天才数学者の悲しい半生 - イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密の感想

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天才数学者の悲しい半生

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
3.0
音楽
4.5
演出
5.0

目次

ディカプリオが良かった

第二次世界大戦下でナチスドイツ軍が使用していた世紀の暗号製作マシーン「エニグマ」は、毎日(のちに数時間おきに)設定を変えることで解読が不可能とされた。この映画は、そのエニグマから打ち出される暗号の解読に成功した天才数学者アラン・チューリング(Alan・M・Turing)の半生を描きたした物語だ。おそらく今でいうアスペルガー症候群の特徴と思われるチューリングのエピソードなどもユーモアたっぷりに描かれていて、重たいテーマにも拘らず途中何度か大笑いしてしまう作品だった。

当初はレオナルド・ディカプリオの主演で製作されるという話だったそうだ。オリジナルのチューリングに骨格が似ている。それがなぜか途中から製作会社が変わったことで、主役がイングランド出身の俳優ベネディクト・カンバーバッチになった。何となく堺雅人がチラついてしまう面差しが印象的な俳優だ。登場人物はそれほど多くないが、キャスティングが違っていればもっと感情移入がし易かっただろうと思うシーンがいくつもあったので星3つにした。チューリングの遺族は絶賛したらしいが、わたしはディカプリオの“アラン・チューリング”が見たかった。

この世には、時代ごとに神からの賜物としか思えないような天才的人物が登場し、功績を残して去っていくが、そんな人物はいつも天才を理解できない凡人たちによって迫害される。私たちが知らないだけで、知られることなく世を去った天才たちは沢山いるだろう。実際、チューリングの存在も最近までそれほど知られていなかった。同性愛者が犯罪者として裁かれていた時代に迫害を受け、自殺で亡くなったとされているようだが、詳細を知りたいものだ。天才たちの人格が健やかに育ち、その能力が存分に発揮できる世の中ならば、平和はもっと早く訪れるかもしれないのに。それが人類全体のレベルということなのだろうと感じた。

ドイツが誇るエニグマ

戦争映画でたびたび耳にする「エニグマ」。その名の由来はずばり「謎」という意味から来ているらしい。長時間かけて分析を進めても一定時間で鍵がリセットされるため、解読は時間との戦いで、物理的に人力では不可能だった。現在のコンピューターの先駆けともいわれるマシーン「クリストファー」の存在がなければ成し得なかった快挙だ。その前身としてポーランドの天才レイフェスキが残した成果も見逃せないが、結果としいてチューリングはさまざまなリスクも考慮した結果、オリジナルのメソッドを使って暗号を解読したのだ。もしもクリストファーの完成がなければ、ドイツ労働者党はより多くの負の遺産を残していたかもしれない。

第二次世界大戦中の旧日本軍の暗号はあっさり解読されてしまったと聞いていたが、当時の世界の列強がこれほどのレベルで戦っていたことを知ってショックだった。この映画のどこまでが史実なのかは定かでないが、チームは暗号を解読した後もそのことをドイツに気付かれていない。ドイツは最後までエニグマを信じて使い続け、ついに降伏したのだ。戦争って恐ろしい。やっぱり日本は戦争に向いてないと思った。

二重スパイ

ショックといえば、ジョン・ケアンクロスが実在したスパイだとは知らなかったので、二重スパイの正体だと判明したときも衝撃だった。ジョンはチューリングが同性愛者だと知って、公言するなと忠告したメンバーだ。わたしは、スパイが紛れているとすれば絶対にヒューだと思って観ていた。難解な暗号の解読成功と、スパイの発覚、さらに上を行くスチュアート・ミンギスの作戦と、物語が目まぐるしく展開するシーンはドラマの一番の見どころだと思うのだが、なんとなくその辺りの描かれ方が雑な印象を受けた。ページに印をつけた聖書が無造作に置かれているという設定には笑ってしまった。

実際のプロジェクトに二重スパイが本当に入り込んでいたのかどうかは分からないが、ミンギス・チームがどのように二重スパイを欺いて戦争を勝利へと導いたのかについて、もっと詳しく知りたいと思って期待していた。その後のジョンの心理描写がまったくなかったのは残念だった。調べてみると、ジョンは1950年代に活躍したスパイチーム“ケンブリッジ5(Cambridge Five)”の実在のメンバーだった。このグループについては、2003年(平成15年)に公開されたイギリス映画「CAMBRIDGE SPIES」の題材にもなっている。

