怪物が象徴する「不安」とは - グエムル -漢江の怪物-の感想

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怪物が象徴する「不安」とは

3.53.5
映像
3.0
脚本
4.0
キャスト
4.5
音楽
3.0
演出
3.0

目次

モンスターパニックの形をした強烈な社会風刺作品

映画冒頭で米軍基地の研究者が汚染物質・薬剤を下水に流したことが原因で突然変異しグエムルは誕生します。

その後、下水で育ち、ソウルにある漢江(ハンガン)という川に憩った人々をとって食べて大きくなっていきます。グエムルに子どもをさらわれた家族がモンスターと戦うといったモンスターパニック映画です。モンスターパニックの体をしていますが、非常に強い社会風刺的メッセージが込められています。

なぜなら実際に高度経済成長期の日本と同様に、韓国では急な経済成長が原因で水質汚染が問題化しました。漢江はソウルのシンボル的な川で市民の憩いの場所としても有名です。韓国の経済成長期にそのソウル市民の憩いの場所であった漢江流域の水質汚染が問題になりました。現在は水質汚染の研究がされ対策がなされるようになり綺麗な川を取り戻しているようです。

またその水質汚染の原因を、韓国の研究者ではなく「米軍」の研究者にしているところと映画内の米軍の対応でポン・ジュノの反米的思想が痛烈に表現されています。

監督 ポン・ジュノ映画の顔:俳優陣

「グエムル-漢江の怪物-」の監督、ポン・ジュノといえば、多くの人が初めて目にしたのはオフ・ビートでブラックな笑いが散りばめられた良作「吠える犬は噛まない」でした。犬を探している女の子と、その犬を食べてしまったおじさんとのやりとりを非常にコミカルに描きました。そして韓国で実際にあった未解決事件を題材に韓国ノワールの大傑作「殺人の追憶」を製作し世界的にも一躍有名になりました。「グエムル -漢江の怪物-」にはその2作品に主演していたソン・ガンホ、ペ・ドゥナが出演しており、力の入った作品であることがよくわかります。そして韓国映画の中でも記録的な大ヒットとなったのでした。

悪者は一体誰だったのか?

実際、この映画では人間がグエムルと戦って最後にはグエムルを殺すことになります。しかしグエムルは研究者によって生み出された異形の存在、それは日本映画におけるビキニ環礁の水爆実験による放射能によって生み出されたゴジラのような存在です。

グエムルも同様に生み出したのは研究者の薬剤によるものであり、グエムルに罪はありません。グエムルはお腹が減ったので近くに来た生き物(人間)を捕食していたにすぎません。そのためお話が進むにしたがってグロテスクな見た目とは裏腹にグエムルに対し動物愛護的な感情が徐々に芽生え、グエムルを殺すことに疑問を抱くようになります。

ノーマライゼーションという考え方

ノーマライゼーションとは1960年代に北欧から広まった障害者福祉をめぐる社会理念の一つで最も重要なものの一つです。障害をもったひとと、そうでないひとが同様に暮らしていくための考え方です。公害で被害を受けるのは何も自然だけではなく人間も同じです。

ノーマライゼーションの考え方でいうと、この映画の結末はグエムルとの共存、共生を目指す、もしくはグエムルが殺したことを正しかったことなのか振り返る場面が必要であったと言えます。この映画にそれはなくモンスターパニック的なラストのカタルシスが優先されています。

怪物が象徴するものは:グエムルと廃棄物13号(機動警察パトレイバー)

グエムルの造形デザインで類似性、いわゆるパクり説が浮上していたのが機動警察パトレイバーの「廃棄物13号」です。

二つの作品のあらすじを要約するとグエムルは「米軍の汚染物質により突然変異で現れた怪物を、その後火炎瓶で焼いて殺す」、一方、廃棄物13号は、「米軍が秘密裏に作った生物兵器が逃げ出し、その後、火炎放射器で焼かれて死ぬ」というストーリーです。これだけみると非常に似ています。またその造形も非常によく似ておりネットでも嫌韓のレビュアーには、その一点において批判されることとなっていることも事実です。

製作時期も「廃棄物13号」は2002年、「グエムル−漢江の怪物−」は2006年ということもあり時系列としては「パクリ」という汚名を着せられてもおかしくはないかもしれません。ちなみにポン・ジュノ本人は製作時に「廃棄物13号」を見たことはないとコメントしています。

確かにポン・ジュノが否定するように、この二つの物語は根本から異なっています。実際、グエムルは公害によって変異したものであり、廃棄物13号のように意図的につくられたものではあります。グエムルは水爆実験によって生み出されたゴジラや、公害怪獣の「ヘドラ」と同様です。それらが象徴するものは資本主義や近現代の文明や自然破壊への不安であると言えます。

逆に廃棄物13号は、科学の進歩に伴い生物を創造できてしまうことへの恐怖、 DNA操作やクローン人間、はたまたフランケン・シュタインと同様の不安であり、それはキリスト教がもつ人類創世のアンチテーゼへの不安とも言えます。

確かにデザインや造形は非常に似ており、表面的に2作品をパクりと括ってしまうことも可能ではあるが、グエムルも廃棄物13号もクリーチャーとして、そこまで斬新でフレッシュなデザインと言える作品ではありません。この映画を「パクりであるから」という理由で見ない、評価しないことは非常に勿体無いといえます。

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