最後まで人間に奇跡はなかった
レムもU7も同じ人間
レムが大切な人を守ろうとすることと、U7が人類全部を守るためにデカい敵を倒そうとすることと、どちらも同じなのだが…要は、U7の奴らはレムの力を認めていて、自分たちのチームを抜けたことを許せないでいる、というわけである。公的機関だからできることもあるだろうけど、貧しい一般人だからできることもある。ただ大空を見上げて、未知の何かに縛られることなく生きていきたいと願っている人間たち。ソラリスを打ち砕けばいい!って思っているか、ソラリスから身を守って生きればいい!って思っているかで対立しているうちは、あんなデカい敵に勝てる気がしない…。
こっちから見ていれば、U7はものすごく強く、賢く、敵を倒すことができそうだが、結局は人間であるため、人知を超えた力は出ないらしい。レムに至っては、なぜそんなに重要な人物として扱われるのかが謎なほど、強さが目立たない。誰かを守っているときは特に、そちらに気を取られて集中できない様子。いざ自分が捨て身で挑んだところで、やはり人間。ソラリスはあまりにも大きく、キューとクーに対抗できる術がもはや見当たらなかった。
上級階級の者が暮らす都市では、人工で空をつくって本当の空は見えないというかわいそうな感じ。現実が目を背けて生きている感じがする奴らである。一般市民は、常に恐怖と隣り合わせだが、貧しくも確かに空があり、それなりに地を這いつくばって生きようとしている。そのあたりをもっと語ってくれても良かったのではないかと思うが、ソラリスの定義がデカすぎて、もはやどうでもよかった。
ソラリスの謎
割と早くその正体は明かされたが、タイムスリップできるような能力がある時点で、ソラリスに人間が勝てる気がしない。何億年も前から、地球という星の美しさを気に入ったソラリスがデータを集め続けてきたという事実。データを集めるためにキューとクーはいたということ。世界がおかしくなり始めたのはほんの最近であること。すべてがソラリスのせいというよりも、人間のせいである…と言っているようだ。美しかった世界を壊したのは、結局どちらだったか?問いかけられている。
なぜソラリスと目が合うことでデミが生まれるか?を考えれば、この背景を聞かされると納得がいく。地球のように美しいもののデータをとりたいと考えてきたのがソラリスであるから、似た生命体を生み出しているつもりだった、と言えるだろう。人間は分かり合えるほどに強くなく、脆く、恐怖心の塊であったため、結果的に人間に襲い掛かっていることになってしまったが、知ろうとする単純な探求心だけだったかもしれない。キューとクーが人間に近いフォルムをしていることも、そのほうがデータ収集がしやすかったからであろう。今まで軍事力に力を入れてきたことも、意味なかったのである。むなしい展開だった。
自分たちのことしか知らなければ、それこそもっと大きなものの存在に気づくことはない。井の中の蛙状態である。どこまでいっても終わることのない知らない世界。すべてを知り尽くすことは人間1人の一生では到底叶わない。なんかもう普段の悩みなんか、捨ててしまったほうがいいと思う。
クーが覚えていったこと
そもそも地球の生命ではない何かに、心があるのかどうか、同じ考え方ができるのかどうかはわからない。話せばわかるというほうが無理そうだ。だから排除するか?とか考えると相当難しくなる。それはやっていいことなのか…とか躾けられた正義が邪魔をするかもしれない。地球ではない星ではどうでもいいことかもしれない。
クーは記憶を失っていたことによりいろいろと人間側の事情を覚えていったが、宇宙がみんなそうだったらいいなとは思う。生まれて、形が変わっていって、散って、またどこかで生まれる。その繰り返しが宇宙で起きていて、地球もその1つなら、分かり合えることもあるのかも。
クーが食べることや、人間と触れ合うこと、大切な人を守ろうとすることを覚えてくれたことは幸運だった。人間はソラリス・キューの前になすすべなく、最終的にクーがソラリスたちをもとのところへ連れ帰ってくれて物語は終わる。たくさんの人の命を失い、いろいろなものを失ったが、これから人間は教訓を生かして驕らず懸命に生きていくことができるだろうか…?これ以上うまくまとめられないから、物語は終わってしまったのかもしれない。確かに、この先どうなるか、全然よめそうにない。
いつの日か、宇宙へ人間が旅できるようになったら、どうなるのであろうか。価値観をぶっ壊してくれるような何かに出会えるだろうか。知らないほうがよかったと思うことがあるだろうか…宇宙は怖いが、やはりワクワクするテーマだ。
絵のうまさは光っている
レムといい、U7といい、やはりバトルシーンはかっこいい。雑なところは少なく、細かな描写が美しいと思う。子どもたちも重要なキャラであり、気合を入れて描かれているようだ。デミのキモさも丁寧である。キモい奴らを丁寧に描く作者さんは、たいていその他も綺麗に描くことができている気がする。ストーリー重視で絵がゆるい作者さんもいるが、やはり見た目がいいと読みたくなる。まぁ好みの問題だ。
謎の無敵艦隊も、相当時間をかけて描いたのではないだろうか。恋愛はほとんどないが、少年誌の好きそうな女性はよく出ている。クーとキューの見た目も萌系のキャラが好きな層には良かった気がするが、何しろけっこうな窮地になるまでレムは主人公らしからず後ろ向きで、結局のところソラリスに勝つこともできず、クー頼みであったことが残念だった。クーの能力はどちらかというとガサツな感じで、神秘的なものではない。キューも攻撃的で、容赦がない。悪の組織でもいて、順番に強い奴が出てきてくれるならわかりやすかったのかもしれないが、逆に実は敵が敵じゃないとなると、子どもが読むにはわかりにくくなる気がする。ギャグっぽさを出すならもっと出しまくってもらいたいところだ。
あの終わり方は良かったと言えるのか
クーは明らかに人間ではないし、敵と何らかの関係があることは初めから明白。ずっと協力し合えるような存在でもないことはわかりきっていた。人間をあまりどうとも思っていないキューの前に、惨敗だった人間たち。クーのおかげで生き延びたのだから、どうか後世までクーのことを語り継ぐことだけは忘れずにしてもらいたい。4巻で終わっているため、レムがU7を抜ける前のこと、ちらっと出てきた悪そうな人たちとの関連、クーの生まれたときのことや、ソラリスのもとの世界のことなど、聞きたいことを山ほど残している。もはや教えてくれることはないだろうから、残念すぎる。
全体としてありきたりで特徴がないのが残念だったが、非力な人間をみせられて、深い考察はできた気がする。ネガティブをみて逆にポジティブな気持ちになるというのはまさにこのことだろう。せっかくクーに人情ってやつを伝えられたのだから、キューにも同じように何かが起きたらよかったのかもしれないが…そんな簡単にいってもなんかおもしろくないし、早々に切り上げられてよかったとも言えるかもしれない。
せっかく大空を見上げることができる地球に戻ったのだから、自由に生きていることのありがたみを忘れずに、これから元気に生きていってくれたら嬉しいなと思う終わりだった。人間に奇跡みたいなチカラなんかないからこそ、がんばって生きていこうと思う。
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