「非」王道な教育ドラマ
今までにないタイプの教育ドラマ
これは、とある中学生のクラスを担当した担任の先生と生徒たちを舞台に、ストーリーが進んでいく。
これまでのドラマでは、特定の生徒に殆どクローズアップされ、悪さをした生徒を改心させて、「絆」を結んでいき、感動の展開になることが多かったが、この作品は他のドラマとは一線を画す。
まず、先生の心の機微が主なナレーションとして入り、先生の目線で生徒や親など他の人との関わりが進む。今までは美化されがちで遠巻きに映されていたクラス風景が先生の目線から冷静に、だけれども人間くさい部分も多分に加味された「リアル」さがぐっと増した、濃い内容になっていく。特定のマドンナ的生徒への感情や「男」としての葛藤など、教育では「排除されるべき」姿勢も見せていて、非常に興味深い。
そして、これも大きな特徴だが、分かりやすく「不良」と呼ばれる人たちはいないことだ。そういった、分かりやすく悪い人たちに焦点が当たりすぎると、他の生徒たちに目が行き届かなくなるという危惧はこのドラマでは不要だ。「一見普通」な生徒たちが心中で抱えるもやや葛藤を担任の先生のやり方でスッキリさせてくれる、しかもそこに押しつけがましさが一切ない。熱血さもない。ただ、淡々と話し、生徒に影響を強く与える。そして、生徒からも正直学べる要素は多くある。この一方的ではない、「相互的な」影響をもたらすのがこのドラマの良さである。
これも絶対に述べておきたい点であるが、「先生」が抱える人間らしい問題点もこのドラマではしっかりと表現されている。山口智充さん演じる体育教師の小さな問題を生徒が過大に取り上げ、辞任に追い込まれるという一連の話の流れもしっかりと現代の「リアル」な教育現場を映し出している印象があった。というのも、筆者(現在20代前半)の高校でも同様な事象が起きていたからであり、それは一見普通の生徒による排他的な思考が導いた事件だったのだ。もちろんこの作中の体育教師の行動は誤解を招きかねない点も多々あった。ただ、最後の主人公の鈴木先生への嫉妬を露わにした瞬間では、「教師は聖人ではなく、人間である」と強く実感させるものだった。
説得力のある、ただ逸脱した性のモラル
中学2年となると、思春期真っ盛りであり、「性」への関心も高まりつつある多感な時期だ。子供だけではなく、その親もそういった話題に過敏になりがちな環境であった。頭ごなしに、起こった事象を否定してしまいがちな親と起こした生徒との摩擦も、この担任が間に入り、冷静に対応していく。
ドラマの話の中で、中学2年の受け持ちの生徒と小学4年の生徒との性行為が取り上げられた。「レイプされた。」と考えた母親がとり乱すものの、相互に確認すると、実は合意のもとの行為だったということだった。ここで興味深いのは「実年齢として成熟していないからダメだ」という意見で当事者と親に話さなかった事だ。大事なのは当事者の精神年齢と「覚悟」ということで、いくら親に注意されても納得できずモヤを残すことの多いこの疑問をきれいに晴らせたのが、この先生の凄いところとも言える。
それ以外にも、「コンドーム」をつけるかどうかなど、センシティブなテーマを数多く取り上げているが、先生の揺らぎない信念と、どこか説得力のあるが、一般から見れば「逸脱」したと思われてもおかしくない、理論や概念に、驚かされることが多々ある。
このコンドームの問題では、多くの男性との関係を持ったことのあるある女生徒の言葉も印象的であった。
大概、この手の話では、男性主体となり「行為」の良さなどが語られるものだったが、この女生徒が「女の子も、ゴム付けるより生でする方が気持ちいい。」といったニュアンスの意見を作中で言っていた。性行為の(特に若い)女性側の心境を取り上げられることにハッとさせられた気持ちになった。
逸材たちの光る演技
ドラマ初主演の長谷川博巳、そして当時はまだ無名であった土屋太鳳の演技が魅力の1つである。
クラスのマドンナでもあり、先生自身の「夢」や妄想にも多々登場する土屋太鳳は、美貌と透明感と、そして芯のあるキャラクターのヒロインとして瑞々しくも光る存在としてドラマを彩っていた。最初クラスの誰もが抱いていた「冷たい」という印象から、どんどん魅力が増していき、男子も女子も多くの心を掴む「温かい」生徒への変化を綺麗に魅せていた。
もちろん、他の生徒たちも中学生として瑞々しくも、露わとなった心の塊をまっすぐにぶつけてくる存在として、それぞれが光っていた。ただ、土屋太鳳は中でも、見るもの(視聴者)を惹きつけ、またクラスを綺麗に結び、また段階を1つ上に登った大人の女子生徒として、先生に投げかける言葉が先生を(良い方へと)動かす要因またはトリガーとなっており、注目せずにはいられない。
長谷川博巳は、この作品の主演であるが、冷静に生徒を観察しながらも、「生徒想い」な行動や言動を残し、また個性の光る独特なセリフ回しも非常に板についていた印象であった。
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