グロいものほど丁寧に・ストーリーはひねりなしで直球
抜け忍レムの生きる道
「自分の手の届くところだけ守れればそれでいい」
これがレムの信条です。U7の奴らは、それを偽善と呼び、臆病者だと蔑みますが、結局のところこの考え方はU7のやろうとしていることとそんなに変わらないですよね。自分の力で守りたいものを守ろうとする、その点が共通しているし、何よりその部分があるからこそ闘っている。ただ権力のもとにある程度の制約を課せられているかいないかの違いです。権力のもとにあれば、ある程度の公的な力を行使することによって乗り越えられる壁がたくさんあるだろうし、自由のもとにあれば、自由だからこそ乗り越えられる壁がたくさんあることでしょう。お互いの目指すべきものは同じで、ソラリスのない大空を見上げて生きていきたいということだけなんですよね。
最初の登場では、そんなにレムの強さは目立ってない…というか、終始そんなに強い気はしないんですけど、気のせいでしょうか。しいて言えば「賢い」ということであると思います。生き抜く道を考えて行動できるし、時には情に流されるときもあるけれど、基本的に冷静に物事を判断できている、今までくぐってきた修羅場がいかほどのものだったのか、そのあたりもう少し詳しく教えてくれてもよかったのになーとも思いました。
上級階級の者だけが暮らす、人工の空のある都市と、貧困が蔓延しながらも、強く生きている都市。たいていの物語では、この辺に着目した作品が多い気がします。しかし、このQ(クー)では、“ソラリス”と“人間”という対比に絞って描いていますので、人間は大きくはひとまとまりになってる印象です。軍とU7に確執があろうが、その辺もあまり詳しくは語られてません。1つの強大な敵を前にすれば、価値観の少しくらいの違いは気にならなくなる。少し飛躍してしまうんですが、人間が生きているための必要悪のようなものにすら感じてしまいます。
ソラリスはそんなに悪くない
結局のところ、ソラリスって悪い存在じゃなかった。しかもなんとずっと太古の昔から、この美しい地球のデータを採取し続けていたようです。レムたちがタイムリープして恐竜の生きていた時代に飛ばされて発覚したのですが、いやはや、突然そこに現れた宇宙の生命体ってわけではなかったんですね。そして、キューとクーはそのデータを得る係になっていた。世界がおかしくなり始めたのはほんの10年前。ソラリスがデミを生み出すようになったからでした。美しかった世界を壊そうなどとは、望んでいなかったでしょうに…悲しいものですね。
ソラリスと目が合うと、デミが生み出される。このシステムの事を深く考察してみると、同じような形で、地球の生命体に似たモノを生み出したかったのかな、って考えます。ただ、興味があるだけ。小さな人間の命は、分かり合えるほどには強くなくて、簡単に崩れ去っていく。U7隊長があきらめようとしたのもすごくよくわかります。相手がでかすぎる。倒す倒されるの次元ではなくて、全部を覆すほどの能力を持った相手なのですから。自分がちっぽけであることを痛感してしまいます。
日々いろいろなことに悩み、どう生きていくかを考えていても、それは歯車の1つにすぎない。ただ、その歯車があってこそ、脈々と人は血を・知恵を次の世代へと受け渡して生きてきた。私たち自身がここに在ることも、これからの子どもたちが在ることも、感慨深い気持ちになります。そしてそれを、美しいと感じてくれたのだと思うんです。
地球外生命体に心はあるか
地球外生命体と分かり合えるのか。これは本当に謎で、だって心があるかもわからないし、次元が違いすぎて会話になるのかもわからないし…漫画の世界ではいかようにもなりますけど、この点は永遠のテーマですよね。いつか光よりも速い何かを得て、宇宙へ人間が旅できる時代がやってくるのでしょうか。そして、相手と取引できるほどの何かを持てるようになるのでしょうか…ワクワクもするけど、怖い気もするし、宇宙って…ミステリアス。
クーは記憶を失っていて、食べることだけが唯一人間と共通していたところでした。食べ物を得るためだったレムとの約束も、孤児の子どもたちとの生活も、日々の出来事すべてが楽しさ・や嬉しさといった感情をクーに教えていきます。どんな生命体でも、生まれたばかりのころは何にでも分化できるような細胞を持っているのでしょうか。そうすれば、クーみたいに、特定の環境に順応することでそれ相応の成長を遂げることもできるかもしれません。快刺激がそもそも人間と同じなの?って思うんですけど…これは、同じだったら嬉しいなって思うので、そういうことにしておきたい…笑。自分の知らないモノを、「心がないもの・怖いもの」と考えると、それこそエイリアン、プレデターみたいな恐怖を煽るような存在がイメージされてしまいます。逆に、自分たちを超越した存在だけど、理解ある存在なんだとしたら…夢はふくらみます。宇宙をテーマに入れる作品では、可能性がとにかく無限大だなってワクワクさせられます。
イラストのクオリティの高さは素敵
この「Q(クー)」のいいところは、やっぱり絵が綺麗なことでしょうね。1人1人かっこいいですし、子どもも手を抜くことなく描かれていると思います。特に、風景、デミなんて…とにかく細かい。主人公に気合い入れすぎて、後は残念になってしまう作品も多い中、これは楽しくなるところです。というか、グロい系の敵を描く作家さんって、うまいですよね?グロさに手を抜かないから、人物も美しく描けるのでしょうか。
デミでハエみたいなやつが登場したんですけど、そこまで目を細かく描くの?ってぐらい、緻密でした。都市もぶっ壊されているけれど、ぐちゃぐちゃすぎずにちゃんと描かれているし、軍の自称無敵艦隊も、ガンダムみたいなかっこよさがありました。ストーリー的に色恋は全然ないですが、大人の女性の魅力はしっかり描かれてましたね。クーとキューのフォルムがほぼ人間の子どもなので、そこはかわいい系萌の方々の心をつかんでいると思いますね。
ラストはハッピーエンドと言えるのか
ストーリー展開的には、ありきたりかもしれません。クーはどう考えても宇宙由来の何かだったし、ソラリスと関係がないわけがないし、いずれは去っていくことも簡単に予想できましたしね。キューの前にあっけなく散るU7も哀れで、結局は人間にはどうにもできない力だったことを思い知らされた4巻だったように思います。シリアスなはずなんですけど、シリアスにはなり切れないギャグ感もあり、どっちつかずな印象も否めません。
4巻という短さで終わってしまったので、まだ語り切れてないのでは?という点もあります。それこそ、レムの過去だったり、クーのこと・星の事だったり、なれそめだったり。ある程度予想はできることだったのですが、教えてくれてもよかったね。
最終回では、クーがキューを連れて自分たちの本当の世界に帰って地球のことを報告しようってことで終わり、人間たちは久々に大空を清々しい気持ちで見上げた…という終わり方をします。これでよかったのかもしれないけど、敵がいるようでいない、ソラリスに振り回された人間たちが、また前を向いて生きていく。ただ、何度だって前を向く。これが人間だ。みたいなね。ハッピーエンド…なのか?非力だからこそ結束して、美しいような、哀れなような…?人間ってできること少ないって改めて感じますね。
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