けていたと記憶している。

私は原作小説を先に読んでおり、正直なところ小説にもあまり感銘を受けなかったので、映画にも多くの期待はしていなかった。

そのためか、思うよりは良いように感じた。

 

ざっくり言えば、原作小説は作り手の思い込み(本人は思い入れと思っているのかもしれない)だけで話が進行している。

部分部分の言いたいことは予想は付くが、それにはこの演出はやっちゃだめでしょ、というアラが目につく。

更に全体を俯瞰で見ると、各シーンがかみ合わなかったりして統一性がない、面白そうな場面を思い付きで繋ぎ合わせたような作品だった。

 

映画も高得点を付けるレベルではないが、あの原作を題材とした割には頑張っていたのではないか、と思う。

以下で具体的に掘り下げよう。

 

不要な設定をミュージカル風コメディで流しちゃったのはナイス

小説でも映画でも、コツコツ貯めた現金や全ての家財道具をインド人の恋人に持ち逃げされてしまった、という共通の設定があるが、小説では主人公倫子がその異変に気付くところから始まる。

愛も金もお気に入りの調理器具も無くして、そのショックで言葉まで失った、という設定なのだが、実際の文章ではショックを受けているように読み取れない。

単純に原作者の文章力の不足によるのだと思う。

 

アルバイト先がトルコ料理店であることとか、恋人がインド人であったことなど物語に全く関係ない事を長々と語っている。

その後の展開に全く関わらないのだから、インド人である設定とか梅干しが好きなんて細かいデティールはいらないだろう。

そのどうでもいいところが細かい割に、声が出ないという普通の人間にとっては重大な問題が、どうでもいいことのように扱われる感覚に読者は付いていけない。

そして、作中では声を無くしたこは大して悲しい事でもなく困ってもいない、というような趣旨で書いているのに、作品のオチが言葉を取り戻したことであったりして、なんともバランスが悪い。

問題無いならそのまま物言わぬシェフで行けば良いし、声が戻って良かった、というエンディングならしゃべれない事の不自由さや辛さ、悲しみをもっと表現すべきだ。

 

そんな風に感じさせる小説版と違って、この劇場版では、いきなり実家の畑を掘り起こしているところから始まり、おかんとの対面を早急に済ませる。

本作は結局倫子おかんの関係性の話なのだ、と明確に示すという意味でこれは正解だと思う。

 

そこまでのいきさつをコミカルなミュージカル仕立てで説明しているところもいい。

この演出で、この話は真面目に見るレベルではなく、このお笑いな雰囲気で見てね、という意思を上手く伝えている(監督の意図は違うのかもしれないが、私はそう感じた)。

 

小説も映画も真剣に見るレベルの作品ではないが、それを踏まえている映画と、踏まえていない小説、という言い方がわかりやすいかもしれない。

そうだ。

結局、本作は真面目に見る作品ではない。

悪い意味でのファンタジー、飲食業への冒涜、命の冒涜、いろいろな問題をはらんでいるが、映画の方が明確に開き直ってコメディ化しているだけマシである。

 

倫子の料理で起こる奇跡の映像表現

倫子の料理で何かの良いことが起こる時の表現として、花柄を画面の上下左右に配して、チャラリリ~ンという効果音を入れることで、はい、奇跡おこりましたー!!と観客に印象付ける演出も分かりやすくていい。

 

彼女は映画封切り時のコメントで、企画モノということで、プロデューサーからの要求が多かった、という趣旨の発言をしている。

恐らくだが、小説がけっこう売れているので当時そこそこ人気があった柴咲コウを主演させて、映画通をうならせるような作品ではなく、若い女性や一般主婦層にわかりやすくてキャッチーに売れる作りを要望されたのだろう。

 

CGの手作り感あふれる(安っぽい)作りが、テキトーなストーリーしかない本作にマッチしていて、ある意味原作の雑なテイストをそのまま出した富永まいという監督はナカナカやるな、と思えた。

どうかと思う演出・1

全体にあの原作小説を料理するのに苦しんだんだろうな、と監督や脚本家に同情しているし、そこそこ頑張ったのではないか、と評価しているが、苦言を呈したい部分もある。

その最大の部分はエルメスの屠殺に対する倫子のありようについて、だ。

原作小説は、エルメスの解体の責任者として倫子が自ら手を汚しているが、本作では屠殺は他人任せにし、エルメスはいきなり豚肉になって彼女の前に現れる演出になっている。

軽く見ることができる映画として屠殺シーンは無し、というのはプロデューサーあたりの意向だろうか? 

