華麗と深遠の交錯に頽廃美学の極致を描く、ルキノ・ヴィスコンティ監督の畢生の大作、執念の一作 - ルードウィヒ/神々の黄昏の感想

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華麗と深遠の交錯に頽廃美学の極致を描く、ルキノ・ヴィスコンティ監督の畢生の大作、執念の一作

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.5
演出
4.5

この世界的な芸術派監督ルキノ・ヴィスコンティの「ルードウィヒ 神々の黄昏」は、19世紀半ば、父王の亡き後、19歳で南ドイツのバイエルンの若き国王となり、だが、やがて"精神錯乱"を理由に王座を追われ、41歳で謎の死をとげた、ルードウィヒ二世が、この映画の主人公です。

そして、これは、華麗と深遠の交錯に、頽廃美学の極致を描く、映画史上、最高の芸術派監督ルキノ・ヴィスコンティの畢生の大作、執念の一作なのです。

もっと、直截的に言えば、イタリアのミラノの名門の貴族出身で、遂にその生涯を独身で通したヴィスコンティ監督が、その晩年に"偏愛"を捧げつくした、美男俳優ヘルムート・バーガーへの、思いのたけの恋文、最高至上の贈り物ではないかと思える映画なのです。

頬の剃り後も青く、まさに身震いするばかりの美しい皇太子から、自らを荒涼の隠遁に沈めていく中年までを、ヘルムート・バーガーがまた、なんと戦慄的な魅力で演じていることか。

繊細で純粋で、敬虔なカトリック信者でもあったルードウィヒ二世が、凛然の気品を持って即位し、だが政治よりも詩を、社交よりも真夜中の彷徨を好み、ワグナーを賛美し、宮殿建築に浪費し、国政から遠ざかり、孤独に閉じこもり、遂には廃位に追い込まれていく。

そして一夜、主治医と共にベルクの小離宮の湖の浅瀬で、王の溺死体が発見されるのです。それは自殺か、それとも事故死であったのか、それとも------。

こうしたドラマに登場するのが、ルードウィヒ二世の従姉で、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフの妃エリザベートです。史実では、確か彼女の方が8歳年上だと思うが、この役を、ロミー・シュナイダーが演じているのは非常に興味深い。

なぜならロミー・シュナイダーが、かつて若き日のまだ17歳で演じた出世作「プリンセス・シシー」こそ、エリザベート皇后の若き日の物語なのだから。そして、このエリザベートは、この作品でルードヴィヒが、生涯にただひとり恋した女性となるのです。

彼は年上の従姉の彼女に、誇り高く奔放な美しいエリザベートに魅せられ、共に雪の野に遊び、詩や音楽を語り合うのです。そうしたエリザベートは、年下の従弟のルードウィヒのひたむきな慕情を知りつくしながらも、彼に"王族"としての宿命に耐えて、現実に生きよ、と諭すのです。

二人のラブシーンは、抑制に情感があふれて、限りなく美しい。しかもなお彼女は、妹ソフィー(ソニア・ペトローヴァ)との結婚を、彼に勧めるのです。自らの思いを抑えて、皇后の毅然に生きるエリザベート------。

ルードウィヒが、エリザベートを訪問し、彼女に捧げた、白いりんどうの花を、彼女はソフィーに与えます。怒って、ソフィーと口もきかずに立ち去るルードウィヒ------。結局ルードウィヒは、ソフィーとの婚約を解消し、おとなしく控え目に彼を愛したソフィーを、悲しみの底につき落とすのだけれど、彼自身もまた、エリザベートとのかなわぬ恋の痛手から、美青年を愛するホモセクシュアルに溺れ、"狂王"の烙印を押されることになるのです。

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