見れば思わず自転車で走りだしたくなる青春アニメ
目次
まっすぐな想いのぶつかり合いが熱い
「弱虫ペダル」は、アニメやゲームをこよなく愛し、秋葉原に通い続けていたオタクの小野田坂道が、ロードレースの名門総北高校で多くの仲間に影響を受けながらロードレーサーとして成長し、力をつけてインターハイに臨むという物語。その1年生のインターハイのクライマックスをまとめたものが本作品である。新編集ということで、見る前は果たして面白いのかと不安もあったが、問題なく胸を熱くさせられた。ロードレースならではの「ただひとつのゴールを目指して走る」というシンプルな目標に対して、高校生ならでは純粋な思いを持った選手達がひたすらに努力するという構図が、自分が大人になるにつれて忘れてしまっていたまっすぐな想いを思い出せてくれるのだろう。もちろん登場キャラクターの中には一癖も二癖も持っていて、一見「まっすぐ」という表現とは離れているように感じる者もいるかもしれない。小野田をロードレースの世界に引き込んだきっかけを作った今泉俊輔(総北高校1年)はクールでプライドが高く、少しひねくれて見えるし、御堂筋翔(京都伏見高校1年)なんかは悪役の代表という風貌で、卑怯なことも含めて何をしてでも勝つというねじれ曲がったキャラクターに感じる。しかし、このインターハイのクライマックスでの彼らの回想シーンや言動から、それぞれタイプや方向性が違っても、そこに確かに存在する「まっすぐな想い」を知ることで、私たちはそのぶつかり合いに心を熱くさせられるのだろう。
声を出して応援したくなる主人公「小野田坂道」
主人公の小野田は誰もが応援したくなる、愛されキャラクターだと思う。小野田は高校入学までスポーツの経験はほぼなかったが、アニメやゲームのためにママチャリに乗って秋葉原まで通ったことで、気づいたら並みのロードレーサーよりも力をつけていた。ここまででも現実離れはしているが、さらには総北高校自転車競技部に入部後、本格的に競技を始めて1年にも満たないうちにトップレベルの強豪たちと全国優勝をかけて戦うという、さらにぶっとんだ設定も持っている。しかし、彼の純粋で優しく、それでいて芯が強い性格に触れることで、そんなことはどうでも良くなってしまうのであろう。彼がただひたすらペダルを回したり、仲間を想って奮闘したり、何回追い抜かれてもくらいついて追いたりする姿を見ると、本当に声を出して応援したくなってしまう。そして彼が勝った時には心から喜んでしまうのだ。人間離れしたロードレースの力以上に、人間味溢れる彼が成長する姿を見ることがこの作品の醍醐味なのだろう。
本作で小野田の声優を務める山下大輝も、その魅力を存分に引き出している立役者のひとりだと感じる。中性的な声で小野田の女々しさや優しさが上手く表現されていると思うし、時よりみせる力強い言葉も応援したくなるパワーを持っている。山下が2012年の終わりに声優デビューをし、名前のある役を務めたのは2013年が初である。弱虫ペダルのアニメ版放送開始も2013年だから、山下が声優デビューをした初々しさと、小野田のロードレースを始めたそれとが上手くマッチングしているのかもれしない。
初心者の主人公を支える「絆のチーム」総北高校
小野田がどんな潜在能力を持っていても、そこはロードレース初心者。レースでも未熟な場面を幾度となく見せる。それを支え、ともに全国優勝を目指すのが総北高校自転車競技部の選手達だ。そしてこれがまた、よく出来たチームなのである。
小野田と同級生でレギュラーの今泉俊輔と鳴子章吉は、それぞれオールラウンダーとスプリンターと役割が異なる。小野田はクライマーであるから、それこそ三者三様である。性格もうまく分かれていて、優しくも芯が強い小野田、クールでエリートだがメンタル面に不安も持つ今泉、陽気で明るく積極的な鳴子という絶妙なバランスが、彼らを見ていて飽きない要因になっているのだろうと思う。互いの良いところを引き出し、悪いところをしっかり補い合っているように見える。弱虫ペダルを見る前の私はロードレースのことをあまり知らなかったが、アニメの中でクライマーやスプリンター、オールラウンダー、アシストやエースなどいろいろな役割があることが示されており、このようにロードレースがチーム競技であることを強調されることが、さらに面白さを際立たせているように思う。最強の1人だけでは勝てないところが、また良い。
