無敵の人――麻雀漫画という高い壁―― - 無敵の人の感想

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無敵の人

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画力
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演出
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無敵の人――麻雀漫画という高い壁――

3.53.5
画力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
3.0

目次

少年誌に麻雀漫画で殴り込んだ「LIAR GAME」の甲斐谷だったが……

「LIAR GAME」によって一流漫画家の仲間入りをした甲斐谷が少年誌である「週刊少年マガジン」に満を持して連載したのがこの麻雀漫画「無敵の人」でした。麻雀が題材というのは少年誌ではヒット作「哲也―雀聖と呼ばれた男―」以来だそうです。
確かにマイナーゲームが題材なのですが、甲斐谷はそうしたものを書くことも得意としています。競馬を題材にした「ウィナーズサークル」がそうでしょうし、「ONE OUT」や「霊能力者 小田切響子の嘘」もメジャーなところから少し外れた部分を上手く突いた作品でした。
そして、「無敵の人」は甲斐谷自身が実際に雀荘で働いて取材をし、「LIAR GAME」を大ヒットさせた集英社から講談社に移ってまで書きたかった渾身の作品でした。

麻雀のゲーム性を漫画内に上手く反映できなかった

読者に次の展開を気にさせ、主人公の思わぬ機転や思考で状況を打開していく漫画としての面白さはいつもの甲斐谷漫画と同じです。主人公が天才過ぎるというのもLIAR GAMEを彷彿とさせますね。
では麻雀で天才というのはどういうことを指すのでしょうか?
甲斐谷は主人公である瑞樹の天才性を表現するために、ネット麻雀で一度も三位以下になったことがないという設定にしました。これはまさに異常な数字で、漫画内でもイカサマを疑われます。
この設定はどうだったのか――ということです。
少年漫画ははったりの世界です。とりわけ少年ジャンプのヒット作ははったりの連続で作られています。はったりは漫画的な面白さを増しますし、次にどんなはったりをかましてくれるのか読者のほうもドキドキして待っている節があります。
しかし、それははったりを許す世界観にしているから成立するのだと思います。
瑞樹は一度も負けないのですが、それは相手の「癖」を見抜くことができるからでした。
しかし、実際に麻雀をやったことのある人ならば当たり前のこととしてわかることですが、いくら相手の手が読めようが一回の勝負を通して自分に一度もよい手が入らないことが結構な頻度で起こります。何をどうやったって負けしかないということが起こる競技なのですよね。
では、以前のヒット作「哲也」がその問題をどうやって解決し、主人公に勝たせ続けたかというと、「イカサマ」と「運の流れ」でした。自分がイカサマをする。あるいは、相手のイカサマを見抜くということで純粋に技術や機転の勝負にすることができます。また少しオカルトめいた考えですが運の流れを掴むという虚構を織り交ぜることで、主人公が勝つことが必然だと読者に思わせることができました。
一方、無敵の人の瑞樹は、そうした要素を省いて、LIAR GAMEの秋山のように純粋思考だけで勝ちを手繰り寄せるのです。麻雀を少しでも知っている人は強い違和感を抱いたに違いありません。
ネット麻雀の天鳳をモデルとし、使っているガジェット自体が少年漫画として物凄く新しいものであっただけに少し残念に思ってしまいました。

近代麻雀誌などの麻雀漫画達にも勝てなかった

少年誌ではない場所に目を向ければ多くの麻雀漫画が世に送り出されています。
特に「近代麻雀」は麻雀漫画専門の漫画雑誌で「アカギ」が連載されていることでも有名です。
たとえば近代麻雀誌に無敵の人が連載されていたとすれば人気をとることができたでしょうか? おそらく甲斐谷の漫画力によって上位には行くが、看板クラスにはなれないというのが正直なところでしょう。
たとえば「鉄鳴きの麒麟児」という漫画があります。これは無敵の人の世界観と同じように天鳳をモデルとしたネット麻雀が重要な舞台の一つとなっており、麻雀の勝負から「流れ」というものを排除して作られています。かなりの部分において運がものを言う麻雀という競技において、本当に強いと言うのはどういうことかを真摯に描いている作品です。鉄鳴きの麒麟児と比べてしまうと、無敵の人の麻雀に関する作り込みに隙があるように思えてしまうのです。
では逆に「鉄鳴きの麒麟児」が少年誌で連載されたとすれば人気がとれるでしょうか? 漫画としても非常に面白い作品なのですが、麻雀という競技に深く入り過ぎてしまっているために難しいと思われます。
結局のところ、少年誌で麻雀漫画を成功させるのは非常に難しいのです。

「咲」という例外

麻雀を描きながら少年誌でヒット作を作るためにはどうしたらよいのでしょうか? そのヒントとしては「咲」をあげることができるでしょう。「咲」はヤングガンガンで連載されている美少女麻雀漫画です。少年誌というよりも青年誌・オタク誌に近いのですが、その手法は少年誌でも通用する類のものだと思います。
つまり、超能力麻雀です。咲はしっかりとした麻雀の闘牌を描きながら、各キャラクターに麻雀限定の超能力のようなものを与えています。近代麻雀誌ではヒット作の「兎―野生の闘牌―」で見られた方法ですね。
主人公が勝つ理由を超能力を上手く活用したからということで理由付けることができます。少年漫画の論理としてはこれが一番よいのですよね。また、キャラクター付けも明確になりますし、ゲーム化などのメディアミックスも捗ります。実際、「兎」は麻雀専門誌のマイナー漫画であるにも関わらずアーケードゲーム化し、それなりにヒットしていました。
無敵の人に続く少年誌での麻雀漫画は現れるのでしょうか? そして、現れた場合にどんな設定の漫画になるのでしょうか? 要注目です。

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