エドワード・ノートンでなければ成功しなかった映画 - 真実の行方の感想

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エドワード・ノートンでなければ成功しなかった映画

5.05.0
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
4.5
音楽
3.5
演出
4.0

目次

エドワードノートンの怪演はここから始まった

この映画において特筆すべきはやはりエドワードノートンの演技だろう。エドワードノートンは役者としては少し長い下積み時代を経験しており、サラリーマンやほかの仕事をしていたり(ちなみに大阪で祖父の仕事を手伝っていた経験もあり、以前は日本語も少し話せた)、劇団で舞台にたっていた数年を経て今作のオーディションに合格し、スクリーンデビューを果たした。私はこれほどまでに鮮烈にスクリーンデビューを飾った俳優を多くは知らない。

この映画の脚本において一番重要なポイントは、主人公の二重人格である。しかもただの二重人格ではない。普通の二重人格を演じる俳優は、一人の人間でいかに違うキャラクターを演じるかというところに終始すればよい。しかしこの作品で重要なのは、アーロン(ノートンの表の人格)とロイ(ノートンの裏の人格)という二つの人格を表現した後、最終的には表の人格など存在せず裏の人格こそが彼の本質で、裏の人格が役の中で二人の人格を演じていたという”設定”なのである。ただでさえ複雑な役でありながら、この映画の脚本はまさにその演技にかかっているといっていい。その役者がだめならばここまで良作には仕上がらなかった。しかし結果として、エドワードノートンは作品を成功に導いたのである。

この演技が認められ、ノートンはこれ以降本格的な演技派俳優として様々な映画に登場することになるのだが、中には複雑な役も多く、この映画の成功がどれほど影響したのかがわかる。デヴィッドフィンチャー監督の「ファイトクラブ」では、強烈な個性を持つ二重人格の主人公として大抜擢されたし、また「アメリカンヒストリーx」や「バードマン」の役もある種二面性がある難しい役だ。そしてノートンはことごとくそれらの作品を成功に導いてきた。

余談だが彼自信大衆的な映画やアメコミなどのエンターテイメントに偏った作品に出演することに積極的ではなく、「インクレディブルハルク」でこそ主役を演じたものの、それ以降の「アベンジャーズ」シリーズでは出演を断っているというエピソードもある。これが意味するところは本人としてもかなり演技そのものにこだわっており、”演技をする俳優”としてのプロ意識が高いということだ。

脚本のうまさ

私は個人的には、その映画がいいかどうかという論点において、ストーリーをあまり重視しない。近年よく見かける映画の宣伝文句として「ラストシーン、あなたは必ずだまされる!」といったものがあるが、そういった映画を見るとそのトリック自体に映画の良さが終止している場合が多く、そのくらいのことだったら小説で表現するにとどめておいた方が結末が引き立ったのではないかとか、映画の序盤や中盤はただの”フリ”にしかすぎず中だるみする映画が多い気がしてならない。

その点この映画の脚本はうまく出来ているし、そもそも主人公の複雑な役に関しては映像化されてこそ表現できたことがたくさんある。そして普通のミステリー映画ならば、最後にどんでん返しをしたいポイントにはできるだけ触れられないようにして伏線を張りながら物語が進んでいくが、この映画の場合、結末として注目される”アーロンは二重人格か否か”というところにはじめから争点が絞られているのだ。そして弁護士であるマーティン(リチャードギア)は彼を信じて無罪に持っていきたいのに対して、敵役の弁護士は有罪へと導こうとする。最終的には裁判にはマーティンが勝利することになるのだが、その全てを操っていたのはアーロンであったことが裁判後に発覚する。結果として主人公は勝負には勝って、人には裏切られたことになるのだ。非常に残酷で感慨深い脚本になっている。そしてこの流れのすべてが、それぞれの俳優の演技にリードされていて見ごたえがあるため、トリックを知っていたとしても何度でも見ることが出来る映画となっている。

裁判の実態についてとそのメッセージ

映画の見どころとしてもう一つ、裁判のシーンが非常に生なましいことが挙げられる。この映画では当時では珍しいほど裁判を細かくリアルに描いていた。どれだけ慎重に、どれだけ狡猾に裁判が進んでいき、その結末を誰が握っているのか、映画を見ている人は現実と照らし合わせながらその行く末を見守ることになる。しかし結末はいうなればバッドエンディングであり、裁判にこそ勝つもののこの映画のタイトルである「真実の行方」は世間的には闇に葬られてしまうも同然なのだ。この映画のメッセージはまさにそこにあり、人間が起こすこの世のすべての争い事を裁判というもので裁き、人を裁くことの最高機関であるはずのものでも、このようにして現実や善人を裏切りかねないという残酷なメッセージがあるのだ。

全体的には暗い映画であり、マーティンが戦いの中で抱いた希望たちも最後は裏切られてしまう。ただその結末の中にこそリアルは存在していて見ごたえがあるし、それを可能にしたノートンをはじめ実力派の本気の演技もこの映画を見る価値のあるものに仕上げている。

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