唯一無二の恋愛映画 - ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)の感想

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唯一無二の恋愛映画

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

全体を通して漂う独特の雰囲気

ジェシー役のイーサン・ホークとセリーン役のジュリー・デルピーによる恋愛映画。舞台はドイツのウィーンで、車窓からの景色ではじまる。
オープニングからどことなく「旅」を感じさせるのは、景色と共に流れるスピード感あるクラシックのせいかもしれない。見知らぬ二人が旅先で恋に落ちるストーリーは恋愛ものの大道といった感じがするが、この映画にはある種独特の雰囲気が漂っている。その要因として、まず圧倒的な2人だけの会話にあるだろう。2人が他の人と会話をしたのは町の見どころを訪ねた2人の学生、手相占いのおばあさん、宿なし詩人、バーの主人ぐらい(しかも会話時間はそれぞれ2、3分ほど)で、残りは2人が語り歩くのを延々と映像にした映画だ。恋愛映画は数あれど、これほど二人の会話のみで続く映画は他にないのではないだろうか。
また、この映画は現時点で続編が2つ制作されているが、どちらの続編も実際の役者の年齢の経過に合わせて映画の中の2人も年を重ねる設定になっているのだ。それぞれのタイトルの設定も心憎い。なのでこの映画も邦題は「恋人までの距離」だけど、原題のままで良かったのではと思う。
この映画を初めて観たときはまさか続編があるなどと思ってもみなかったので、2人が再会してその続きが観られると知った時は感無量だった。

リアルで日常的な演技

ジェシーがセリーンに一緒に下車しようと切り出すときの緊張や少し興奮した感じの演技はさすがイーサンホークだと思う。あの息づかいなんかは「今を生きる」を思い出してしまった。バスの中での会話のシーンは7分ほどあるが、カット割なしで撮られている。もちろんその間の2人の演技も途切れることなく自然で素晴らしい(アドリブも入っていそうな気がする)。船の上のシーンで、セリーンが2人の時間は今夜だけにしようと切り出してみるところは、本当は強引にジェシーに次の再会を押し切ってほしかったのかもしれないようにも見える。複雑な心境をセリーンが見事に演じたシーンだと思う。全体を通して、ジェシーは最初から最後までそれほど態度が変わらないが、セリーンは時間が経つにつれ大人しい雰囲気からだんだんと気が強い部分も見え隠れして、少しずつ心を開いていっているのがわかる。そのあたりの微妙な演技も見事だ。いずれにしても演技、セリフ、演出がリアルなので、会話を重ねるごとに2人が着実に惹かれあっていく様がよく伝わってくる。
この映画の始まり方は何度観ても自然に気持ちが映画に入っていけて好きなのだが、エンディングは更に良い。別れた後眠たさと心地よい疲労感、昨夜の余韻を残しつつお互いの家路に向かう2人、そのシーンの合間に2人が昨夜語り合った場所の早朝の景色が映される。その景色は昨日と全く同じ場所なのだが、朝の景色は昨夜とはあまりに対照的で日常的なので、見る側に物語の終わりを伝えてくれるのだ。もちろんこの演出もあくまでこちらが自分で自然にそう感じるだけで、こちらの感情を揺さぶろう、感動させようして誇張された音楽や映像を流したりは一切ない。

起伏がない故に味わえる穏やかな感動

この映画のストーリーに起伏はない。他のごく一般的な恋愛映画、例えば、恋人に振られてもう2度と立ち直れないと思ったら身近にいた人が実は運命の人だった、といった見る側にわかりやすい設定、音楽やセリフで感動を促す映画ではなく、どう感じるかはあくまで見る側に委ねられているので、そういうところで好みがわかれる映画かもしれない。
この映画はもちろんどこからみても恋愛映画なのだが、これが親子との絆が少しずつ深まる映画であったり、友情が芽生えていく映画であっても、同じように良い作品となるような雰囲気を持っている。どうしてそのように感じるのかは、おそらくこの映画の大部分が占められているおしゃべりの内容が、彼らの距離を縮めるための道具でつまりはそれほど意味の深いものではないからだろう。もちろん話す内容がなんでもいいわけではなく、この会話の内容によって2人の性格や正義感の強さや若さを十分感じさせてくれる。最初観たときにはもちろん2人とも主人公だと思ったし今でもそれは変わらないのだが、あえて2人の中でもどちらが主役かと考えた場合、セリーンではないかと思う。もちろん最初に誘ったのはジェシーだし電車を降りようと提案したのもジェシーだが、その後相手を深く好きになっていく様はセリーンの方が、少し軟派な感じがするジェシーよりも描かれているように思う。監督がその辺をどう考えていたかはわからないが、最初の電車の中でもセリーンがジェシーより先に映るし、ラストのシーンもセリーンの電車の中で終わるのでひょっとしたら監督もセリーンをよりメインに考えていたのかもしれない。
何かを経験したとき、誰かに話したくなることと自分だけの秘密にしておきたいことがあるとすれば、この映画の中の出来事は後者だと思う。そういった自分ではない誰かの秘密を垣間見ている感じを味わえるのは映画の醍醐味の1つではないだろうか。

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旅先で出会ったふたりの会話劇が秀逸。ウィーンの美しい街並みを背景に、ただただ2人のとりとめのない会話が続く。偶然出会ったふたりが、お互いの育った環境、過去の恋愛遍歴、人生観、価値観などを、思想を交えて会話をかわしていく。物語が大きく動くこともなく、淡々とした内容だが、その台詞ひとつひとつや、ふたりの距離が縮まっていく様が視線の動き、表情で表現され、何も起こらなくともドキドキさせてくれるのである。旅の途中で出会い、旅が終わるまでのつかの間の恋。偶然、列車で出会ったふたり。ふとしたきっかけで会話が始まり、2人は意気投合する。旅の途中だった男が、次の朝の飛行機で帰るまでの間、一緒にいることにしたふたり。国籍も違う男女が、出会ったばかりなのに、お互いを知ろうとたくさんの会話を交わす。笑い合ったり討論になったり。2人の会話は止まらない。彼の飛行機の搭乗時間がせまるにつれ、ふたりの距離は縮まって行き、...この感想を読む

5.05.0
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