グインサーガの世界はいかにしてつくられたのか - グイン・サーガの感想

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グイン・サーガ

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演出
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グインサーガの世界はいかにしてつくられたのか

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
3.5

目次

栗本薫、恐ろしいほどの秘められた知識の持ち主

もう長編という言葉も合わないと思えるほど、長期に渡って書き綴られてきたグインサーガ。200巻のころには終わるだろうかという疑問も出てくるかもしれない。

思いおこせば、読み始めたのは学生の頃だった、という中高年の方も多いだろう。私も例外ではなく、中学生の頃から、グインサーガを読んでいた。

中学生の当時は、作者の栗本薫は空想の天才ではないかと思っていた。グインサーガの世界は、どこまでも独特で、日本の風景や日常とは異なっていたからだ。

今でも、栗本薫が空想の天才である、という思いは変わっていない。しかし、年を取って世界が広がり、それなりに知識が増えてくると、栗本薫の空想のバックボーンにある知識が、少しづつ見えるようになって来た。

グインサーガの世界や世界観には、栗本薫の持っている幅広く奥深い知識が、詰まっていたのだ。

栗本薫という世界

例えば、イシュトバーンという王は、歴史上に実在している。そして、その他の登場人物の名前も、歴史上を探すと見つけることが出来る。しかし、中学や高校の教科書レベルでは、なかなか見つけることはできない。そのため、歴史好きでないと気づかないこともあるだろう。

他にも、悪魔のようにすべてを破壊しようとする「アモン」の名前は、『悪魔の事典』などにも書かれている悪魔の名前と同じだ。他にもノスフェラスのセム族の名前のセムも、旧約聖書に出てくるようだ。謎の存在としてえがかれている一つ目の赤ん坊も、世界各地に伝承としてある一つ目の神の存在が、おぼろげに浮かんでくる。

また、主人公のグインは豹頭だが、獣頭人身は古代エジプトの神々のホルスやセト、中世の悪魔に多く見られる。

グインサーガは、今後の展開では宗教が複線のテーマになってきそうな気配があるが、グインサーガの世界には多くの宗教も出てきている。

グインサーガを読んでから、ヨーロッパや中東の歴史や古代の伝承などを学ぶと、あれっこれはグインサーガで読んだことがある、という嬉しい驚きに出会うことが多い。

これは、グインサーガファンには、とても嬉しい出来事だ。

栗本薫のバックボーンや知識の全貌が知りたい。世界観のパーツをすべてそろえてみたい、と思うが残念ながら、もう栗本薫に聞くことは出来ない。グインサーガの世界をつくるパーツを少しずつ自分で探していくのも、グインサーガの楽しみ方の一つになるのではないかと思う。

歴史上のイメージそのままではない

しかし、グインサーガの世界と実際の歴史上の地名や人物名のイメージが、そのままであるかというと、そういう訳ではない。アモンのように、イメージが重なるものも見受けられるけれども、イメージが違いすぎて戸惑うものも多い。

それもまた、楽しい。なぜこの名前がここに付けられているのだろうか、と悩むようなものもある。しかし、それがたまたま軽い気持ちで付けたのか、はたまた深い意図や寓意を表して付けられているのかと考えるのも、とても楽しいものだ。

そもそも、ヒロイックファンタジーであるグインサーガだが、深く読むと何気ないストーリーにも、いろいろな寓意が秘められているようにも読める物語だ。なにしろ政治や宗教、民族問題や国境、戦争や科学など、グインサーガにはさまざまな世界が詰め込まれているからだ。

登場人物や背景も現実世界の問題を反映しているようにも読める。そのため、歴史上の人物名や地名と設定の違いを考えながら深読みをしだすと、さらに世界が深くなるのだ。

はたして、栗本薫はどう考えていたのか。考えはじめるときりがないのだ。

しかし、自分は最近そんなことを考え始めたが、グインサーガシリーズを書き始めた当時、栗本薫は随分と若かったはずだ。やはり、いつまでも理解できないほど、高みにいるのかもしれない。

謎のままで終わる謎

ちなみに江戸川乱歩の明智小五郎シリーズに、「人間豹」という小説がある。人間と豹のあいのこのような存在である人間豹は、グインのような善の存在ではなく、悪の存在に近い。今となっては、栗本薫が「人間豹」を読んでいるかどうかはわからない。

しかし、読んでいたら面白いのに、と思う。

栗本薫は昔、知識や判断力を問われるテレビのクイズ番組に、レギュラー出演していたことがある。チームの代表として、抜群の知識量や判断力を見せつけていた。

バックボーンの広さこそが、栗本薫の世界の魅力をつくる秘密ではないかと思う。

でも、それは決して空想力のマイナスにはつながらない。むしろ、これほどのファンタジーなのに、現実感を感じさせる元になっているのだと思う。

歴史上の王国や王、地名やできごと、過去の小説が、栗本薫の中で混ざり合い熟成してグインサーガの世界をつくっている。

グインサーガは、今だ未完の小説で、多くの謎に包まれている。そして、栗本薫の世界の全貌も、今はもう知ることが出来ない謎になってしまった。

しかし、謎だからこその面白さもある。グインサーガの謎を楽しむのにあわせて栗本薫の世界の謎を楽しんでみてはいかがだろうか。

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