本当にあった魔女狩りの時代をどう切り抜けていくのかが見もの - 辺獄のシュヴェスタの感想

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辺獄のシュヴェスタ

4.254.25
画力
3.75
ストーリー
4.50
キャラクター
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設定
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演出
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本当にあった魔女狩りの時代をどう切り抜けていくのかが見もの

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画力
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ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
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4.5
演出
4.5

目次

あまりにも賢すぎる少女エラ

この物語は、エラの復讐劇がメインになっていますが、エラはまだ復讐にまではたどりつけていません。土俵に立つために、幻覚を見せる薬物入りの食事にも負けず、拷問にも負けず、日々の仕事をしながらひたすら生きていかなければなりません。その光景が…とにかく辛いですね。そもそも、エラは魔女狩りとは関係のない家庭にあったはずなんですよ。でも家がとても貧しく、しかもエラは周りから気味悪がられるような行動を平気でとる子どもだったため、売られてしまったんですね。一般家庭みんなが貧しいという時代ですから、子だくさんだとむしろ困るというのが親の正直な気持ちで、それならあまりかわいげのない子は売ってお金に換えてしまいたい…ひどい時代だ。でも本当にあった時代ですからね。貧困になればいつの時代でもそういうことをしてしまうリスクはあるような気がします。

エラはエラなりに、正しいことをしようと思って行動しているだけだとは思います。でも少し賢すぎて理解されないというか。この点においては、すでにこの時代でいう賢者(魔女)の素質を持っていたと言えるのかもしれません。身売りされてすぐに知恵をしぼって逃げ出し、アンゲーリカに拾われました。しかもただで拾われたわけではなくて、アンゲーリカが多額のお金と拷問をくらってからです…そしたらもうこの人を大事にしていこうとしか思えませんよね。そこまでして守られたことが今までなかったわけですから。そんな大切な人を目の前で拷問の末に処刑されたなんて…辛すぎる。一番ショックだったのは、つるしたアンゲーリカを高いところから落下させて落とし、その反動で関節を脱臼させるというシーン。地面にたたきつけるのでなく。それを見て喜ぶ民衆…うわーうわー…同じ人だと思いたくない。そしてそのあとのエラの表情ね。あいつを殺してやるっていう目…しばらく夢に出てきそうなくらい怖いです。

そして修道院に引き取られてからのエラの判断力のすごさ。そこにある現象をそのままにとらえずきちんと考えてから行動するちから。すごいです。どうか復讐を果たしてほしいとすら思ってしまいますね。しかし…毎日吐き続けるってできるの?

賢者を処刑する魔女狩りの時代の恐ろしさ

薬を作って人を治せるって、最高じゃないですか。なのに、それを恐れて殺すんですよ?祈りだけが救済だと言って…魔女だっていいじゃないか。命を救った恩人なのに、知識ある者はいずれ支配する側に歯向かう存在になるという理由で殺されていく…祈ったからって救われるわけないって今ならわかるけど、知識のない時代には絶対にわからない。だから、悪の総長は知の独占を始めた…知識こそが財産であることを、この人はわかっていたんですよね。これさえ広まらなければ、何も知らない民衆はただ教会に従うしかなくなると。そして神をあがめることがすべてになり、争うことや欲望のまま動くことをやめるはずだと。貧しい家庭に生まれれば一生貧しく、裕福な家庭に生まれれば一生金持ち。だけど争うことはせず、心豊かに生きることができる…その理想郷を求めて、いろいろな人が宗教によりどころを求めます。現代においても色濃く残っている地域もあるし、それくらいいつの時代にも崇拝する気持ちが支配と結びついてきたので、すべてを悪いとは決して言えないことだと思います。でもそれを作っているのも人間であるとしたら、果たして正しいと言えるのでしょうか。

人には人は変えられない。信賞必罰の神という概念だけが、人を変える。

失敗すれば罰がある。確かにどんな子どもでも教わることだけれど、現代ではそこに死の恐怖はありません。もしかしたら、それくらいの覚悟があったらなんだってできるかもしれない。だけど簡単に命は失っていいはずがない。自分のために生きれなかったこの時代が、すごくすごく胸を打ちます。

修道院での悪行の数々に胸がざわざわ

確かに、神に祈って気持ちが救われることってあると思うんです。だけど、腕切り落とすとか、火あぶりとか、そういうことはしていいのでしょうか。人が人を傷つけていいのでしょうか…神の命に背いていると神は言ったのでしょうか…言っているのは人間でしょうよ。たまたま運よく神側にポジションが用意されただけの同じ人間なのに、よくもまあこれだけグロいことを毎日できるよね…神様の命令って毎日言い聞かせてなかったら、罪悪感で死にそうです。

一番やばいのは、マナですよ。薬物入りでしあわせ~な気分にして「辛い毎日の中でも、ほらこんなに美しいものが広がっているわ…」なんて幻覚みせて悪いこと忘れさせようとするなんて…いつの時代も人間は辛さからの解放を求めているものなんですね。マナによる幻覚がうれしく楽しいものばかりだったけれど、実際にはいろいろな作用があると思うし、そこはちょっと着色入ってるかなって思いましたが、それでも現実にあったんじゃないかなって思えますね。

仲間たちは果たしてどこまでエラを信用しているだろうか

良き人間には必ず協力者が現れる。エラの信念に同調して、カーヤ、ヒルデ、テア、コルドゥラと仲間が増えていっています。しかし、果たして彼女たちはどこまでエラを信じているでしょうか?人数が増えるほど、全員が生き延びることも、裏切らずにい続けることも、難しくなってきます。しかもこういう物語の場合、たいてい初めに最も信用した人物が裏切りの主軸になってしまうパターンがあるので…それが起きたらどうしよう。もう人間は信じられないということが決定されてしまいます。そうしたらエラはただの復讐の鬼として、改革というところまではいかなそう。

今までも、エラたちと同じように、悪行に反するべく脱走しようとした人たち・マナを吐き続けた人たちがいました。しかしいずれも失敗して死んでしまった。命を失ってしまった人たちのためにも、どうかエラたちが生きて、生き証人として世に出てほしいと願ってしまいますね。

仲間が増えてこれからいったいどうなっていくか

物語の展開は遅めだと思われます。次々出てくる難関を11つクリアしていっていますが、まだまだ彼女たちに完全なる希望は見えてきていません。それでも絶対にくじけないエラとそれについていこうとする仲間たち。テア、ヒルデ、コルドゥラ、カーヤ、どうかみんな助かって!そして、素晴らしい人間になってほしいなと思います。どんなことをしてでも生きて、総長の前に立ってほしいです。ただ、エラはアンゲーリカの復讐のためだけに生きているところがあるので、ただの復讐で終わってしまうかも…これだけ賢い子たちが集まっているのだから、賢者の子どもたちとして、世に知を広める人材になってくれたらいいなーなんて思っています。総長が目指す世界は、争いや犯罪のない世界です。でも、そのために何百何千という人間を平気で殺して見せしめにする。しかも罪なき普通の人間を。それは間違っていると言ってしまってもいいですよね?だから、どうか平和を導くリーダーになってほしいなーと個人的には願っています。

まだまだ先は長そうな物語ですが、エラたちの解決方法には毎回度肝を抜かれますし、そろそろグロめの描写も慣れてきたかな…これから彼女たちにどんな困難が待ち受けているのか?そしてどうクリアしていってくれるのか?展開が楽しみでなりません。

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