TVシリーズのその後を描く真の最終回
そこには等身大の女の子が暮らしている
『魔法の天使 クリィミーマミ』のOVA版1作目の本作は前後編からなっていて、前半は最終話中心の総集編で、後半は完全なオリジナル作。総集編と言っても作りがしっかりしていて、人間ドラマがわかるように作られているので感情移入もバッチリ。
原案・構成・脚本を手がける伊藤和典が正統派の53話と語るだけあります。
これまでの魔法少女ものはすべて主人公が特殊な生い立ちであったり異界の住人だったりして何某かの使命を帯びて地球にやってきた存在でした。従って魔法が使えなくなる=異界へ帰る、もしくは死、という状態になり、純粋な続編を作るのが難しい状況になっていました。
これに対しクリィミーマミは等身大の女の子を描いたドラマ中心の作品で、魔法は単なる飾り物でしかありません。魔法を中心に描いていないのでそれを無くした後も彼女たちの生活が続いていくのです。
キャラクター達の生活をちゃんと描いたマミだからこその本作と言えるでしょう。
魔法少女と魔女っ子は違うという議論も一部では盛んですが、マミは明らかに前者。しかしそのどちらを取ってもマミほど秀逸な作品はありません。それは魔法に目が行くあまりキャラクターをおざなりにしてきた他作品との差でもあります。
クリィミーマミは普通の女の子である優が魔法を使えるようになった話。そして本作では対照的に魔法が使えない、魔法に憧れる普通の少女、愛ちゃんを描いてあるのです。
魔法が使えない魔法少女
本作は魔法少女ものなのに主人公が魔法を使わない(使えない)という一風変わった作りになっています。
それなのに魔法を使えない一般人の愛があたかも魔法少女になったかのように見せるという推理小説のミスリードを踏襲する念の入った作りっぷり。2つの異なる立場と境遇を入れ替えてあるので、TVでその片方を存分に味わった視聴者は容易に引っかかるわけです。
その時にマミという存在がどういうものであったのかを再確認するシーンもあり、13話の鏡のむこうのマミを彷彿とさせます。
それまでの魔法少女は変身したときはあくまで主人公が成長した姿でしたが、マミは本当に優の成長した姿なのか。フェザースターの魔法で変身すると誰が変身してもマミになるのでは無いか。
結局その答えは出ないまま終わりますが、その後のぴえろ魔法少女シリーズではすべて主人公の成長した姿というのが統一されているので、おそらくマミも優の成長後の姿じゃ無かろうかと推察されます。
OVA2作目のロンググッドバイでも優がマミに見間違えられるというシーンもありますし。魔法が使えなくなってからこの話を持ち出すあたり、ぴえろやるなと唸ってしまいます。
TVシリーズの最終回エンディングに二児の母となった優が出ていますが、流石にそこまで育つとあまり似ていないかな?
恋物語
クリィミーマミは優と俊雄の恋物語でした。
TVシリーズの最終回で決着が付いた二人でしたが、その影には当て馬にされて泣いているみどりがいたのです。
心優しい彼は二人と友人である事を選ぶ為、恋心を殺してそばに居ることにしたのでしょう、本作でも二人の友人として協力を惜しみません。そして愛に出会ったときから惹かれていき…。魔法を使えなくなった普通の少女と、魔法に憧れる普通の少女、対照的な2人に恋したみどりの話が隠れているのです。
愛に初めて会ったとき、エレベーターが閉まる寸前に撃たれたふりをしておどける彼は確かに好印象。最後にみどりのポテチを食べる愛もすごくかわいいですよね。
OVA第2作のロンググッドバイを見ればその結末が判りますが、この2人はかなりお似合いだと思っています。
そもそも愛はTVシリーズ最終回のエンディングに1カットだけ登場した存在で、OVAの企画も上がっていない状態からこの話に作り込んでいくあたり、スタッフの本気を感じます。
本作はOVA史上5作目にあたり、世の中にOVAという単語が生まれてすぐな作品な訳ですから。
おもちゃや魔法にこだわらない真実味の高いドラマ
そもそもクリィミーマミは未就学児童向けのTVアニメとしてはかなり高視聴率で、平均して10%台の後半をマークしていました。そして最終回に至っては関東で22.2%という高数値。実に5人に1人が見ていたのです。おもちゃの売れ行きも好調だったようで、それが本作の制作を後押ししたようです。
当初はビデオのみの販売で考えていて、あまりに無茶だろうと頓挫しかけた所にNTVが特番で放送するからとGOサインを出したので、当時はまだまだ庶民が手の届かないところにあるビデオは売れなくても構わないというスタンスで制作されることになったそうです。
そしてTVシリーズ同様、各キャラクターの心情を大切にしたドラマ作りに集中した為素晴らしい出来映えとなり、アニメとしては異例なミュージッククリップ2本を含んだOVA4本(本作含む)に短編特典映像2本という後続作へと繋がっていったのでしょう。
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