政略結婚でもいい人なら愛し合える気がしてくる - 黎明のアルカナの感想

画のかわいさ抜群

藤間麗先生の作品は、とにかく登場人物たちがかわいい。ナカバはまさに、という感じでしたし、シーザもロキもかっこよかった…！加えて、表紙や扉絵の気合いの入りようといったらすごい。美しいです。ナカバの服装、装飾品とかがかなり個性的で、民族衣装って感じがよく出ています。お気に入りはやっぱり1巻登場の衣装。インドっぽいような、中国っぽいような。女の子の雰囲気はちゃんと出ているけれど、動きやすさもありそうでボーイッシュ。ドストライクです。こういうのはリサーチして描いているのでしょうか？想像だったら驚きですね。

今回メインに描かれているのは「刻のアルカナ」。過去、未来を見通すことのできる力。この力に翻弄されながらも、ナカバはシーザと協力して平和な国を創ろうと画策していきます。このアルカナが発動しているときのナカバの目の変化が特徴的で、アルカナが初めて明確に発動したときのシーンはここだけ写真？ってくらい目がズームアップされていました。衝撃が伝わる、いい表現ですよね。藤間先生のイラストってだいたい目が大きく、黒目の部分が強調された美しさがあると思うんですけど、「黎明のアルカナ」ではそれが上手く発揮されていたと思います。

似たような作品に、「赤髪の白雪姫」（あきづき空太作）がありますよね。主人公である女の子は同じく赤髪。「赤髪の白雪姫」では、もちろん赤髪は差別の対象として存在していますが、忌むべき存在というよりは、希少で美しくお金になりそうだ、という見方をされるので、ちょっと雰囲気が違ってきますよね。特殊な能力があるわけでもないし、動きがより現実的。国の中で王は優しく、確立されたものになっており、「黎明のアルカナ」とは大違い。悲しみや、辛さの先に、和平を視る。そんな世界観が好きな人は、「黎明のアルカナ」のほうがハマるかなーと思います。

かっこいいナカバとヘタレのシーザ

ナカバもシーザも、小さなころからつらい思いをしてきたからこそ、強くなろうとするし、良い国を築こうとします。ナカバは母親や家族を殺され、赤髪であるがゆえの迫害も受けてきた。シーザは王族であることの意味をずっと自問自答してきた。そんな2人が出会って、お互いを知っていく様子は、これまたかわいらしかったです。強気だけど時々どうしようもなく弱いナカバと、意地っ張りでヘタレだが欲しい言葉を必ずくれるシーザの組み合わせは、ベストマッチだったなーと感じます。2人とも、戦争を望まない・王位を望まない優しい人。政略結婚だったとしても幸せになることはできるのかもしれない。お互いに歩み寄り、尊重することができるなら。

これからの未来のために、途中、お互いに別に好きでもない奴と結婚して離れ離れになる道を選びました。カインを殺しちゃったりとかもしたし、なんか血で血を洗う的なこともたくさんあったと思います。アルカナの力の発動のキーも血でしたし、どこまでも一族の血、王族の血、「赤」をめぐる差別や恐れ・恨みが強調されていました。最終的に、失ったものもあったけれど、ナカバとシーザが再び一緒になることができて本当にうれしかったですね。甘いシーンは最後までほとんど皆無でしたが、お互いに本当に信頼でき、寄り添いあえる相手を見つけられたというだけで、読んでいるほうとしても満足できたように感じましたね。

ロキ最高

もう何人もの人が、ロキとナカバの組み合わせを望んだことでしょう。しかし、ロキとナカバは兄妹だったわけですよ。まさかのそういうオチでした。ロキもアルカナを持ち、力を発動させ続けていたことが明かされましたが、本当にかわいそうな奴でした。最後まで、ナカバの味方でした。亜人だけの国と人間の国を分けると言い出したのも、精一杯の彼の優しさ。いがみ合う者同士を急に統一することなどできない。そして、これから死にゆく自分を見せ悲しませることなどしたくない。ロキなりの決断でした。

ロキが最期までナカバを想っていたこと、誰よりも傷つき、誰よりもつらかったであろうこと、もうね、考えるだけでせつないわけですよ。というか、よく最後でこれだけひっくり返したなーと構成にびっくり。ロキがいつまでも近くにいてくれて、シーザを王として認めて、どうか幸せになって…とずーっと願ってきましたが、そうはいかないのが悔しいね…。ロキの今までのドンピシャの行動は、アルカナがあったからこそなんですよ。そうでなければ、ナカバはとっくに殺されていたのかもしれない。ロキに守られて、ナカバは生きていた。ロキなしには、生きれなかったんですよ。これからは、シーザが守ってくれる。大丈夫だってわかっているけれど、ロキのことを想うと胸がしめつけられて苦しいですね。もう連れ去って逃げてしまえばよかったのに、とすら思う。そこをぐっとこらえて、ナカバの望みを叶えてあげようとするその心意気。ロキあってこその「黎明のアルカナ」です。

愛し合えないならいっそ

ナカバもシーザも、本当にいい奴なんですよ。シーザは最初高慢ちきでしたけど、ナカバと関わってどんどん優しくなっていったし、王になることの意味を見出しました。小さなころから抱いてきた、亜人だから、王族だから、平民だから、という垣根など飛び越えて関わりあえるような世界を描くことができるようになった。ナカバのおかげだし、ロキのおかげだね。ナカバもシーザと関わり、愛されるということを知り、人を・国を愛していきたいと思えるようになっていく。そんな素直な2人だからこそ、惹かれる者も多かったのだと思います。

全体的に、恋愛模様が渦巻いている物語でしたよね。欲望と理性の狭間で右往左往してたように思います。セナンの王子、ベルクート将軍の娘、ごめん。当て馬ごめん！だけど愛し合えないからといって殺すとか、そういうのはやめてよ…

王族ってやつは

能力主義でない時代において、王族ってやつは本当にムカつくよね。やりたい放題で偉そうで、頑固で考えが話を聞いてくれなくて。ただ、ちょっと見方を変えてみると、偉いところにいる人に対して、悪い人間であってほしいみたいな願望もあったりする。上に立つ人間が悪でなければ、恨みのはけ口がないのだから。そして、そんな王にしたのは周りの取り巻きのせいであることがほとんど。厳しく育てればそう育つ。王は族の者どもによって王に仕立て上げられるわけですよ。だから、王の見せた愛する妻とのエピソードは、とても複雑な気持ちになったよね。性根から悪い人だって言えたのかしら…って。本当は誰より、自由になりたかったんじゃないかって…。そう考えると、お役所仕事の人も、王族ってものも、それなりに大変なところが絶対に在って、お互いに大変なら、お互いにできることをがんばっていこうかなって思えてくる。お互いに、過去を乗り越えて未来をみていこう。変えていくために動き出そう。

「黎明のアルカナ」は、2つの国が和平を結ぶまでの物語であり、2人の恋が成就するまでの物語。ファンタジーではありましたけど、特殊能力だらけってほどでもなく、ウザさはありませんでしたね。シーザとナカバが早くうまくいってほしくてイライラもしたけど、最終的にたどり着けて本当に良かった。そして、シーザが短髪になってくれて本当に良かった。かっこいい男はこれに限るよね、やっぱり。政略結婚だったけど、いい結婚もあるんだね。見合いも同じような感じで、うまいことハマることがある…といいな。