上級生の卒業に感極まる理由
上級生の卒業に向けてのエピソードが増えていくシリーズ
本作は「ひだまりスケッチ」(通称無印)、「ひだまりスケッチ×365(さんろくご)」、「ひだまりスケッチ×☆☆☆(ほしみっつ)」に続く第4シリーズという位置づけの作品である。無印から作品中の時間として1年半がたち、上級生組の卒業が近づいてくる時間軸になっている。当然、卒業に関するエピソードも盛り込まれてくる。進路の話、受験勉強の話なども取り上げられている。これまでのシリーズがギャグ&ほのぼの一辺倒だったのに対して、本作はしんみりすることも多くなっているシリーズになっている。
卒業へ
本作では上級生の卒業の年明けまでが描かれている。そして、OVAの「沙英・ヒロ卒業編」へとつながっていくわけである。なぜそれが制作されるに至ったのだろうか。言い換えると、本シリーズの主役はゆのであるはずなのに、上級生の卒業がなぜこんなにも印象深いのか、ということになるだろう。その理由について考えてみたい。
ゆのの成長
まず、主人公ゆのの成長ということが挙げられるだろう。入学当初は美術というものに対してあまり自信がない様子だったゆの。しかし、学校での勉強を通して、そしてヒロさんや沙英さんとの生活を通して、美術に対する見方が変わり、自信もついてきた。2年生になり下級生が入ってきたことで、上級生としての自覚にも芽生えいきたゆの。その時に手本になったのが、ヒロであり沙英であった。3年生が修学旅行でいない間、下級生にいいところを見せようとして失敗するゆのが印象的であった。そんな中でももうすぐ最上級生になるからしっかりしなくては、という意思が少しずつ形になってくる。こうしてみてくると、このゆのの成長には上級生の存在は欠かせなかった。そんな、ゆのを成長させてくれた上級生だからこそ、卒業という節目を見届けたいという思いが出てくるのだと考える。
上級生自身の成長
上級生自身、特にヒロの成長も忘れてはならない要素であろう。進路について悩みに悩んで決断したヒロ。吉野屋先生から素晴らしいアドバイスをもらっての決断であった。このエピソードは進路に悩んで高校時代を送った人にとっては自分の昔を思い出したはずで、ヒロたちの卒業により一層感情移入ができたことと考える。また、このエピソードは吉野屋先生の株も上げた。普段はドジで奇抜なことばかりやらかし、時に生徒もそれに巻き込まれ、校長先生に心配をかけたり怒られたりしているが、いざというときにはちゃんとした教師であって、特にこの場面では、本物の教師だということが垣間見られた。校長が吉野屋先生に対して持っていた、美術に対する真摯な姿勢や生徒のことを真剣に考えているという評価は正しかったということがここでも証明されたのである。そのようなとても素敵な高校を卒業する、といううらやましさというのも、感慨深くしている要因の一つなのではないだろうか。
ヒロ役声優さんの復帰作
加えて、ヒロ関係では、担当声優である後藤邑子さんが病気療養に入っていた時期で、本作の出演が危ぶまれた末に出演が決まったといういきさつがあり、後藤さんファン、ヒロさんファンにとっては、より一層思い入れが強い作品となったことも大きく関係しているであろう。
『家族』を見守ってきたという思い
だが、一番の思いは「4人は家族だった」ということである。後から入ってきた1年生組、乃莉、なずなには申し訳ないが、ゆの、宮子、ヒロ、沙英の4人は間違いなく『家族』だった、ということである。ことあるごとに同じ釜の飯を食い、いろんなことを一緒にして、喜びや悩みを共有してきた。それを無印から365のシリーズにかけて見てきたわけである。見守ってきた、と言った方がいいかもしれない。我々は保護者的な立場で、あるいは同級生的な立場で、4人のひだまり荘での生活を見守ってきたわけである。それを通して4人に対する思い入れがどんどん強まっていったのである。だからこそ主人公以外の二人にも同じように感情を入れられるのである。4人がみんな主人公、ともいえるかもしれない。1年生組二人が入って6人になっても『家族』という図式はそのままであり、上級生組はその大黒柱というポジションも変わらない。その大黒柱の卒業に、何も感じない人などいないであろう。
ゆのの卒業は描かれるのか
現在、原作では沙英、ヒロが卒業して、ゆの、宮子が3年生、乃莉、なずなが2年生、そこに新入生茉莉が入った話が展開中である。原作のペースはゆっくりとしているが、おそらくゆのの卒業までは描かれることであろう。沙英、ヒロ組卒業でも深い感慨があった我々は、主人公の卒業時にはどんな思いになるのだろうか。これは沙英、ヒロのときもそうだったが、その時(卒業)は来てほしいような来てほしくないような気持ちに駆られるのである。しかし、時は確実に近づき、卒業を迎えるのである。どういう感情になろうとも、しっかり見届けたいものである。
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