自衛隊員への見方がかわるドラマ
そんなに遠くなかった、自衛隊
私たちは、日頃「自衛隊」と聞くと、なんだか自分の住んでいる世界とは違うところに住む人たち、などと思ってしまっている。でも、自衛隊員も実はそんなに遠い存在ではなかったのだ。私たちと同じように、夢を追いかけたり、悩んだり、恋をしたり、がんばったりしているんだな、と思わせてくれるドラマだ。
主人公・空井大祐(綾野剛)は、ブルーインパルス搭乗を目指してひたすら努力してきた。しかし、せっかくその資格を得たのに、交通事故でパイロット免許停止に。大きな夢が叶いそうになった瞬間に奪われたのだ。失意の中、新しい部署である「航空幕僚監部広報室」にて少しずつ自分の進むべき道を模索する姿は、自分自身、あるいは世の多くの若者達の姿と、何ら変わらなかった。挫折と、そこからのリカバリーの物語は、舞台が「自衛隊」であるというだけで、我々の住む世界との違いは感じられなかった。
また、空井二尉の周りにいる広報室の面々も、どこにでもいる職場の同僚に見えた。
上司の鷺坂正司(柴田恭兵)は、まるで企業の敏腕営業部長。リーダーシップを発揮して、どんどんメディアに自衛隊を売り込んでいく。
几帳面な先輩や、少しえらそうな俺様的先輩、女を捨てた先輩に、年齢は上だが階級は下のベテラン部下。
それぞれがそれぞれのストーリーを生きて、「自衛隊広報室」が成り立っているのだ。
「自衛隊員」は、当たり前だが一人一人、血の通った人間であり、心があり、精一杯生きているのだ。
そういうことを、ごく自然に感じることのできるドラマである。
女子自衛官もまた、同じ
ドラマの舞台である、航空幕僚監部広報室に、紅一点、柚木典子(水野美紀)がいる。
この女性のあり方がまた、現代の働く女性の苦悩をそのまま表していて、興味深い。
柚木は防衛大学卒のエリートで、広報室に配属される前は、高射隊で幹部として部下の前に立っていた。しかし、新米の女性幹部に対して、さげすむような態度の男性下士官達。
実は、美人なのにがさつな態度をとり続けるのは、このとき身につけた「女を捨て、男のように生きる」という柚木なりの処世術であった。
こういうことは、一般社会でもものすごくよくある話しであろう。女性が女性と言うだけで、馬鹿にされ下に見られる。ただでさえ、経験のない新米がいきなり幹部となり、年下のベテラン部下達の前に立つのは、部下は当然おもしろくないし、幹部もやりにくい。
それを克服するための「女を捨てる」作戦なのだ。
柚木の気持ちは痛いほどよく分かる。男社会の自衛隊で生きていくためには、そうせざるを得なかったのだ。
しかし、そんな柚木を女性として見てくれている人がいた!!そこが視聴者にとってうれしいポイントだ。「あんた、よく見てるね、あんた、いい男だね」と賛辞を送りたくなる。
それは、広報室同僚の槇博巳(高橋努)。普段は真面目で几帳面、寡黙な男。
槇は防衛大時代から柚木にあこがれていた。広報室で再会し、そのがさつぶりに失望したものの、柚木の本質を誰よりも知っていた。最初は槇の思いを無視する柚木だが、最後は受け入れる。
もう、この辺は女性視聴者が大喜びのストーリーだろう。本当の自分を見てくれている人がいた、自分の本質を分かってくれる人がいた。
男現場で紅一点何とか踏ん張っている自分に、「俺の前では女でいていいんだよ」と言ってくれる人がいた!!!
「ああ、柚木さん、よかったね」と思うと同時に、女性自衛官もまた、世の働く女性達と同じだなと感じさせる部分であった。
自衛隊員も恋をする
やはり、主人公空井とヒロイン稲葉リカ(新垣結衣)の恋の行方も、このドラマの大事な柱であった。
普通の男女のように、出会い、すれ違い、見直し、惹かれ、恋に落ちる二人。
初めはリカが空井を傷つけ、泣かせてしまう所から始まる。
その始まりが、かなり視聴者の心をつかむだろう。空井の純粋で切ない涙。どうにもならない出来事が自身を襲い、その運命に飲み込まれ、従うしかなかった自分。それを今まで心の奥にしまい込んで、ふたをして、見ないようにしてきた。
そこをリカに突かれたのだ。
リカは思いがけず、空井の心の深いところに切り込んだのだ。
この空井の涙は、自己解放の涙。つまり、リカの前で、素の自分をさらした涙である。
そんな二人が進展しない訳がない。
リカは自信が抱いていた「自衛官」へのステレオタイプの思い込みを反省し、彼らの真の姿に迫ろうとする。それは同時に、視聴者の「自衛隊・自衛官」への偏見に迫ると言う意味でもあった。
視聴者はリカの目を通して、自衛官の生きる様子を見ることになるのだ。
そして、リカが彼らに好感を持ち、空井に惹かれていくのと同時に、視聴者も自衛官に好感を持った目を向けることになる。
最高のシーンは、空井が「2秒だけ僕にください」と言い、リカにキスするところだろう。
空井は、リカが自分や自衛官のことを真に理解してくれたことに感激し、そんなリカを愛しいと思ったのだ。
受容と理解、それが二人を結びつけた。
まったく、どこにでもいる男女の、しかし、本人達にとっては唯一無二のラブストーリーである。
自衛隊員も民間も関係なく、若者は恋をするのだ。
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