大人のための青春映画、「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」 - 打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?の感想

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打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?

4.004.00
映像
3.00
脚本
4.00
キャスト
4.00
音楽
3.00
演出
5.00
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大人のための青春映画、「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」

4.04.0
映像
3.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
3.0
演出
5.0

目次

「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」あらすじ

最近アニメ化でも話題となった本作です。(アニメ板では新房照之監督)当時は映画作品ではなくテレビドラマとして放映後、話題となり劇場での公開となります。

夏休み中、ちょうど小学校の登校日となっていたのが町の花火大会の日。典道(山崎裕太)と祐介(反田孝幸)は掃除をサボってプールで遊んでいる時、50mの競争をすることになります。その時審判を頼んだなずな(奥菜恵)は勝った方をデートに誘おうと決めます。典道はターンの時に足をぶつけてしまい、勝ったのは祐介。なずなは祐介に告白するが、祐介はなずなをなんとも思っておらず、あの時勝っていたのが自分だったらと典道は想像を膨らませます。典道は想像の中で祐介に勝ち、なずなと花火へ行くことに。しかしなずなは花火ではなく駆け落ちをしようと言い出します。駅まで行ったものの、途中で駆け落ちはやめたなずな。帰り道の途中で夜の学校に侵入し、ふたりは無邪気にプールで遊びます。その後なずなと別れた典道は花火大会に向かい、担任の先生の彼氏の知り合いの花火師に花火を真下から眺めます。その頃、友人たちと灯台に向かっていた祐介は灯台の上から同じ花火を真横から眺めます。

短くて長い夏休みの1日

本作は典道が学校に向かってから、花火大会が終わるまでという非常に短い時間が描かれています。普通映画というと数日間から時には数年間という長い時間が描かれることが多いからこそ、1本の映画(長編ドラマ)で1日を丁寧に描くことで体感的にとても1日が長く感じられます。夏休みといえば、友達の家に行ったり、宿題をしたり。大人になってからと比べると1日がとても長く感じられますよね。その長い時間を本作では追体験できます。また、今でこそ珍しくありませんが、当時としては珍しいフィルムカメラ風の映像加工を行っており、作品全体にどこか懐かしい空気が漂っています。また、演出の面でも小学生特有のノリや話し方を細かい部分まで再現しており、懐かしさを感じる手立てとなっています。特に、話す速度については監督自身もこだわっていたらしく、常に子役の方々に速く話すように指示していたそうです。

懐かしさだけじゃない、オトナなスパイスも

前項で懐かしさや小学生らしさについて書きましたが、その中に大人でもドキッとしてしまうようなオトナな演出が散りばねられています。そんな大事なスパイスの役目を担っているのが本作のヒロインであるなずな。彼女は冒頭で両親の離婚から夏休み中に転校することが判明します。そんな複雑な事情からか大人っぽい発言や、ある種色気のようなものまで感じさせられる描写が彼女の魅力を際立たせています。特に際立つシーンが最初と最後にでてくるプールでのシーン。冒頭では片足をプールにいれてぼーっと青空を眺めている姿からどこかアンニュイな、大人びた雰囲気が伺えます。また、終盤で夜のプールで典道と二人でじゃれあうシーンではなにをしだすかわからない、ミステリアスさや危うさを感じることができます。セリフの中でも、親の離婚からか典道を信用できなかったり、夜の商売をすれば典道を養えるよなんて言ったり、子役にはなかなか言わせづらいようなセリフまでこなしています。その中でも特に印象的なシーンが駅でのやりとり。小学生なんだから夜の商売なんてできないだろと言う典道に対して着ていた和服から大人っぽい洋服と化粧をし、16歳にみえる?と典道に返すシーンはドキッとさせられてしまいます。

岩井俊二監督は「リリィシュシュのすべて」などにもみられるように子供らしい、あどけない演技の中に急に大人びたセリフや行為を巧みに挟みます。これに対してよく、ませた子供ばかり描くなどと言われることが多いです。しかし、子供は大人が思うよりも大人びていて、単純にはいかないような想いを抱えているように私は思います。だからこそ、監督の描く子供達はリアルで、ほかの作品以上に私たち大人に懐かしい感情と刺激を与えてくれる、本作もそんな作品のひとつです。

誰もが今も考える、もしもあの時...

本作では前半、水泳で勝負に典道が負けた世界と後半、勝った世界とが描かれます。一応後半に入る前に典道のあの時勝っていればというセリフが入るものの明確にどちらが実際に起こったというようなことは言われていません。前半も後半も想像とは言い難いような、想像のその先まで描かれているからです。誰もが一度は思いを巡らせたことがあるあの時こうしていたら...ジュブナイルものの中にもどこかSFチックなそんな世界をあくまでさらっと、長々とした説明なく挿入している、そしてどちらの世界も大事な役割を担わせている点で本作は非常に秀逸だなと感じました。実はこの方法を最近の作品でうまく行っている作品があります。2017年のアカデミー賞でも話題になった「ラ・ラ・ランド」です。ラ・ラ・ランドでは作品の中でこの手法で恋愛のほろ苦さやノスタルジーなどを感じさせる方法を行っていました。しかし、ラ・ラ・ランドの舞台はアメリカ、ハリウッドと日本人には非常に馴染みが薄く、共感しづらいといった感想もちらほら聞いております。そんな方に、日本の田舎の夏休みの花火大会という舞台で描いている本作では存分に初恋のほろ苦さや甘酸っぱさ、また、子供の頃の懐かしい思い出に浸るにはぴったりの作品であると思います。

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