ガネーシャが教えたかったこと - 夢をかなえるゾウの感想

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夢をかなえるゾウ

4.174.17
文章力
3.50
ストーリー
3.25
キャラクター
3.75
設定
3.75
演出
3.75
感想数
3
読んだ人
4

ガネーシャが教えたかったこと

4.04.0
文章力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
3.5

目次

“夢”をかなえるために私たちがすべきこと

有名になりたい。お金持ちになりたい。尊敬される人間になりたい。
生きている限り、人はいつも何かを夢見ています。夢はもはや、全人類の永遠のテーマ、と言ってもいいのかもしれません。いつも何かを渇望していて、そのために努力する。しかしながらその夢の全てが叶えられるとも、限らないのです。そこにひたむきな努力や熱意があったとしても、です。それはなぜでしょうか。
「自分、成功したいやろ」
主人公の前に突如として現れたへんてこな関西弁のゾウの神様、ガネーシャ。彼は主人公に、そしてあなたに問いかけ、語り掛け、本当の夢の叶え方を教えてくれます。

ただの啓発本ではない

この本が『夢を叶えるために私たちがすべきこと』について啓蒙的アプローチで記されているにも関わらず、いわゆる啓発本などと質が異なる要因として、まず登場人物が読者目線でも親しみやすいキャラクターとして描かれていることが挙げられると思います。例えば、神様。主役のガネーシャ、わき役として登場する釈迦の立ち位置。作品の随所にて神様という崇高なはずであるポジションを、ガネーシャ当人があくまで『稼業』『仕事』と言い切ってしまうことで、人間臭さも演出され、どこか親近感の湧く存在として読み進めることができます。またビジネス史上の偉人に対しても、例えば、かの松下幸之助を“幸ちゃん”、アンドリュー・カーネギーを“カーネギーくん”なんて呼称してしまうところにも同じ効果がみられるのではないでしょうか。

ジャンルとしてエンターテインメント小説にカテゴライズされるために、当然と言えば当然ではあるのですが、若さはあるが、ごく普通の冴えないサラリーマンが主人公として置かれている上に、彼の目線で物語が進んでゆくのも読者としては読み進めやすい一つの要因となっているように思います。もしこれが、『一日一度、トイレの便器を磨きなさい』とただ漠然と書き記されているだけであれば、なんとなく自分には当てはまらないお題のような気がしてしまい、それを実際に行動として移す可能性だって極めて低くなっていたような気がします。ガネーシャの出すお題に対して「?」と思う主人公がいて、「これに何の意味があるんですか」と理屈を求める主人公がいて、初めて読者は主人公と自分の立場を同一化することができるのです。

ガネーシャが本当に教えたいのは、成功するための「意識のベクトル」「心の構え方」「気持ちの持ち方」

なによりこの本が優れている最大の要因は、ガネーシャの与えるお題の“具体性”にあります。
ガネーシャは主人公に「靴を磨け」、「トイレ掃除を怠るな」といったお題を与えます。もちろん主人公は疑問に思います。「そのことが夢を叶えるために何の意味があるんだ?」と。読者も同じように思うでしょう。そのお題をクリアすることで(例えば靴を磨くことで、トイレ掃除を怠らない)結果的に、主人公はいとも簡単に“成功”へと近づいてゆきますが、現実の世界にいる私たちはそこから何を学ぶべきなのでしょうか。その文章から何を生かすことができれば、私たちも主人公と同じように“成功”への一歩を踏み出せるのでしょうか。
ガネーシャが、あるいは本の著者が言いたいのは、「靴を磨く」ことそのものに意味がある、ということではありません。何も考えないで(他の物事と一切関連付けないで)ただトイレ掃除を毎日せっせと行っているだけで夢を叶えることができるぞ、と言っているわけではありません。それを通して学ぶことのできるものについて、彼らは言及したいのです。「商売道具を大切にすることの意味」や「一番嫌な仕事を後回しにしないことの重要さ」について。ただそれらを書き連ねたものが、啓発本として出版されるのでしょう。しかしながらそれらの言葉は得てして、身に沁みないものです。成功するために必要な要素でありながらも、ただそう記述されていたところで、人によってはそれらが古臭い説教のように聞こえてしまう人もいるかもしれません。読んだところで「じゃあ具体的に、今何をすればいいの?」と思ってしまう人もいるかもしれません。この「夢をかなえるゾウ」はそれらをわかりやすい形に変換し、読者に与えてくれます。具体的にこれをすることがこういう気持ちの持ち方に繋がる、と教えてくれます。

人はいつも人と触れ合いながら生きるものです。そうしてできたものが社会、と呼ばれる集団です。この現代でその社会から逸脱ながら生きることは難しく、人が生きるための手段、ビジネスが、人の気持ちを満たすことで完遂されるものであることは揺るぎありません。もちろん仕事には卓越した技術も求められます。しかしながら、相手にするのも基本的には自分と同じ人間です。感情の起伏が、厭らしさが、そして優しさのある人間です。人の気持ちが理解できることは十分、ビジネスにおいてどれだけ重要なことかをもこの本は教えてくれます。

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