DEATH NOTEの存在は罪か正義か
人間の悪が抑制されるのは恐怖でのみか
「目には目を・・・」ということわざがあります。この映画を見ていると、そんな言葉がすぐに浮かび上がります。法の裁きだけでは裁ききれない悪というものが、たくさんあるのが現実ではないでしょうか?実際に法の目をかいくぐって、自分が犯した罪に対し裁かれることも、償うこともせずに普通の生活を送っている犯罪者は、たくさんいると思います。どうせばれないから、ばれても免れる方法を知っているからと思っているのでしょう。「キラ」になった八神月はそんな犯罪者たちを許すことができず、法で裁けないのであれば「DEATHNOTE」の力を使って自分が裁こうと思ったのでしょう。
連続する犯罪者たちの不審死に、犯罪が激減します。ここでわかるのは、いくら極悪非道の罪を犯したものでも、自分が死ぬのは怖いのだということです。特に法の目をかいくぐって罪を免れたものにとっては恐怖でしかないかもしれません。法的には自分は無実とされていても、罪を犯していることは自分がよく知っています。どのような方法で自分が罪を犯していることがわかるのか、それがわからなければ手の打ちようがないからです。そうなると一番安全なのは、罪を犯さないことになります。結局こうなると犯罪を抑制するのは目に見えない恐怖ということになってしまうのかもしれません。目に見えない存在が自分の暴かれていない罪を知っているかもしれない、そんな恐怖心を持たなければ犯罪に対する抑制を持つことができないなんて、この地球上から争いをなくそうと思ったら、人間が絶滅すること以外にはできないだろうといわれても、仕方がないのかもしれません。
「正義のため」という言葉で変貌する同じ罪
八神月は、最初は本当に法で裁かれなかった犯罪者たちの名前だけを「DEATHNOTE」に書いていました。しかし、途中からは自分の邪魔をする者として、「L」やFBIの捜査官の名前までこのノートに書きます。冷静に考えればこの時点ですでに、「法で裁かれなかった犯罪者」と同じ立ち位置になってしまうことがわかるのでしょうが、それを理解させないためのキーワードとして「正義のため」という言葉を用いています。犯罪のない理想郷を作るためには仕方のない「必要悪」という考えなのでしょう。その理論で恋人の命まで犠牲にします。
「正義のため」という言葉で殺人が合法化されることは、なにも物語の中だけではありません。一番多く使われているのは「戦争」ですが、外国映画・ドラマなどでよく見る、犯罪者に対しての射殺もいわばこの類にあたるでしょう。初めて人を射殺した警察官たちは、罪悪感に苦しみますが「相手は凶悪な犯罪者だったんだ」「お前が射殺しなければもっと多くの犠牲者が出ていた」などと同僚たちが声をかけ、徐々にその罪悪感も薄れていき、発砲することにためらいを感じなくなります。日本ではいくら犯罪者に向かって発砲したものでも、発砲したことに対して本当にそれしか方法がなかったのか言及されるようですが、そこは銃社会である外国と、「銃刀法違反」という一般の人はまず凶器になるようなものを持っていない日本との違いなのかもしれません。しかし「正義のため」だけじゃなく「制裁」という言葉もあるように、言葉や考え方一つで正義にも犯罪にもなる殺人行為に少し恐怖を感じます。
「自分はDEATHNOTEを手にしたらどうするだろうか?」
この映画を見た人たちに一番考えてほしいと思うのは「もし自分がこのノートを手にしたら誰の名前を書くだろう」ということです。実際にはそんなことありえないと思うのが一般的だと思いますが、その答えの中に自分の闇の部分が見えるかもしれません。しかし誰かの名前を思い浮かべたからといって、罪悪感を持ってほしいというわけではありません。それは名前を思い浮かべた人に対して、名前を書きたいと思ってしまうほど、その人に自分が傷つけられているからかもしれないからです。また八神月のように、犯罪者の名前を書きたいと思った場合は、具体的にどのような罪を犯したものの名前を書きたいかを考えることによって、自分が今一番問題視していることがわかり、その問題視しているところから自分が今何に対して心を痛めているのかがわかると思います。
月の場合、法を勉強する過程で法に対する限界を感じていたのではないでしょうか?どんなに法を整備しても次々に起こる新たな犯罪や、救済されない被害者たちの実態を知ることで限界を感じていたのかもしれません。そして自分ができること以上の理想を抱いてしまったのでしょう。人間が生きている以上、犯罪がなくなることはないと思います。だから犯罪があっても仕方がないというわけではなく、なぜ犯罪へと手を染めてしまうのか、どうしたら被害者たちが少しでも救済されるのか、「DEATHNOTE」に名前を実際書く前にそういったことに考えが及べば、「キラ」という存在が生まれることもなかったのかもしれません。
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