自衛隊員への見方がかわるドラマ - 空飛ぶ広報室の感想

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空飛ぶ広報室

5.005.00
映像
4.50
脚本
4.25
キャスト
4.25
音楽
3.50
演出
4.00
感想数
2
観た人
5

自衛隊員への見方がかわるドラマ

5.05.0
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.0

目次

そんなに遠くなかった、自衛隊

私たちは、日頃「自衛隊」と聞くと、なんだか自分の住んでいる世界とは違うところに住む人たち、などと思ってしまっている。でも、自衛隊員も実はそんなに遠い存在ではなかったのだ。私たちと同じように、夢を追いかけたり、悩んだり、恋をしたり、がんばったりしているんだな、と思わせてくれるドラマだ。

主人公・空井大祐(綾野剛)は、ブルーインパルス搭乗を目指してひたすら努力してきた。しかし、せっかくその資格を得たのに、交通事故でパイロット免許停止に。大きな夢が叶いそうになった瞬間に奪われたのだ。失意の中、新しい部署である「航空幕僚監部広報室」にて少しずつ自分の進むべき道を模索する姿は、自分自身、あるいは世の多くの若者達の姿と、何ら変わらなかった。挫折と、そこからのリカバリーの物語は、舞台が「自衛隊」であるというだけで、我々の住む世界との違いは感じられなかった。

また、空井二尉の周りにいる広報室の面々も、どこにでもいる職場の同僚に見えた。

上司の鷺坂正司(柴田恭兵)は、まるで企業の敏腕営業部長。リーダーシップを発揮して、どんどんメディアに自衛隊を売り込んでいく。

几帳面な先輩や、少しえらそうな俺様的先輩、女を捨てた先輩に、年齢は上だが階級は下のベテラン部下。

それぞれがそれぞれのストーリーを生きて、「自衛隊広報室」が成り立っているのだ。

「自衛隊員」は、当たり前だが一人一人、血の通った人間であり、心があり、精一杯生きているのだ。

そういうことを、ごく自然に感じることのできるドラマである。

女子自衛官もまた、同じ

ドラマの舞台である、航空幕僚監部広報室に、紅一点、柚木典子(水野美紀)がいる。

この女性のあり方がまた、現代の働く女性の苦悩をそのまま表していて、興味深い。

柚木は防衛大学卒のエリートで、広報室に配属される前は、高射隊で幹部として部下の前に立っていた。しかし、新米の女性幹部に対して、さげすむような態度の男性下士官達。

実は、美人なのにがさつな態度をとり続けるのは、このとき身につけた「女を捨て、男のように生きる」という柚木なりの処世術であった。

こういうことは、一般社会でもものすごくよくある話しであろう。女性が女性と言うだけで、馬鹿にされ下に見られる。ただでさえ、経験のない新米がいきなり幹部となり、年下のベテラン部下達の前に立つのは、部下は当然おもしろくないし、幹部もやりにくい。

それを克服するための「女を捨てる」作戦なのだ。

柚木の気持ちは痛いほどよく分かる。男社会の自衛隊で生きていくためには、そうせざるを得なかったのだ。

しかし、そんな柚木を女性として見てくれている人がいた!!そこが視聴者にとってうれしいポイントだ。「あんた、よく見てるね、あんた、いい男だね」と賛辞を送りたくなる。

それは、広報室同僚の槇博巳(高橋努)。普段は真面目で几帳面、寡黙な男。

槇は防衛大時代から柚木にあこがれていた。広報室で再会し、そのがさつぶりに失望したものの、柚木の本質を誰よりも知っていた。最初は槇の思いを無視する柚木だが、最後は受け入れる。

もう、この辺は女性視聴者が大喜びのストーリーだろう。本当の自分を見てくれている人がいた、自分の本質を分かってくれる人がいた。

男現場で紅一点何とか踏ん張っている自分に、「俺の前では女でいていいんだよ」と言ってくれる人がいた!!!

「ああ、柚木さん、よかったね」と思うと同時に、女性自衛官もまた、世の働く女性達と同じだなと感じさせる部分であった。

自衛隊員も恋をする

やはり、主人公空井とヒロイン稲葉リカ(新垣結衣)の恋の行方も、このドラマの大事な柱であった。

普通の男女のように、出会い、すれ違い、見直し、惹かれ、恋に落ちる二人。

初めはリカが空井を傷つけ、泣かせてしまう所から始まる。

その始まりが、かなり視聴者の心をつかむだろう。空井の純粋で切ない涙。どうにもならない出来事が自身を襲い、その運命に飲み込まれ、従うしかなかった自分。それを今まで心の奥にしまい込んで、ふたをして、見ないようにしてきた。

そこをリカに突かれたのだ。

リカは思いがけず、空井の心の深いところに切り込んだのだ。

この空井の涙は、自己解放の涙。つまり、リカの前で、素の自分をさらした涙である。

そんな二人が進展しない訳がない。

リカは自信が抱いていた「自衛官」へのステレオタイプの思い込みを反省し、彼らの真の姿に迫ろうとする。それは同時に、視聴者の「自衛隊・自衛官」への偏見に迫ると言う意味でもあった。

視聴者はリカの目を通して、自衛官の生きる様子を見ることになるのだ。

そして、リカが彼らに好感を持ち、空井に惹かれていくのと同時に、視聴者も自衛官に好感を持った目を向けることになる。

最高のシーンは、空井が「2秒だけ僕にください」と言い、リカにキスするところだろう。

空井は、リカが自分や自衛官のことを真に理解してくれたことに感激し、そんなリカを愛しいと思ったのだ。

受容と理解、それが二人を結びつけた。

まったく、どこにでもいる男女の、しかし、本人達にとっては唯一無二のラブストーリーである。

自衛隊員も民間も関係なく、若者は恋をするのだ。

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空に描いた夢

小さな夢が情熱と信念を生む涙なくしては見終わることができない。それは悲しい涙でも辛い涙でも嬉し涙でもない。人が信念を持って幾つもの苦渋の選択をしながら生きる姿が尊いから。成すべき事を成しえるのに並大抵の夢見事や情熱では叶えることができない事を誰もが知っている。そして一人では人は何もできない。対局な二人報道部での仕事を目指す若き女性ディレクターと、幼き日に見た航空ショーの感激を胸に難関のブルーインパルスパイロットを目指した青年。いわば信念で生きる女と情熱で生きてきた男。共通点は二人とも夢を叶えられていない自分と日々もがき続けている境遇だ。奇跡と呼ぶべきか必然というべきか始まりはテレビ局の”制服特集”企画を不本意にも任された報道志望の稲葉リカが航空自衛隊の取材で略して空自の広報室に出入りするところから。そこには不慮の事故でパイロット免許を失くした空井大佑が夢を断たれた失望感から抜け出せない...この感想を読む

5.05.0
  • クーラケイティクーラケイティ
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