稀代のヒロイック・ファンタジー - クリスタル☆ドラゴンの感想

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クリスタル☆ドラゴン

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画力
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キャラクター
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設定
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演出
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稀代のヒロイック・ファンタジー

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.0

目次

長期連載……ながら終わりの見えない物語

先日『こち亀』が、40年の連載歴史の幕を閉じました。全200巻だそうです……大丈夫です、連載35周年を迎え、最新刊27巻が出たばかりの『クリスタル☆ドラゴン』のレビューです。


そして長かった(休載期間含む)この壮大な剣と魔法のファンタジーも、ようやく終盤を迎えつつあるようですが、グリフィス…うっうっ(;_;)。何もグリフィスを、こんな何度も遭難するドジッ子みたいにしなくてもいいんじゃないですか?アルプスのミイラ・エッツイ君じゃあるまいし(;_;)


作者のあしべゆうほ氏は、一貫してファンタジーものを発表されてきた作家さんです。もともと寡作の傾向なうえにちょっとした悪癖もおありで…。長編・シリーズ物の代表作として『悪魔の花嫁』『クリスタル☆ドラゴン』『テディ・ベア』『うしろの正面だあれ?』が挙げられるのですが(短編も少ない)、どれ一つとして綺麗な形に完結していないのですよ。特に『テディ・ベア』、あれで最終回はないでしょう?


サイドストーリー形式で進めて頓挫した形の『うしろの正面だあれ?』は諦めましたけど、レベルの高いものを創作されてきただけに本当に惜しい。それでも『悪魔の花嫁』『クリスタル☆ドラゴン』だけは、完結に向けて進行中とのこと。しかしご病気を推しての製作活動だとの情報も(;_;)。初期代表作で原作付きの『悪魔の花嫁』は、同氏の技量を格段に引き上げました。でもこの方はオリジナルのほうが断然いいのですよ。


クリ☆ドラは、しかし大変な労作でもあります。歴史的背景を踏まえたファンタジーは制約が大きいですから、歴史に詳しいうるさ方のファンのツッコミ厳しい中、取材旅行に資料収集にどれだけ時間を費やされたのでしょうね。


そもそも家電としてのIT機器なぞ影も形もなかった時代に、北欧の歴史・伝説・伝承・神話等など膨大な資料をかき集め、出来得る限り史実を取り入れた長編ファンタジー漫画じたい、発表された時代にも稀有なものでした。北欧編の古代ルーン文字は、てっきり適当に文字を羅列したものだと思いきや、なんと本誌掲載時には解読してしまったファンがいらしたんですよ。専門家の協力を得ているにしても、地名・言語・歴史背景は言うに及ばず建造物・装束・小物まで、極力実存したものを描き込まれていると知った時は仰天しました。


当然同業者にも影響力少ないはずはなく、『ベルセルク』の三浦建太郎氏はクリ☆ドラリスペクトを公言しておられるし、『ヴィンランド・サガ』の幸村誠氏も、もしかしたら愛読されてるのでは?と勝手に考えております。諸事情あってあしべ氏ご本人は、今では知る人ぞ知る作家さんであるのですが。
ともあれネバーエンディングストーリーと成り果てるかと危惧された大作ファンタジーも、いよいよ大詰めです…ですよね?(・_・;)

人生出たとこ勝負の主人公

世界を救う使命を帯びたファンタジーの主人公が、旅の途中で自身の技術も向上させつつ仲間を集める展開は、今やRPGなどのゲームでもド定番の設定です。しかしながらこの作品で主人公を張るアリアンロッドは、あまりにもへっぽこ過ぎる(-_-;)。ちょいと彼女が仕出かした業績を、思いつくまま羅列してみます。

  • 初登場時、一族の賢者ドリスコルに見込まれながら、一向に魔術の技量は上がらず隠れて剣術の自主トレに励む。故郷を滅ぼした深淵の谷一族の居住地に潜入するも、幼馴染ヘンルーダを救出し損なう。
  • 身を寄せた沈黙の一族、ブリタニアのイケニ族、ヴァイキングの村が悉く戦乱に巻き込まれる。ローマ人の船で無自覚に騒動の原因となり、奴隷とローマ人の立場を逆転させる。
  • ガリアのアレシアでは、巫女姫がエラータにより放たれた魔の犠牲に。ローマ行きのため随行した商人エフィデルも落命。山賊に損害を被らせ、その村をも引っ掻き回す。
  • 剣闘士として売られたローマの闘技場にて、邪眼のバラーご一行様が闖入する事態となり、大混戦となってしまう。
  • 竜の杖入手のため辿り着いた水晶宮で寝た子(竜)を起こし、杖のパワーに引き摺られるなどして親切なドワーフの村に災厄を齎してしまう。


……もういいです。悪気が全くないだけに性質が悪いというか、あと先考えずに突っ走るもんだから、ヘンルーダにソリルにパラルダや、年若いボリまで気苦労が絶えないんですよね。


そもそも事態は辺境地の小競り合いの域を超えてしまってますから、一概にアリアンの責任とは言えないのですが…ああ、パラルダさんも逝ってしまわれたのでしたよ(T_T)


むしろバラーの姉エラータが黒い魔法を呼び込んだ責が大きい気もしますが、これさえも最終的に発生する事態を加速させたに過ぎないような?


