こんな完璧な人間がいるのか? - 銀のスプーンの感想

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漫画レビュー数 3,135件

銀のスプーン

4.334.33
画力
4.50
ストーリー
4.17
キャラクター
4.17
設定
4.17
演出
4.17
感想数
3
読んだ人
3

こんな完璧な人間がいるのか?

4.04.0
画力
4.5
ストーリー
3.0
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
4.0

目次

幸せな家族に訪れる試練

早川律は成績優秀しかもイケメンの高校生。少女漫画にはありがちな登場人物ですが、彼はそれだけではなくとにかく性格が優しいです。小沢真理さんの描く漫画では優しくて穏やかな登場人物が多いように感じます。ご本人も優しい方なのかもしれません。

それはさておき、まさに完璧人間の律ですが、彼のいいところは割と普通の高校生だというところです。弟と妹がいて、いい兄ではありますが、普通に友達と遊びに行ったり、最初は全然家事ができなかったり、親しみを感じさせてくれます。

そんな律たち家族が大きな試練に直面します。それは母の入院です。母の入院を知って1人涙する律くんは本当に素敵です。これが夕子との出会い、鰹節との出会いになります。ここで律は料理に目覚めるのですが、最初は全然料理ができず、それも今時の高校生らしくていいですね。最初にもらった鰹節でおかかを作るところなんか、一人暮らしをしたことのある人なら誰でも共感できるのではないでしょうか?

普通は急に母親がいなくなって、自分でご飯の準備をしなくてはならないとなったら、何を作っていいか全くわからないと思います。弟や妹もまだまだ小さいですし、全然当てになりませんから。でもそこを文句も言わずにやってしまうあたり、さすがは完璧人間律くんですね。

上達が速すぎる!

そんなこんなで料理に目覚める律くんですが、ここでちょっと突っ込みたいのは、律の料理の上達が速すぎる!最初はおかかしかできなかったはずの律が、もちろん母のレシピや友人の夕子のアドバイスはあるとは言え、いきなり餃子の皮まで作っちゃったりするのは、ちょっと速すぎなんではないか?と感じてしまいます。まあ読者からすれば毎回レシピも楽しみなのでいいんですが、律がやはり完璧すぎるかな~と感じるところです。

弟たちと一緒に作るシュークリームのケーキなんてもうプロ並みですよね。シュークリーム作りに何度も失敗したりはしますが、あれだけのものを作るのは普通に高校生と中学生ではちょっと難しいのでは…

彼はもともと細かい性格なのでしょう、男性らしからず、どんな料理でもレシピに忠実に作っていますね。これは料理が成功する秘訣だと思います。私はいつも適当に作って失敗してしまいますから。

まさかの事実…

母親が退院することになり、ようやくホッとする律たち。本当は嬉しいはずの1日が、おばさんの余計な一言で台無しになってしまいます。読者としても、自分が養子であることを律は知っているんではないか、と思っていたのですが、実は彼は全然知りませんでした。それだけ両親が愛情を注いで育てたのでしょうし、律は本当にいい子だったんですね。

このおばさん自分の性格がちょっと悪いので、律は絶対に遠慮してるからあんなにいい子だと思ったんでしょう。もちろん将来必ずわかることとは言え、こんなおばさんから聞くなんて律も相当ショックだったはず。読んでいても胸が痛くなる場面です。

その後の律の反応がやっぱり若者で、家族を避けてしまったり、なんとなく親しみが感じられます。でも家族が本当に良い家族でよかった。律も少しずつ自分の立場を受け入れて回復していきます。

再び…

そんな矢先母がまた再発で入院しなければならなくなります。一度退院してからの再発は家族にとってももっとショックですよね。律は弟や妹を落ち込ませないよう頑張ります。弟や妹もまだまだ子供ですから母親の不在は相当答えると思います。

私が大好きなシーンの1つは、弟が1人でお母さんの病院に行くところです。中学生なら粋がっていてもまだまだ母親の愛情が必要ですよね。普段家でもなかなかお母さんを独り占めできないでしょうし、入院というきっかけがあったからこそ、思春期でも素直にお母さんに甘えることができたのかもしれません。

特に男の子は、小さい時は母親にべったりの子が多いですが、中学生くらいになると急に母親離れしたくなる子が多いように感じますが、心の底ではまだまだ母親を必要としています。このシーンはそんな思春期の男の子の心理をよく描き出していると思います。

もう1つ私が大好きなシーンは、妹がスカウトしてもらおうと街へ出かけることです。テレビで女優さんやモデルさんがスカウトされたという話を聞いて憧れた経験は誰にでもあると思います。地方に住んでいてもわざわざ東京まで出かける子もいるくらいですから、東京近郊に住んでいればなおさらチャンスがあると思ってしまいますよね。奏でが自信満々で出かけて行って、誰にも声をかけられずにがっかりしている姿。それを迎えに来る頼もしいお兄さん律。今シーンは本当に大好きです。こんなお兄さんなら誰でも自慢したくなります。

環との関係

この漫画でもう1つ気になるのは律といとこの環との関係です。2人の会話から過去にキスなどをしたことがあったことはわかるのですが、いまいち分かりにくい関係です。環は確実に律のことが好きだと思いますが、律はなかなか感情がわかりにくいです。優子に接する態度もまるで女友達のようですし、実は律は女性に興味ないのかな?

環は小さい頃からなんでもできる優秀な律に嫉妬してるようですから、彼に対する気持ちも好きというよりは、征服したいという気持ちがあったのかもしれません。

この漫画は割と長編なので、ストーリー以外にも律の作る料理のレシピなど結構見所があります。まだまだ新刊が楽しみですね。

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漫画だけど、料理本も兼ねる社会問題も描き出している鋭い感覚の作品

孤高のプリンスの涙父は3年前に他界。母の入院。日常であって、非日常的な一日から物語が始まる。母の症状だが、医者に告知希望という言葉にあるように、何だか重そうなのかなという感じが伝わる。早川母は、律にだけは話をする。それが言葉になっていないので、読者側には伝わらない。律の表情と、治療方針という言葉で大体の容態を考えるようになっている。言葉で伝えないことで、弟と妹には、内緒であることがよくわかる。だが、律の涙で明らかになる場面で、決定的に重いことを示唆している。見事な漫画の手法だなと思う。彼の同級生の倉科夕子、プリンスと彼をひそかに呼んでいる普通の女子だ。彼女とたまたま会ったことで、元気をもらい、食べ物を作り生きていこうとする律の姿が描かれている。その日の夜ご飯は、白ご飯とおかか。そのおかかを手作りするのだが、おかかの味も弟と妹では、味を変えてそれぞれの好みに合わせている。少しの料理でおな...この感想を読む

4.54.5
  • ひろひろ
  • 78view
  • 2198文字
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