幕末を愛する幕末ファンのための時代小説的キャラアニメ
とにかくガチで気合の入った時代考証
何と言っても本作品最大の特徴は、史実との真摯な向き合い方です。
サブカルチャーにおける"幕末モノ"といえば、古くは少女漫画を出自に、現在はもはや一大ジャンルとしての隆盛を見せていますが、本作品ほど史実に向き合った作品はなかなか見当たりません。
坂本龍馬、勝海舟、土方歳三といったビッグネームは勿論、河井継之助や相馬主計の活躍を描いたマニアックなアニメが未だかつてあったでしょうか?(笑)
「幕末が好きなら好きなだけ楽しめる」という点では、キャラクターへの評価は見る人の知識に依る部分が大きいように思われます。
しかし、Webアニメという環境を生かした挑戦的な姿勢は評価に値するでしょう。
一転して保守的過ぎるストーリー展開
「アニメでガチに時代物」という挑戦的な姿勢を見せた作品背景が本作品にはありますが、一転してストーリーは王道、王道、とにかく王道を行きます。
各地を回る旅芸人。狙われるお宝〈覇者の首〉。くっきり分かれる正と悪。
80年代的な勧善懲悪ストーリー。もっと言うと時代劇的な分かりやすさが本作品にはあります。
一方、本作品が放映された2006年〜2007年のアニメを振り返ると、『涼宮ハルヒの憂鬱』の登場に代表されるように、正にも悪にも関わりたくない「やれやれ系キャラ」の台頭など、『新世紀エヴァンゲリヲン』以降、変遷のピークを迎えていました。
こういった揺らぎの真っ只中にあって、本作品の"分かりやすすぎる分かりやすさ"をどう捉えるか。
少なくとも本作品のストーリーに目新しさを見出すのは難しいと結論付けざるを得ません。
時代小説的キャラアニメという価値付け
真摯な時代考証に基づいて描かれる魅力的な作品背景とキャラクター。一方で、保守的で単純明快なストーリー展開。
これらを総合すると、本作品は〈時代小説的キャラアニメ〉として見るのが妥当であると思われます。
ちょっとアニメ文化から離れてみましょう。
例えば時代劇。
時代劇に求められるのは複雑なメッセージ性などではなく、「正義は勝つ」という、言わば予定調和の勧善懲悪です。
さらに話を進めましょう。
魅力的なキャラクターと、伝記のようなストーリー展開。
これを満たすカルチャーとして、時代小説があります。
作家の司馬遼太郎は、とにかく緻密な時代考証をもとに、そこに味付けを加え、独自の「司馬史観」を作り上げました。
現代の幕末アニメではお決まりの設定となりつつある、弟キャラな沖田総司、横暴な芹沢鴨などは、司馬遼太郎の味付けが現代まで生きている一つの例でしょう。
彼の著作『燃えよ剣』『竜馬がゆく』などは、いずれも作品のプロットやメッセージ性ではなく、いかに歴史上の人物を魅力的に描くかというキャラクター描写に主眼が置かれています。
そうです。
この考え方こそが、『幕末機関説いろはにほへと』の価値に他なりません。
本作品は、ストーリー展開ではなく、アニメーションによって味付けされたキャラクター、SF風味の幕末を楽しむための、時代小説的キャラアニメとしての価値付けにまとめられると私は思います。
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