しかし実際のジョンがブレッチリー・パークに出入りしていたかどうかは不明らしく、映画「CAMBRIDGE SPIES」には登場していないようだ。第二次世界大戦の二重スパイを描いたこちらの映画もぜひ観てみたい。

天才の性的指向

この映画は公開当初、主人公の性的志向についての言及が少ないとのことで批判されている。わたしがスチュアート・ミンギスの人格やジョン・ケアンクロスの感情についてもっと知りたいと願ったように、ある種の人たちはアラン・チューリングが同性愛者だったという事実に関心が強かったようだ。確かに当時のホモセクシャルへの扱いはひどかったらしいので、現在同じ立場にいる人たちには物足りないかもしれない。つい最近になって、イギリス政府は当時のチューリングへのひどい仕打ちを謝罪している。

この映画には、チューリングのセクシャリティを描いた決定的なシーンは無い。さらりとストーリー展開に必要な最低限の情報しか与えられていない。モルテン・ティルドゥム監督も、主人公の心の動きに焦点を当てたかったと語っているように、ジョーン・クラークの人格を表現したり、クリストファー・モーコムとの絆を表現するための要素でしかない。当時ほどではないにせよ同性愛に対して嫌悪感を抱いている人は少なくないと思うし、彼が人工知能の開発に情熱を傾けた動機は、その最終目的がクリストファーとの再会だったともいわれる。彼の性的志向は、彼の個性のひとつに過ぎず、この物語にはあまり関係がないと思う。

しかも具体的に描かないことで、チューリングの悲しみがボヤケることなく浮き彫りにされている。彼がホモセクシャルだと知った途端に生じるであろう“偏見”から、この物語を守っている。特別な才能をもった人間の孤独を理解してくれた唯一の友であり、救い主だった最愛の人。そんなクリストファー・モーコムとの劇的な別れはあまりにも切ない。美しいカメラワークも手伝って、置き去りにされたチューリングの孤独や恐怖、いろいろな思いが際立っていたと思う。

最後のシーン

同性愛者だったチューリングは、犯罪者として投獄される代わりにホルモン剤の投与を義務付けられていた。ジョーン・クラークが彼を訪ねたときは、すでに彼女が再婚したあとだった。チューリングのジョーンへの愛は、おそらく寄宿学校時代のクリストファー・モーコムに抱いた感情と同じだったのだろうと想像できるシーンだ。

彼女とのやり取りのシーンは、テンポよく無駄のない展開で気持ち良いが、ここだけ他と微妙にリズムが違うので、尺の割り振りの都合が感じられて正直少しシラケてしまった。映画の最後は、チューリングがクリストファーの電源を落とすところで終わっている。後で調べて感動したが、実際のチューリングは毒りんごを食べて命を絶ったそうだ。何てロマンチックな人なんだろう。また、途中でガスマスク姿の子どもたちのカットがあるが、ガスマスクは花粉症のチューリングが実際に好んだアイテムらしい。興味の尽きない人物だ。

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彼は人間かマシーンか

悲劇の数学者今の時代、コンピューターやスマートフォンがないと少々不便である。私が小学生の頃、10年先の未来ではどんなものが進化を遂げているのだろうと何気なく思った時、まず最初に頭に浮かんだものは「車」だった。きっと空を飛んだり、海に潜ったりするだろうとワクワクしていた。その頃にはパソコンも携帯電話もあった。だが、まさかそれらが急激に発展していくとは思えなかった。アラン・チューリングはこの前身となるマシーンを作った。それは第二次世界大戦の中、敵対するドイツのエニグマ暗号を解読するために開発された。彼がいなければこの戦争に勝てなかったと言われるほどに貢献していたのだが、極秘任務だったこともありその功績は最近になってようやく世間に知られるようになった。それだけでなく、当時の世の中に受け入れてもらえないがために、彼は自ら命を絶ってしまう。マシーンと人間この映画は常に映画の中でいう「現在」と「過去...この感想を読む

4.04.0
  • くじらくんくじらくん
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