文句無しの外伝。
何と言っても高い画力・表現力。
実はこの漫画家さんの漫画を読むのは初めてだったのですが、あっという間に高い画力と表現力に引き込まれました。STEINS;GATEは主人公やその仲間たちの運命への絶望と葛藤、その打破に軸をおいて漫画ですが、それらを余すことなく表現し尽くしている素晴らしい作画力であると思います。
原作シュタゲファンには是非とも読んでほしい作品の裏側
原作のSTEINS;GATEでは圧倒的悪者として描かれていたドクター中鉢。メインヒロインである紅莉栖の父親でありながら、よくできる娘への嫉妬からついには娘を刺してしまう「THE 外道」として描かれていますが、彼がどうしてそのような境地に至ってしまったのかについて綿密に描かれています。
読めば読むほど、STEINS;GATE本編が切なくも哀しくも、後味が悪くも、救われたような気持ちにもなる。
先述のとおり、紅莉栖の父・中鉢は本編ではとことん悪者として描かれていますが、本作は過去において紅莉栖の父とその仲間になにがあったかが描かれています。運命に翻弄され仲間を失い、その目的も信念も果たせないまま老い、仲間の無念も晴らせないままについにその苛立ちから娘に心ない言葉を投げかけてしまいその思いに苛まれ続ける中鉢。本編のみを見ていれば憎悪の対象にしかならない彼が、この作品で設定の補完を行うことでどこか主人公の岡部と通じ、重なるところがあったり、すこし可愛らしく思えたり、一緒に切なくなって哀しくなって、悔しくて泣いてしまいそうになります。そして、これを読み終えた後で改めてシュタゲ本編を見返してみると、初めて本編をみた直後とはすこし変わった感想を抱くようになります。はじめは「やった、中鉢ざまぁみろ!」だったのが、「あれ?一見すべてがうまくいったように思えるけど、この世界では中鉢だけはずっと過去に苦しめられ苛まれ続けるのではないか…?」と、彼に感情移入せざるを得なくなるのです。なので、とにかく爽快で大成功だったラストという印象と変わって、心のどこかにしこりを残してしまう感想に変わってしまうかもしれません。しかしだからといって、STEINS;GATEという作品全体への評価が下がることはなく、寧ろ更に味のある作品として楽しめるようになります。寧ろこのざわめきを覚えずにいることは、STEINS;GATEを100パーセント楽しみ尽くせていない、少々勿体ないことなのではないかと感じてしまうほどです。視点の広がりがこれほどまでに作品の味わい方に影響するものなのか、ということに気づかせてくれる偉大な作品であると思います。
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