そして深淵の谷を根城に増大した闇の勢力は、もはや召喚した本人の手に余る状況となり…過ちを悔いるエラータ自身が竜の杖の候補者であった事も皮肉ながら、魔法関係は全く門外漢の弟バラー自身が、竜の杖(剣)の最終候補者になってしまうとは。


しかもファンタジーを読んでいたつもりが、途中でSF要素まで絡んできたのには驚きました。いや、タイムスリップはいかんでしょ(゜_゜)。あああ、ややこしいことに名付け親が逆転してしまいましたよー、どうすんのコレ(;^_^A


27巻の冒頭では、いきなり最終決戦の後日譚らしきエピソードが綴られています。なぜか厳重に封印を施された竜の剣を携えた、バラーの忠臣グリフィスの変わり果てた姿が。あああ作中で一番のお気に入りだったのに(T_T)。森の妖精の地には、かつてグリフィスによって引導を渡された老木の代わりに巨大な樫の木がそびえていましたが、いったい何年経ったことやら。


これはグリフィスが妖精ヒイラギに託されたドングリなのでしょうか?ドングリの実をネックレスに仕立て、いつのまにか出現した剣の精(おそらくアランと同じ姿に成長する?)の面倒を見る姿も微笑ましかったのに(T_T)


寡黙で義理堅く、アリアンとは対立勢力でありながら、時には共闘し、お互い命を救いあいもした忠義の男は、主が異形と成り果てる結果を望まなかったのでしょうか。

黒い巻毛の人の娘は何処へ

いずれにせよ、世界は闇に飲まれた形跡はなく、おそらくアリアン側が勝利したと考えられます。世界を担う自覚のなかった黒髪の少女は、自分に尽くしてくれた幼馴染とその夫のために、命を賭す覚悟を決めました。


ともあれ旅の途中で人脈・妖精脈・果ては神様脈まで広げてしまったアリアンの、バラーを倒すための助っ人探しという目標は達成したといえるでしょう。不器用ながら彼女自身魔法の腕も上がり、剣術に至っては狂戦士のスキルを獲得しました、危ねぇ…。指輪物語では老ガンダルフも戦闘しまくってましたけど、彼女の場合あのぶきっちょさで魔法とチャンバラ両方使うとは恐ろし過ぎる(-_-;)


最新27巻ではエリンより遠いアルプスに居るわけですが、バイパスを通す目途も立ちましたしたからね。しかしバラーもますますダークサイドに身を染めて、さらには影の軍団まで従えてと、まだまだひと波乱もふた波乱もあるようです。


しかしながらその中で、しっかりと光明も用意されています。


バラーの妻ウーナが、沈黙の一族のラズモアとの間に儲けた娘を守り通せるなら、殺害された上王の跡を継がせることも可能でしょう。谷の毒気から遠ざけるよう、ウーナの娘に魔法をかけたのは、事態を引き起こしたエラータの、せめてもの償いだったのでしょうね。弱々しかったウーナが、エラータの知識を吸収しようと反骨精神を見せたときは好感度が上がりましたので、出来ればもう少し描写が欲しかったところですが。


さらにヘンルーダがソリルを伴い緑の原に戻るなら、きっと復興は叶うでしょう。沈黙の一族に嫁した彼女の姉も生き延びており、一族の再興に尽力している筈です。にしても痩身で美形の男にばかり目移りしてた面食いヘンルーダが、またガッチリした屈強の戦士を夫に選んだものです(^_^;)。しっかり者の彼女のことですから、見栄えより実を取ったのでしょうね。


ただしアリアンが緑の谷に帰還し、人間としての生を送る可能性としての材料は皆無です。
水晶の竜に代わり世界を支える樫の枝アランも寿命が近く、おそらくアリアンはその責を負って水晶宮で眠るか、またはドワーフの王の跡を継いで世界樹の庭師となるか。


いがみ合いながらも誓いを交わし、長い旅の過程で無二の親友となったヘンルーダは、友を偲んで我が子に彼女の名前を付けるかもしれません。再生の銀の車輪・アリアンロッドと。


今は坐してこの壮大な物語の完結を待つばかりです。だから何よりも、私の人生が終わる前にお願いしますねm(__)m

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