ジパングの考察 - ジパングの感想

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アニメレビュー数 2,474件

ジパング

4.504.50
映像
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ストーリー
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キャラクター
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声優
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音楽
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感想数
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観た人
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ジパングの考察

4.54.5
映像
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
声優
5.0
音楽
5.0

目次

タイムスリップものでは秀逸な作品

元々タイムスリップものが好きで戦国自衛隊や戦国自衛隊1549など、自衛隊がらみの作品を視聴していたが、ここで初めてやや対等と思われる現在の海上自衛隊と旧日本海軍との対比の作品がアニメで視聴できて、久しぶりに手に汗握る引き込まれる作品と出会えた。作中では2000年代初頭の海上自衛隊が1942年の太平洋戦争初期の時代にタイムスリップするが、ここで第二次世界大戦が始まって間もない頃からストーリーが始まるところが良い。この頃はまだ日本軍が優勢であり、零戦が活躍しだしたのもあって当時の大和や武蔵などの戦闘能力と現在のイージス艦「みらい」の戦闘能力を比較でき、なかなか面白い発見ができる。1942年にタイムスリップしてしまったといえども、戦闘能力では当時の日本海軍よりは遥かに技術は勝る。米軍でさえも対等に太刀打ちできる。しかし、みらい船員はあくまでも海上自衛官であり日本を守る使命を果たすことが第一と考えているため、日米両軍から攻撃があっても自己防衛か最低限の被害を抑えた攻撃しかできない。さらに草加少佐との出会いによって角松二佐たちは時代の波に飲み込まれていく。ここで重要なのは、草加の存在である。角松が草加を助けたせいで、と言っても過言ではないが、物語が本来の歴史とは違う歴史を歩んでしまっているのはこの草加の登場による。草加が今後のキーマンとなっていくのが非常に注目したい点であり、原作未読がゆえにこの作品のラストが非常に気になるところである。原作未読でも十分に引き込まれ、丁寧な説明や展開・演出のもとで物語が進められていくので評価は高い。

時代背景と登場人物のしっかりとした心情

この作品が何よりもよくできている点は時代背景である。忠実な史実のもと、それぞれ攻撃開始時刻まで克明に記されている。当時の戦闘状況や人物像などにもしっかりと描かれ、作品に置いて行かれないよう歴史に詳しくない視聴者に向けて、超歴史オタクという設定の柳が代わりに説明してくれるといった配慮まで施してくれる。ここで重要なのは何よりも、視聴者を置いてけぼりにしないということである。絵やセリフがついても状況説明が難しい場合、柳のような超歴史オタクというおどけたキャラクターの存在が非常にありがたく、物語のテンポもこの柳によって深く左右される。説明ばかりではつまらないが、キャラクターを交えて視聴者もその時代に入り込んでいるような感覚を掴めれば上出来である。

また、登場人物各々の心情も深く読み取れる。角松が繰り返す「俺たちは軍隊ではない」という言葉。太平洋戦争での日本の敗戦を経て海上自衛隊に入隊した彼らだからこそ、この言葉は本物であり日米両軍から攻撃を受けてもなかなか攻撃命令を下さない角松の対応にも納得できるだろう。だが、この角松の対応も賛否両論の意見が飛び交う。物語初めのほうで、ガダルカナル島の偵察に飛び立った佐竹一尉と森二尉が日本軍に狙撃され、森二尉が被弾してしまう場面である。佐竹一尉は副長である角松に攻撃命令を要請するが、角松は同じ日本人同士、血を流し合うのは御免だと言い張り攻撃命令を下さない。角松の言い分も分からなくはないが、状況を考えたらこの時代の日本人は敵と見なして割り切る判断が必要だ。現に日本軍が佐竹一尉たちを攻撃し、1人が被弾しているのだから。結局、草加の助言もあってか佐竹一尉はなんとか帰還したが森二尉は残念ながら生きて帰ってはこれなかった。みらい船員の中では初めての犠牲者だが、ここで自分の行いを後悔する佐竹一尉が居たたまれない。あの時高度を下げて飛行しなければと自らを責めるが、時代が引き起こした結果が死者を出してしまったわけで、森二尉もまさか日本軍に殺されるとは夢にも思わなかっただろうなという登場人物のセリフも印象的だった。また、森二尉が被弾した直後の佐竹二尉の言葉。

「森二尉!答えろ!貴様の生年月日は何年何月何日だ、えぇ!?確か1982年9月3日乙女座だったろ!今何年だと思ってやがる、1942年だぞ!1982年生まれで1942年死亡じゃ勘定が合わねぇんだ!死ぬな!」

これには心にグッと来るものがあった。このセリフ、結構好きである。確かに勘定が合わないわな、と漫画ならではの少し冗談めいたものがあり気に入っている。

佐竹一尉はこの後でも海鳥を使って重要な役割を果たしているが、特に好きなエピソードは尾栗航海長と共に日本軍の補給船に酒を持って交流を深めようとする場面。尾栗の人情深さにはほっこりする場面があったが、ある軍人が広島は無事かと聞いてくる。歴史を知っている尾栗だからこそ答えにくいものもあっただろうが、本当のことを言わずに大丈夫だと告げる。知らない方がこの時代の者にとってはいいのかもしれないと考えた結果なのだと、尾栗の言葉には深いものがある。

