この美しくも儚い世界 - 観用少女(プランツ・ドール)の感想

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観用少女(プランツ・ドール)

4.004.00
画力
4.00
ストーリー
3.50
キャラクター
3.50
設定
4.50
演出
3.50
感想数
1
読んだ人
5

この美しくも儚い世界

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
4.5
演出
3.5

目次

眠れる陳列棚の少女人形

川原由美子とう漫画家さんの作品、実はこの観用少女くらいしかまともに読んでないのですよ。
80年代の商業メジャー誌で活躍してらした頃に、一作だけちょろっと読んでみたことはあるのですが、絵柄は可愛いいながら明るく軽いタッチのラブコメで、あまり興味が向かなかったんです。
むしろ同時期、同雑誌の渡辺多恵子氏の作品の方が好みに合ってましたし、似た傾向の絵柄で、白泉社雑誌で活躍してらした成田美名子氏の方が、知名度は高かった記憶があります。ちょっと引っかかりがあったので調べてみましたら、やはりこの3名、全く同年生まれの作家さんでしたよ。
90年代は一般の少女漫画誌からは遠ざかり、さりとてレディスコミックも性に合わず、青年誌やら、やや同人誌寄りのマニアックな漫画雑誌に手を出していた頃でした。その頃購読を始めた朝日ソノラマ発行のネムキという漫画雑誌に、なんと川原由美子氏が主要執筆陣として名を連ねていました。それがこの「観用少女~プランツドール~」です。少女誌時代からさらにタッチは繊細に、そしてその内容たるや…う~む、これヤバクね?(;^_^A
こういう作品も描ける人だったのかと衝撃を受けたのでしたよ。
いつの時代の何処とも知れぬ街で、たた一つ「プランツドール」を扱う店のある世界。
ミルクと砂糖菓子のみを口にし、美しい少女の姿で成長することなく、法外な高値で売買される愛玩目的の「生き人形」……は、犯罪やぁ~!(フィクションです、創作物です落ち着いて!)
いえ、とても詩情豊かで美しい世界なんですよ。しかしあの如何にもちょっと昔の少女漫画少女漫画した絵柄で(どういう表現や)、言ってしまえば、こういうキワモノ的な作品を描かれていたことに驚いてしまいました。だって変態男どもの理想の世界そのものじゃないですか(~_~;)
人形を扱う店の店主は、中華風の装束に身を包んだ、痩身でメガネをかけたやたら愛想の良い青年。自分自身で主人を選ぶという人形は、眠りから覚め、その相手だけに極上の微笑みを見せるといいます。
店主は該当する客を見つけるや、言葉巧みに人形の購入を勧めるのですが、目玉が飛び出る(描写ママ)値を提示されて…まではお約束。ただし人形が目を覚まし微笑まない相手なら、どれだけ現金を積まれても決して売らない変な店(^_^;)。その代わり相性が良ければガクンと値下げしたり、場合によっては保険に入ってるから持ってけドロボー、な対応までやる店です。アカンやろ(-_-;)

少女人形は電気毛布の夢を見るか?

「観用少女」に登場する人形達には名前があるのですが、登場人物には固有の名前がなく、一般的な1人~3人称で呼ばれます。そういう演出がまた一層、この浮世離れした作品世界に不思議な空気を作りだしていたのでした。ただ、子供のいる富裕層の夫婦が互いを「お父さん」「お母さん」と呼ぶなど、実は時に不自然さが発生してはいたのですけどね。
店主の言いつけを守って人形を美しく保つ客もいますが、中には守れず人形が育ってしまったり、枯れさせてしまったり。貧しい環境の中でも愛情に満ち足りていれば問題はないようで、時には言葉を話すようになったり、人間と同じように生活したり仕事をする個体までいるようです。
人形の流す「天国の涙」のエピソードはお気に入りのものが多いのですよ。
連載初期の「スノウ・ホワイト」のタイトルで発表された2編では、人形よりも高値の付く天国の涙を手に入れようと、格安で白雪という人形を手に入れた宝石商が登場します。結局白雪の虜になって少女を泣かすなどとんでもないと、ミイラ取りがミイラにというコミカルな結末に(^-^;
そしてもう1編は、病を患い仕事も無くした青年に懐いてしまった人形のお話。青年を看取った人形は結局店主に回収され、最後に美しい水色の涙をぽろぽろと流します。
時々複数のエピソードに登場するキャラもありました。
強欲な金貸しが、夜逃げした家から回収した人形を世話する事になったのは、不幸な境遇の貧しい青年。当初は生気のなかった人形を上手く世話ができず、悩みながらも誠実に世話をする青年は、徐々に人形と心を通わせます。結局金貸しに売られることになった人形は、青年の前で涙をこぼしますが、それを元手に人形を取り戻した青年と人形は幸せな結末へ。件の宝石商、ここでやっと天国の涙を手に入れたのでした。
人形が育ってしまうというのは、文字通り大人になってしまうこと。そして人間と結ばれる人形もやはり存在します。人形って卵生なんですね(^_^;)
「アクアプラン虫」という、プランツドールとは別種のものも確認されています。
光合成でOKなら、むしろこっちのほうが安価で飼育簡単じゃありません?

夢見る少女人形

掲載誌「ネムキ」は、元は「眠れぬ夜の奇妙な話」という名称であったようです。成る程この作品に、これ以上はない程ぴたりと嵌るコンセプトです。投稿時代の川原氏は、実はSFファンタジー調の作風を好まれたそうで、むしろあり来たりのラブコメよりも、この作品の方が地であったかと得心しました。
物語はオムニバス形式で進行し、いろんな容姿・性格の人形が登場します。関わる人々も様ざまで、彼らと人形を介して繰り広げられる物語は、時にはコミカルに、時にはメランコリックに。ハッピーエンドもあればシニカルであったり悲劇を引き起こしたり、実に多様で読み手を魅了します。
どうやら読み落としもあるようで、現在手持ちの単行本に掲載されていないエピソードを見つけてしまいました。探そうかな(・_・;)
ただし好きなエピソードと記憶に残らないものとのムラが大きい作品ですね。連載も短編であったり数話仕立てであったり、一定ではありません。不定期掲載なせいもあり、明確な完結編が出されないまま、2001年の「冬の宮殿」を最後に連載も自然消滅してしまいました。段々と描き手から情熱が失われていくのが感じられたのが残念だったのですが、実は未だに復活を期待している作品なんです。
人肌に温めたミルクと週1回の砂糖菓子。
愛情を何よりのご馳走に、身に着けるのはレースとリボンに飾られた贅沢な絹のドレス。
よく手入れされた長い髪は柔らかく、いつまでも少女の姿で眠る美しい人形達。
いつか目を覚まし、また微笑んで欲しいものです。

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