最強の公式同人誌登場!
過去作品は忘れろ!以上だ!
一応「エンジェル・ハート」の位置づけをざっくりと説明すると、北条司先生の代表作「シティーハンター」がベースになっています。あくまでベース。元作品というレベルでして、作者が公式同人誌を作っちゃった!しかもクオリティーがめちゃくちゃ高くて単行本価格で買えるという感覚で読める作品です。
逆に元となった「シティーハンター」への思い入れが強すぎる人や、パラレルワールドという世界観が苦手な人は読むことが苦行になるレベルですね。エンジェル・ハート内に登場している既存のキャラクター設定が大きく異なる事はありませんが、なんていいますか、肝心要の冴羽獠がですね、若干元作品とは性格がゆるく穏やかになっています。そして本作の主人公は、冴羽獠ではありません。台湾から来た少女・香瑩になります。ですから本作のほとんどは、香瑩目線で繰り広げられます。
ですから、過去の「シティーハンター」が最高主義と感じる人には絶対無理。読書後感想を言い合うと、ケンカになってしまうレベルで話が異なりますから。シティーハンターがハードボイルドかつコメディー要素も満載で時々ラブ要素を持った作品だとすると、エンジェル・ハートのメインテーマは家族愛です。もちろんシティーハンター時代の良きバトルシーンは残っているものの、メインテーマはあくまで家族愛。青年コミック扱いですが、本編の内容は少女コミックでも通用するほど愛がテーマになっています。
愛が重いが気にしていたら先は読めない
北条先生が週刊連載中に「4週間後に打ち切りな!」と当時の担当編集から宣告され、描ききれなかった「愛」を中心に描かれている本作ですが、まとめると「愛が重い」んですよね。
主人公の香瑩は、元々は台湾マフィアの娘です。2歳の頃に父親の部下により母親ともども車ごと海に沈められるというハードな生い立ちを持っています。母親はこの事件で死亡しますが、香瑩は行方不明扱いとされ、別マフィアの元で殺し屋としての人生をスタートさせます。繰り返しますが、この時期が2歳ごろ。まあ実際問題、2歳ごろと言えば幼少期の記憶が残りにくい年齢ですよね。
で、立派な殺し屋に成長した香瑩ことコードネーム「グラス・ハート」は、度重なる暗殺命令で心が病んでしまいます。ええ。殺し屋に成長したとはいえ、まだ15歳の少女なんですよ。無意味な殺傷に何の意味があるのか、悩んだ結果、香瑩がとった行動が飛び降り自殺です。うーん。なんとも現代の少女らしい選択ですね。ですが、ここで香瑩を救ったのが、冴羽獠の恋人の槇村香(故人)です。
飛び降り自殺を図った香瑩に、交通事故で死亡した槇村香の心臓が移植されます。
これも現代風に言えば医療事故で絶対にありえない感100%ですが、漫画のご都合主義として致し方ない表現と思います。心臓移植手術が成功し、香瑩には香の"自我"が宿ります。そう、香瑩という少女の体を通して、香もちょこちょこ登場します。
エンジェル・ハートは、香瑩・冴羽獠・槇村香の3人が「事実上の親子」として家族になっていくストーリーでもあります。
もちろん先述したとおり、香瑩は台湾人。冴羽獠・槇村香の2人も生前結婚式を挙げていないため、3人とも他人のままです。が、生活を共にし、シティーハンターという仕事をこなして行く上で、香瑩は冴羽獠を「パーパ(義父)」と、槇村香に対して「マーマ(義母)」という感情が芽生えます。感情が芽生えたあとは、割りと普通の少女として成長していくストーリーですね。
画力◎。描写◎。設定△という残念さ
シティーハンターに出ていたキャラクターを、作者本人が使って公式二次創作作品を作った。そんな感じのエンジェル・ハートですが、さすが北条司先生と言える描写があります。それは、画力の高さと描写の丁寧さです。線のタッチがシティーハンター時代よりも細く滑らかで、いわゆる「現代風のコミックタッチ」へと変化しているんです。週刊少年ジャンプ時代も描写が美しい作者ですが、ますます表現に磨きがかかっていまして。特に美女たちが登場するシーンは、大人の色気もたっぷりに堪能できます。ですから、画力と描写は◎。
ですが、ストーリーの肝となる設定が残念すぎるんです。まさに公式同人誌!作者じゃなくても思いつくような設定がいたるところに転がっています。話の構成も1つのメインテーマに対して数話を使いますから、エンジェル・ハート内でもキャラクター同士の矛盾を感じてしまうんですよね。特に冴羽獠は、キャラがころころと変わります。15歳の香瑩に対して、あまりに過保護で過干渉な一面もあり、それは「槇村香の心臓を移植した少女だから」なのか「1人の人間に対して」なのか、気持ちが揺らいでいる描写からかと思います。
香瑩目線で読み進めると、人生ハードモードでスタートした彼女にとって「心臓を新たに入れ替える=第2の人生を東京・新宿でスタート」とも受け取れる作品です。
残念なのは、心理描写もバトルシーンも感動シーンも満載なのに、公式同人誌の枠を超えない点ですね。良くも悪くも、最上級の二次創作作品を読んでいる心境になります。
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