懐かしい気持ちにさせてくれる名作。
夏目、期待の続編。
夏目友人帳、衝撃の第一シリーズから間もなく公開された続編。
愛くるしくも、真の姿は最強の妖怪・斑に加えて友人も増えた夏目が送るハートフルなストーリが展開される中、節々に耳に響く心地いいBGMも相まって「夏目友人帳らしさ」満開である。
ゆるやかな曲調と、柔らかなタッチの絵が最高のタッグを組んでいるのもまたこのアニメの特徴。これも騒々しい都会でなく、人里離れた田舎で繰り広げられる話だからこそ。
エピソードごとに新たな冒険と試練が夏目を襲っていくのだが、それらを葛藤や苦悩を克服しながら乗り越えていくその姿もまた味がある。高校生という思春期真っ只中だからこそ直面する、「自分」という存在の認識、そして承認の過程も垣間見ることができるのが、夏目友人帳である。
周囲の友人にはない「特別」な能力を生まれながらにして持っている夏目は、ある意味で恵まれているとされるべきだが、なかなか周囲に受け入れられずに育ってきた特殊な過去を抱えている。この過去が大きく影響して心を閉ざしがちだった夏目が、様々な妖怪や友人との交流を通して「内」だけでなく「外」の世界も認め始めるのだ。
本作は、普段の喧騒から離れて、若かりし頃のほろ苦い「もどかしさ」に浸りたい人にもってこいのアニメシリーズである。現在では、第四弾、第五弾と展開しており、シリーズが進むごとに見え隠れする夏目自身の成長を視聴者自身に重ね合わせて観ることができる。
異なるものを遠ざける人間。
このアニメの一番の特徴と言えるのは、二つの世界観が交わっているということ。「人間」と「妖怪」の世界である。言わずもがな、夏目は「人間」界に属しているが、いつも一緒にいるにゃんこ先生こと最強の妖・斑(まだら)は「妖怪」界に属している。
不運にも、夏目は幼少期からどちらの世界にも敬遠されて育ってきた悲しい過去を持つ。当時周囲に居たクラスメイトや大人たちは自分たちとは「違う」「変な」行動を見せる夏目が怖かった。
人間の悲しい性だが、人は自身の属している狭い世界から蓄積した経験や知識の範疇に収まらない事態が起こると、頭で理解できず「わからない」という判定を下す。それに伴って、人間は「わからない」ものを拒絶しようとするのだ。遠ざけている限り自分たちに危害は及ばないと知っているからこその行動なのだが、それが余計に幼少期の夏目の子ども心に傷を付けてしまった。
独りで居た方がいいと気がついた夏目は、いつしか心の瞼を閉ざして光が差してくるのさえ拒み始めたのだろう。人間じゃないものが見える能力さえ、自分を否定する要素として組み込んでしまったのである。
夏目友人帳は、ただのんびりとしたストーリー展開で、田舎に引っ越してきた男子高校生の日常が描かれているアニメではない。上記のような暗い過去でさえも真正面から視聴者に突きつけ、人間の惨さも垣間見せるのである。
幼少期を振り返ったとき、あなたはどのような感情を思い浮かべるだろうか。片思いをしていた男の子だろうか、放課後に友達と駆け回った楽しい時間だろうか、それとも静かに図書館で夢中になったあの本だろうか。夏目にとっては全てが消し去りたい過去であり、振り返りたくもない時空間なのである。
暖かみに溢れるストーリー展開。
これまで述べてきたように、夏目の散々な幼少期には価値がないのだろうか。本当に、暗い思い出でしか満たされなかった時間なのだろうか。
答えは、否。
学校での友人を増やし、愉快な妖怪たちとの交流を密にしていく度、夏目自身が気づいていくこととなる。そして、思い出していく。自分に優しくしてくれた大人、自分が通りかかるのを楽しみにしてくれていた妖怪が、そこに存在していたことを。
嫌な思いで紛れてしまった心温まる出来事を、夏目の周りに集まった仲間たちが思い起こさせた。自分が必要とされること、信頼されることの嬉しさを覚えるのだ。反面、思い悩んでいる妖怪たちのために体力を削ってまで、全力で向き合う姿は、多くの視聴者を魅了したはずである。目の前で困っている者たちのために自分に何ができるのか、そこで夏目は自分の無力さを痛感し悩むことになるのだが、それがまた彼の成長を大きく促すこととなるのだ。
いつでも側にいるにゃんこ先生だって、夏目のことを獲物だと言いつつも結局は手助けしてしまう。クラスメイトだって、夏目が危なっかしい真似をしないかと不安になり、心配になる。夏目にとってはあまり経験のないことなのかもしれないが、それが「信頼関係」というものである。
互いに守ろうとし、守られる関係性は見ていて気持ちのいいものである。振り返れば、自身を「自分」であると自覚し、他を自覚できるのは周囲に他人が居てこそ成り立つものである。夏目は成長過程にある短い時間に仲間を知り、助け合うことを知るのである。
彼らは今後も我々に心温まる物語を届けてくれることだろう。
そこには、もうのけ者にされ、石をなげつけれられ、自分の能力を呪っていた少年はいないはずだ。
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