様々な娘たちの道を正直に描く - 娘の家出の感想

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娘の家出

4.174.17
画力
4.17
ストーリー
4.33
キャラクター
3.67
設定
4.33
演出
4.67
感想数
3
読んだ人
3

様々な娘たちの道を正直に描く

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.5

目次

世の中いろんな人がいると知る

これはほんとにね、一話目から衝撃だったと思います。いろいろな読者さんがそう言ってましたけど、私もやっぱりそうでした。娘(まゆこ)が母親の再婚を聞いて父親のもとへプチ家出をする。もとからちょくちょく遊びには来ていたけれど、今回はけっこう長めの家出。そこにいるのは父親ともう一人の男。この時点では、このぽっちゃり君は父親の新しい家族の息子…?とか考えた。なのに…お父さん、ゲイだったんだね…っていうこの衝撃!しかもどっちが女性的ってこともないというか、両方女性っぽい雰囲気で、性別を完全には分けれない雰囲気が出ているのがまた複雑。そして楽しいと感じさせます。そういう形もあるんだね、と。父親のことは大好きだったし、今も好き。だからこそ、本当に悲しかったし傷ついたんだよという事実を正直に相手に伝えるまゆこがかっこいいです。そして、傷ついたけれど、許しているということも、ただ優しいだけじゃなくて、まゆこにとって父親とその相手の男性ももろタイプのおデブさん…というまさかのオチ。一つの話にどれだけ深みを出すんですか…!巧すぎる!

父親がそれほどまでに大好きだったんだなーということ、そして父親と同じような体型の人物が好みになってしまったこと(本人は気づいてなさそう)、母親の悲しみもわかるし新しい結婚を祝福する気持ちもあるのに居場所がないと感じてしまうこと。どれも本当のまゆこの気持ちで、母親も父親も本当にいい人で…何を責めたらいいのかもわからない。説明できない。それと丁寧に向き合うために、まゆこは学校卒業までの間をたくさん考えて、悩んで、それでも明るく生きていきます。

ここで終わらないのもまたいいところ!まゆこサイドからだけではわからなかった、周囲の人たちの気持ちを、1話完結形式でつないでいきます。どんな人も、自分を主人公としてそれぞれの道を歩いているんだな~ってことを教えてくれるんですよね。

オムニバス形式でつながっていく道が秀逸

オムニバスのいいところは、あらゆる人間の気持ちがわかるようになること。なんでここでそういう言葉が出たのかとか、あーこの人たちこんなふうにつながってたんだ!!ってわかるとさらに面白くなってくる。この「娘の家出」では、それがより幅が広く、そして深く、熟考させてくれる内容になっていますよね。基本的にはそれぞれの女の子の恋の物語。同じ学校に通う、家族の誰かしらが離婚を経験している友だち。仲が良く、それぞれの気持ちを正直に伝え合い、支えあえる仲間。いいなーすごいあったかい。まゆこ、ぐっち、きゃなこ、ニーナ…そしてそこに関わる人の話もまた楽しい…複雑なものを抱えている人ほど、誰より人に優しくなれる気がする。ただし、複雑であっても、どこにも犯罪者レベルに罪のある人なんていないってこと、ちゃんとわかってることが前提です。みんな大人や…

個人的に一番衝撃的だったのは、きゃなこの話でしたね。女たらしの最低な男と、まさか不倫関係に陥るとは…!流れ的にも、きゃなこのキャラ的にも、まさかページをめくって次の瞬間にそんな展開になろうとは思いもしなくて…断ると思ってましたし。そしてそれを正直に自分の父親に相談したり、みんなの目の前で付き合えないと頭を下げたり…怖いものがないってすごい。わからないからこそ正直であることって、ダメな大人にはもう鋭利な刃物でグサッとやられるくらいの衝撃があるんだね。

「家出」に込められたもの

ここでタイトルの意味を考えてみましょうか。普通にまゆこの家出から始まるストーリーなので、まぁそれだけの意味とも考えられるんですが、高校生の女子たちの卒業までを描いていることや、それぞれに関係性の広がりが見えてくる構成を考えると、かなり深い気がするんですよ。

