刑事アクション映画のジャンルを革新的に飛躍拡大させた伝説的な作品 「ダーティハリー」 - ダーティハリーの感想

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刑事アクション映画のジャンルを革新的に飛躍拡大させた伝説的な作品 「ダーティハリー」

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.0

「ダーティハリー」は、"刑事アクション"というジャンルを革新的に飛躍拡大させた伝説的な1本だ。もし仮に、"刑事アクション・ベスト10"というものがあれば、この映画は間違いなく、ベスト3までには必ず入る作品だと思う。

この傑作に加え、この映画の先駆的な役割を果たした、スティーヴ・マックィーン主演の「ブリット」、あるいは「ダーティハリー」と同時期に公開され、これまた伝説的なジーン・ハックマン主演の「フレンチ・コネクション」。この3本は"刑事アクション"に新風を吹き込んだ御三家であり、これらの映画が公開された時代を、"刑事アクション映画ルネッサンス"と呼んでもいいと思う。

マカロニ・ウエスタンでスターとなって本国アメリカに凱旋したクリント・イーストウッドが、「殺人者たち」などのハードボイルド活劇に定評のあったドン・シーゲル監督と初めて組んだのが「マンハッタン無宿」。ニューヨークにやって来たアリゾナの保安官が、凶悪犯を追撃する話ですが、これが後の「ダーティハリー」の原型になったとも言われています。

そして、イーストウッドは、シーゲル監督と西部劇アクション喜劇の「真昼の死闘」、不条理スリラーの隠れた傑作「白い肌の異常な夜」とコンビを続けて、ついに4本目でこの「ダーティハリー」を生むことになるのです。

因みに、逸話として有名なのは、ダーティハリー役は当初フランク・シナトラとジョン・ウェインにオファーされていたが、シナトラは足に怪我をしていてアクションは無理という理由で、ウェインは現代刑事物はやったことがなく自信がないという理由で、結局、イーストウッドのところに持ち込まれたということです。もし、シナトラが怪我をせず、またウェインの気持ちが出演へと傾いていたら、イーストウッド=ハリー・キャラハン刑事は誕生しなかったのです。これも、まさしく運命的なもので、後に、ウェインが「あの時、出ておけば良かった」と悔しがったと言われているほどです。

映画のストーリーは、サンフランシスコのビルの屋上から眼下のプールで泳ぐ美女が狙撃されます。犯人は、サソリ(アンディ・ロビンソン)と名乗る凶悪犯で、市の当局に10万ドルを支払え、さもなくば市民を次々と無差別殺人するぞと脅迫してきたのです。そこで、"ダーティハリー"と異名をとるはみ出し刑事のハリー・キャラハンと、サソリとの死闘が始まるのです------。

とにかく、この映画はテンポがすごく速い。サソリを追う本筋の合間にも、次々と事件が起きます。B級アクション映画を得意としたドン・シーゲル監督らしいサービス精神満点、見せ場たっぷりの、娯楽映画の王道を展開していきます。

この映画の大ヒットにより、"ダーティ"という言葉が流行語化し、その後、様々な映画の題名に取り入れられたほどです。そして、このダーティという形容詞を、単なる汚い、不潔(公開時の字幕では、"お不潔ハリー"となっていたそうです)ではなく、横紙破りの、アウトロー気質の、といったカッコいいニュアンスに昇格させたのですが、この映画の中での真の意味は、人が嫌がるダーティな仕事ばかり引き受けることから「ダーティハリー」と呼ばれたのです。

サンフランシスコのはみ出し刑事と、凶悪で知能的な連続殺人犯との私怨に満ちた攻防戦。それは、もはや善悪をも超越した1対1の死力を尽くしたデスマッチなのです。そして、イーストウッドのカッコ良さは言うまでもありませんが、対するアンディ・ロビンソンのファナティックな悪役ぶりが、物凄いのです。特に、暴力刑事のハリーにリンチに遭ったとして、ボコボコに殴られた顔でマスコミの前に現われ、ハリーを窮地に追い込むあたりの狡猾さは敵ながら実にあっぱれです。

ハリーのカッコ良さについて言えば、ハリーがたまたま出くわした銀行強盗を解決する場面で、ホットドッグを食べながら、この黒人の強盗に愛用の44マグナムを突き付け、"俺も何発撃ったか覚えちゃいねえ。弾が残っているかどうか、賭けてみるか"とブラフをかます名シーンがあります。このシーンの「弾丸が残っているかどうか、考えてるんだろ。実は俺にも分からねえんだ。だが、この44マグナムは特注のしろものだ。これでズドンとやられりゃ、脳ミソはぶっ飛び粉々さ-----よく考えろよ」と言うハリーのセリフは、アクション映画史に残る、まさに名セリフ中の名セリフだと思う。

これは、後に"ハリー"の名物になる、本筋とは関係ない強盗退治を、いきがけの駄賃的にやっつけるという趣向として、「ダーティハリー4」では、コーヒー・スタンド強盗を「ゴー・アヘッド・メイク・マイ・デイ(遠慮なく撃てよ。俺もだまっちゃいねえ)」といなし、「ダーティハリー5」では、中華飯店での強盗を前に、卓上のおみくじを引き「ほら、お前に凶とでたぜ」と言って、ズドンとお見舞いするのだ。

この映画の最初のシーンでの「賭けてみるか」は、ラストでのサソリとの決戦で有効に使われる伏線となっているのです。このシーンで、子供を盾にするサソリを、人質にかまわず撃ちますが、この強引なやっつけ方は、その後のスティーヴン・セガール主演の「死の標的」で取り入れられていました。

主人公のハリー・キャラハン刑事が、暴力的すぎるとか、上司や検事があまりにも無理解だとか、確かに突っ込みどころは多いと思う。だが、これらはあくまで、"刑事アクション"を盛り上げるためのお膳立てにすぎないのです。ダーティハリーとは、まさに大都会に舞い降りた"西部劇のヒーロー"なのです。

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