残りのレギュラーは、高校3年生の金城慎護、田所迅、巻島裕介の3人だ。彼らは非常に大人で、頼れる存在である。この3人も1年生の3人のようにそれぞれ役割が異なる。金城は今泉と同じオールラウンダー、田所は鳴子と同じスプリンター、そして巻島が小野田と同じクライマーである。3年生と1年生のそれぞれの師弟関係や絆があるのだが、個人的にここが非常に好きなポイントだ。実力のある3年生が未熟な1年生を助けることが基本だったこれまでの構図が、クライマックスになって逆転する。3年生に育ててもらった1年生が、今度は3年生とチームを支えるその成長に、深い感動を与えられる。総北高校のメンバーが互いを励ましあったり、声を掛け合って思いを託したりする描写に心をうたれた人は多いだろう。
「とにかく強くて魅力的」ライバルチームの箱根学園
途中、主人公の所属する総北高校が絶対に勝てないのではないかと思うくらい、ライバルチームが強い。そして、とても魅力的である。総北高校と完全なライバル関係にある箱根学園は、「全員がエース」と自負している王者の風格がプンプンに漂うチーム。主将の3年福富寿一はまさに箱根学園の象徴という存在で、その口癖がとても印象的だ。
「俺は強い!」
この言葉を聞くと自然とにやっとしてしまう。あまりにもまっすぐな言葉。その威厳と自信はシンプルにかっこ良く、見ていて清々しい。きっとその清々しさに、思わずにやっとしてしまうのだろう。もちろん、強くあり続けるが故の苦悩もあるだろうとは思うが、その中で言い続ける姿に勇気づけられる。「俺は強い」と言いながらも最後には個でなくチームを第一に考えた行動も熱い。
小野田のライバルとなる1年クライマーの真波山岳は純粋に自転車を楽しむ姿が印象的だ。しかし、その楽しみ方は尋常じゃない。
「俺、生きてる!」
真波が自転車を漕いでいるときに発する言葉は、半ば狂気じみている。病弱で運動ができなかった過去を持っているからこその感覚なのだろうが、生きる楽しさ自体が自転車で走ることなのだから、スケールが違う。それは嫌でも強くなるだろう。
また、アニメの中で時々見られる箱根学園のギャグシーンも面白いから、全体の存在感としても主人公チームに全く劣っていない。ライバルたちがとてつもなく強く魅力的なことが、この作品を2倍も3倍も面白くしていると感じる。
逆転に次ぐ逆転に目が離せない
弱虫ペダルは逆転がもう半端ではないくらいに起こる。相当なスピードで自転車を走らせているはずなのに、どんなに離れていても追いついてくるから、展開が最後まで分からない。これも相当現実離れしているが、それを超える面白さがあるから、許せるのであろう。
ライバル対決は特に熱い。明らかに異形だが孤高の強さを誇る御堂筋、そして主人公小野田と真波の対決は、もう目が離せなかった。この逆転シーンには回想シーンが多く描かれるが、これもまたいい。ギリギリの状況の中で今までの経験や努力を振り絞って前に進んでいるということが伝わってくるし、競り合いの中でそのキャラクターを深く知ることで、最後にはどちらも応援している自分がいる。時々そんな回想をしている暇があるのかと感じてしまうこともあるが、現実では数秒しか経っていないので問題はない様子。全国屈指の選手たちだから、思考スピードも尋常ではないのだろう。いずれにせよ、迫力満点の逆転に次ぐ逆転には息をのんで時間を忘れてしまうし、心も身体も全部出し切った選手たちがたどり着く決着には感動せざるを得ない。
まっすぐに自転車に向き合う選手達の熱いレースを見終わった時、現実世界の色々なわだかまりを取り払い、小野田のように一心不乱にペダルを回して走り出したくなるのは私だけではないだろう。
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