まず、今まで育ててくれた家族のもとを“物理的に”離れるという意味がありますよね。楽しいことも、つらいことも、いろいろあったけど、育ててくれた母親・父親とは離れがたいもの。これも家出と言えそうです。そして、家族と“精神的に”離れる=自立するということ。これは気持ちの面で、いろいろな葛藤から解き放たれたとき、世界が全然違って見えてくる。きっかけは恋だったり、誰かの言葉だったり、友だちの存在だったり、家の中にはない誰かによるもの。家を出て、誰かを関わらなければ気づけないことがあまりにも多いんだなーと教えてくれます。いつかは誰かに恋して、家庭を築く。そしてまた家族が始まる。その形はなんであれ、過程がどうであれ、幸せに笑っていられたらそれだけでいい気がする。

また、家を出るという意味に、殻を出るというような意味が含まれたお話もありましたね。ただ仕事に一生懸命に生きてきて独身だった女性が、レズとして誰かに愛される喜びを知ったり、引きこもりが外へ出るきっかけを得たり。世界は広いほうが豊かになれるってことです。ものすごく共感できたのは、まゆこの彼氏のお母さん。外面が最強装備なのに、実は黒いことを考えている。だけど私はひどくない・私はまともだって言い聞かせてる…これ、絶対少しはもつ感情じゃないですか。自分のダメなところを認めることがいかに難しいか。大人になるほど、誰も教えてくれないし、自分で考えていくしかないんですよ。自由なのに、自由ではないような気持ちになってしまう。私が老いたということ?幸せではないということ…?そこから、前向きに復活するまでのお母さん、素敵でしたよ。

LGBTそれぞれの道

男と男、女と女、ぽっちゃりくんと女の子、不倫男と女子高生、モデルとスターアイドル、一般人と有名人、片想いや横恋慕…どれもイレギュラーな気もするけど、こうやってオムニバスで見ていくと全部が自然な気がしてくるから不思議です。当たり前、普通、っていう概念が何なのかってわからなくなるような気もするね。普通だったら安全なの?安全だったら幸せなの?誰かと同じだから何なの…?

みんなそれぞれ、笑って生きてるよね。実に楽しそう。社会人になると気持ちがすさんでくるものですが、笑っていることがいかに大事かって教わった気がするよ。そういう気持ちを大切にできる大人になりたいと思う!

一人一人の人生の一部に過ぎないということ

女子高生たちのこれだけ短い期間の中で、これだけ深い関係性がある。どの時間にも無意味なものがなくて、全部が影響しあっているんだなーと感じさせてくれます。自分勝手に主観で行動するのが必要なときもあるけど、やっぱりいろいろな背景や人の気持ちを考えられるようになりたいものですよね。

結局は、人生80年という長―――い人生の中の、ほんの数か月か数年の話。でも経験したことはすべて未来のための基礎になってくれる。良くも悪くも、未来が形作られる。この娘たちは、これからまたいろいろな困難に出会うのだろうし、そのたびまた悩まなければならない。それは当たり前のことなんだと、大人になったって気づけない人がいるんですよ。自分ばっかりなんでこうなんだー!逃げたい!って。みんな悩んでいるから、誰も教えてくれないしね。どんな形であれ、自分で納得できるものを探さなきゃいけないし、体当たりでぶつかっていくことを選択していける、まゆこたちみたいな強いハートを持ちたいなと思いました。いやー人生の参考になる、深い話を読ませてもらったなーとしみじみしちゃった。

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他のレビュアーの感想・評価

苦みを知っているからまっすぐでいられる

悩みながらも進んでいく人の道注目すべきは第1話。物語の中でずっと主軸になるまゆこの話である。母親の再婚を聞き、すぐには受け止めきれなかったまゆこ。別れた父親の家にしばらく泊めてほしいと言う。決して母親の事も、新しい父親の事も、嫌いなわけじゃない。ただ自分がどんな面持ちで望んだらいいのかがわからなかった。まゆこの両親が別れた原因は、父親の不倫。しかも、父親は実はゲイであったことをカミングアウトし、ぽっちゃりしたおっさんと暮らしていた。しんちゃんも、お父さんも、お母さんも、お母さんの彼氏も。みんないい人で、何が悪かったのかがわからない。だけど、不倫してしまったことはきっと両方に責任があって、約束を破ったことや嘘をついていたことは、謝罪しなくてはならないことなんだと思う。しんちゃんに関しては、登場の時点ではただの居候かと思っていたけれど、見た目ノーマル男子で若干オカマな、お父さんのパートナー...この感想を読む

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一話完結だけど続いていくストーリー

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