マレー鉄道での場面

手に汗握るシーン、見ていてハラハラするシーンが数多くある中でも特にハラハラしたシーンを挙げるといくつかある。

角松と草加が食糧確保のためマレーへ向かうシーンだ。ここでは、角松が完全にこの時代に放り出された孤独感がよく表されており、視聴者も角松の視点から多くのことを感じ取れただろう。人質の案内人のはずの草加が、この時はどうしても敵としか見られなかったあの疑る緊張感。周りは角松にとっては敵だらけであり、唯一行動を共にしている草加さえも怪しい。完全に気持ちを許すわけではないからこそ妙な緊張感があった。そしてハラハラする場面が真骨頂になったのは、マレー鉄道での草加の失踪。鉄道内で憲兵による取り締まりが行われ、乗車券は草加が持っているが今ここに草加がいない。憲兵がもうすぐ角松のところに来る。頼みの綱は近くに座っている関西弁のおっちゃん。草加がいた証明をしてくれるのはこのおっちゃんしかいない、と誰もがそう思った瞬間、なんとおっちゃんの裏切りが。しかしそれと同時に逃げ出すおっちゃんはなんとスパイ容疑が発覚したという意外な展開。安心したのもつかの間、今度は本当に疑われている角松。さあどうする……というところで草加が現れた。ここのテンポがなんとも緊張と安心を繰り返しているようで心臓に悪い。このような演出がとても視聴者を引き込むのだろうと感じる。

同じ人間の血を流したくないというのは綺麗ごとに過ぎない

サジタリウスの矢が無事アメリカ軍の食料に突き刺さった後、角松たちが帰還しようと目標の山へ登っているとき、柳がアメリカ軍に見つかってしまった場面。この場面は本当にいよいよ戦闘態勢に入るのかとドキドキして見ていたが、さすがみらい船員たち。1人の死者も出さずに帰還した。専守防衛を軸として戦う姿勢には相変わらずだが、やはりここでは生死を交える覚悟もあったわけで角松たちは8人のアメリカ軍も殺してしまう。ここでの命の優先順位はみらい隊員たちとするという角松の言葉には当然だと感じる一方で、いざとなったら角松はまた判断に迷ってしまうのではないかと密かに感じていたが、森二尉のときと違って今度は目の前に敵がいる状況であるため、アメリカ軍に見つかってしまったときでも冷静に処理していたところが印象的だったし格好いいと感じた。戦時下と言えど人を殺して格好いいだなんて不謹慎だが、状況によってはそうせざるを得ない時だってあるということを物語を通じて教えてくれたと感じる。角松たちが帰還し、船内で丸2日間も眠りアメリカ軍をこの手で殺してしまったあの嫌な感触を思い出し叫び声をあげて起き上がる角松。ここでは桃井さんも驚いていたが、普段冷静な角松だったため相当珍しかったのだと実感。ここで改めて角松の人間味を感じた。あのまま人を殺しておいて確かに反省や後悔はするけども、うなされるということは余程精神がやられているということ。今思えば綺麗ごとを言っていた角松もようやく、戦争という言葉に認識し始めたのだろうと感じる。

みんなのお母さん:桃井さんの存在

魅力的なキャラクターの1人に補給・衛生担当の桃井さんがいる。彼女は船内で唯一の女性自衛官であり紅一点である。桃井さんの仕事は主に医療系だが、ケガをした乗員に手当てをするだけでなくお母さん的な存在を果たしているのである。特に印象深かったのは津田大尉が切腹しようとする場面。帝国軍人だからこそ、自決をすることがむしろ象徴になりつつあると感じるが、もちろん命を粗末にすることはどんな理由があっても許しがたいことである。そこでどう説得して津田大尉の短刀を取り上げるか緊張していたところ、ここで桃井さんが女性だから理解できる男の情けなさを語る。

もうばれちゃったのよ。私たちの時代はね、男が情けないってこと、もうバレちゃってんの

うーん。このセリフ本当に心に残る。さすが母強しと言うか、やはり女性は強い。津田大尉の武器は短刀であるのに対して、桃井さんの武器は温かい言葉でやわらかく抱きしめてくれた。女性から見れば、刃物や銃を振り回すことでしか強さを表せない男なんか弱いのだということが深く感じられた。ここで桃井さん以外の誰かが津田大尉を止めに入っても、きっとこんなに説得力のある言葉でその場を収めることはできなかっただろうと思う。改めて桃井さんの貢献に拍手を送りたい。

まとめ:総評

全体を通してかなり良い評価が期待できる。CGを使ったアクション演出も非常に良い出来であり、細部の描写に反映されている。

ただ、惜しいところとしては物語が中途半端で終わっているというところ。草加が満洲へ向かい、それを角松が追いかけるというところでラストを締めくくっている。こんなに完成された出来ならば、続編を希望したいところである。2期があるかと待ち侘びているが、今のところそのような予定はないということなので、原作を読むことに専念する。原作とアニメでは多少違った面も見られるので、比較してみるのも面白いだろう。

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