しかし原作小説の中で唯一と言ってもいいようなマトモなシーンを外してしまったのはちょっといただけない。

ソフトタッチにするなら、最後のハトは食うべきではない。

原作では食堂かたつむりの壁(窓だったかな)にぶつかって死んだハトを、母の使いと見立てて無駄にせず食べる、という説明があるがこの劇場版では何もないので、唐突過ぎてこの映画がホラーとカテゴライズされる原因になっている

母を感じさせるアイテムなら、例えば大事にしていたサボテンとかで良いのではないか。

あるいは母が残した食材でもレシピでも何でもいいはずだ。

料理上手な祖母に教えてもらって頑張って何かを作った古いメモを見つけてそれを再現して見ると、祖母と母と倫子が三代に渡って食でつながる、という手もあったと思う。

 

どうかと思う演出・2

おかんの憧れであった(いいなずけという謎表現もされている)修一が、なんとなく行方不明になった小説版に対して、映画ではバンジージャンプで流されて生き別れという表現になっており、納得感はゼロだが小説よりはマシに感じる。

とは言えどっちにしてもこんな設定が必要なのかはさっぱりわからない。

 

いいかげんで自堕落なダメ女と見せかけて、映画が進むにつれて、実は尋常ではない恋愛観を持つことや、常に娘を気に掛ける繊細さも持っている。

ずっと母を嫌っていた娘がそれに気づくのは母の死が確定してから。

 

このアウトラインは感動的なはずなのだ。

しかし、不必要な意外性と伝わりにくい演出の連発で、実は悪いわけではない母、あるいはダメな女だけど隠し持っている娘への愛という大事な部分が伝わってこない。

 

クライマックスに程近い、おかんの結婚式も謎だ。

その地域に根付いてスナックを長年営んでいるのだから、地元のルリコママ(=おかん)ファンをモブで入れるべきではないか?

だって話の成り立ち上、おかんは食堂かたつむりの開業に出資する程度に経済的余裕があり、あの外部の人があまりこないであろう山村のスナック一軒でその金を稼いでいるのだから、かなりヘビーな常連に支えられているはずではないだろうか?

余命いくばくもないおかんが、気心が知れた人だけでこじんまりと結婚式を、という希望をした可能性もある。

そうであれば、倫子の友人や食堂かたつむりの客が入るのは付き合い出席者の不思議でしかない。

画面をにぎわせるための演出であれば、桃ちゃん役の志田未来(映画公開当時17歳!)に可愛いかたつむりマークを入れたエプロンでもつけさせて手伝いをさせるだけで十分ではないか?

どうもそのあたりの細かい気配りが少ない割に、エルメスに乗って空を飛ぶ能天気なイメージシーンが鼻につき、おかんの人物像が薄っぺらい。

 

この映画の位置づけ

何しろベストセラー小説を企画的に持ち込まれての映画化なので、製作陣に大きな自由度は無かったのだろうと予測するに、まあまあ、と言って良いと思う。

死んだ鳩食うか? という部分は確実に変えるべきだったとは思うがそれ以外は、酷評を受けるほどではない、と言ったところではないだろうか。

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2010年公開119分原作は小川糸の同名小説「食堂かたつむり」監督 富永まい出演 柴咲コウ 余貴美子主人公倫子(柴咲コウ)の夢は自分の料理屋を開くこと。そんな倫子はある日、恋人に家財道具一式を持ち逃げされたショックから声を失ってしまう。故郷に帰った倫子は自由奔放な母ルリコにイライラしつつも、一日一組の予約制の店「食堂かたつむり」を開くことを決意する。そんな中、母ルリコが末期の病だと知り……。とてもかわいらしい映画だ。心理描写は単純で幼さがあるが、軽く観れる良さがある。ところどころに使われているCG合成がややチープなのが気になるが、女の子らしいかわいらしい世界観が魅力だともいえる。観ていてとても心地いい。声が出ない倫子を柴咲コウが熱演。セリフなしの表現は難しいのでは…と思われるが、それを微塵も感じさせない演技力を魅せる。あのギョロっとした目ですべて表現しているといえる。柴咲コウの衣装がかわ...この感想を読む

3.53.5
  • ayaaya
  • 71view
  • 512文字

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