当時の音楽シーンがリアルに広がる名作 - TO-Yの感想

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TO-Y

4.004.00
画力
4.50
ストーリー
4.00
キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
4.00
感想数
1
読んだ人
1

当時の音楽シーンがリアルに広がる名作

4.04.0
画力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

今読み直しても古さを感じさせない

この本を手に取ったのは、私が中学生のころだったから、もう30年以上も前になる。当時は気に入ったどんな漫画も単行本を買うということができるような経済状況でなかったから(おこづかいは確か月500円だった)、回し読みで回ってくる漫画には皆飛びついたものだった。「TO-Y」もそうやって回ってきたタイトルのひとつだった。中学生とはいえ、漫画だったらなんでもいいと言えるほど飢えているわけでもなかった自分が(当時は漫画の黄金時代だったから、口(?)が肥えていたのかもしれないけれど)、この漫画にはかなりはまってしまった。返してくれという催促をのらりくらりかわして、何回読んだことか。大人になってから、きちんと全巻「大人買い」たるのもで手に入れて、もう15年以上になる。
上条敦士の絵は当時はもちろん、きれいでどこかセクシーで少年漫画にありがちな汗臭さと言うか、むさくるしさのないスタイリッシュな画風だというのも気に入ったことのひとつ。また登場人物が実際の人をイメージしている(哀川陽司なんて完全に吉川晃司だし、桃ちゃんはサンプラザ中野だし。)のも自分的にはツボに入ったと思われる。

トーイとヒデローとニヤ

桃ちゃんひきいるロックバンド「gasp」のボーカル、藤井冬威(トーイ)は自分のやりたい音楽と今やっている音楽との違いに悩んでいた。敏腕マネージャーに引き抜かれたものの、これが本当にやりたい音楽かどうかわからない葛藤や悩みなどがスタイリッシュに描かれている。
またトーイの生い立ちも興味深い。本来なら小石川家という相当な旧家の御曹司であるのにかかわらず、多少複雑な理由で(父親の離婚と言うだけでないような気もする)独立した生活を送っている。ここに従姉妹である小石川日出郎(ヒデロー)と言う名前の超美人(実は親に隠れて森が丘園子としてアイドルをやっている)と同棲のような共同生活を送っている。このヒデローが個人的には大好きだった。彼女は森が丘園子の時とヒデローの時と、メイクと服装の違いもありまったくの別人になる。その変身の面白さもスパイスになっている。ただヒデローは15歳なんだけど絶対そうは見えない。大人っぽくて、きれいで。当時かなり憧れた。
ここにもう一人個性的な登場人物、山田二矢、ニヤと呼ばれる少女も登場する。上半身裸でうろついたりと、ヒデローと違い同じ15歳には見えない。ほとんどネコのような存在。トーイの大ファンで、トーイに懐きじゃれて遊んでいるところを見ると、本当にネコのよう。ニヤとヒデローは見た目も性格も完全に正反対であるからこそ、どちらも引き立てあうような気がする。
作中で、ニヤが可愛がっていたネコがいなくなり必死に探すものも見つからず、トーイにおんぶされて泣きつかれて眠ってしまうところがあるのだけれど、それをみたヒデローが「私もあんな役やってみたいな…」とつぶやくところがある。自分と正反対だからこそ、容貌も手にし、その上アイドルという光の当たるところに立ち続ける彼女でさえも、ニヤの素朴なかわいらしさをうらやましく思うのだろう。このシーンは「TO-Y」のなかでも大好きなシーンだ。
作中にはニヤのかわいらしさはたくさん描かれている。それを怒りながらも心配してしまうヒデローやトーイのやりとりなども見どころのひとつ。
このストーリーでは、トーイは敏腕マネージャーの腕とトーイの才能で最終的には最優秀新人賞まで受けるが、それを受賞せず会場を立ち去るところは、もしかしたらちょっと陳腐だったかもしれない。

当時の音楽と「TO-Y」

もともとこの時代はいい音楽があふれかえっていた。パンクやロックといった厳密な音楽ジャンルの定義はわからないけれど、ラフィンノーズや、レピッシュ、カステラやピーズとかもう片っ端から、起きている間はずっと音楽を聴いていた気がする。だから「TO-Y」を読むと、当時聞いていた音楽もセットで思い出される。
音楽漫画なのだから「TO-Y」の中でも、トーイが歌うところは頻繁にでてくるのだけど、ここで素晴らしいのは、生半可な歌詞などをいれないところだと思う。大きな声で叫んでいるところとか、歌っているのは絵でわかるのだけれど、決して吹き出しが入らないのがイメージが損なわれなくてかなりポイントが高いところ。確かアニメにもなっていたけど、そのときの挿入歌がPSY.Sの「レモンの勇気」だった。これが私的にはちょっとイメージが違ったことを覚えている。(ちなみにPSY.Sも当時良く聴いていた。決してPSY.Sが悪いのではない)。
本当の音楽シーンでも、やりたい音楽の方向性うんぬんで解散するバンドも当時多かった。そういった時代背景に「TO-Y」は絶妙のタイミングで描かれたと思う。
パンクでもロックでもどちらでも、トーイには決してテレビの中の音楽は似合っていない。彼はこれからもずっとライブハウスで歌っていて欲しい。

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