「非」王道な教育ドラマ - 鈴木先生の感想

理解が深まるドラマレビューサイト

ドラマレビュー数 1,147件

鈴木先生

4.254.25
映像
4.25
脚本
4.38
キャスト
4.38
音楽
3.88
演出
4.38
感想数
4
観た人
7

「非」王道な教育ドラマ

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
4.0

目次

今までにないタイプの教育ドラマ

これは、とある中学生のクラスを担当した担任の先生と生徒たちを舞台に、ストーリーが進んでいく。

これまでのドラマでは、特定の生徒に殆どクローズアップされ、悪さをした生徒を改心させて、「絆」を結んでいき、感動の展開になることが多かったが、この作品は他のドラマとは一線を画す。

まず、先生の心の機微が主なナレーションとして入り、先生の目線で生徒や親など他の人との関わりが進む。今までは美化されがちで遠巻きに映されていたクラス風景が先生の目線から冷静に、だけれども人間くさい部分も多分に加味された「リアル」さがぐっと増した、濃い内容になっていく。特定のマドンナ的生徒への感情や「男」としての葛藤など、教育では「排除されるべき」姿勢も見せていて、非常に興味深い。

そして、これも大きな特徴だが、分かりやすく「不良」と呼ばれる人たちはいないことだ。そういった、分かりやすく悪い人たちに焦点が当たりすぎると、他の生徒たちに目が行き届かなくなるという危惧はこのドラマでは不要だ。「一見普通」な生徒たちが心中で抱えるもやや葛藤を担任の先生のやり方でスッキリさせてくれる、しかもそこに押しつけがましさが一切ない。熱血さもない。ただ、淡々と話し、生徒に影響を強く与える。そして、生徒からも正直学べる要素は多くある。この一方的ではない、「相互的な」影響をもたらすのがこのドラマの良さである。

これも絶対に述べておきたい点であるが、「先生」が抱える人間らしい問題点もこのドラマではしっかりと表現されている。山口智充さん演じる体育教師の小さな問題を生徒が過大に取り上げ、辞任に追い込まれるという一連の話の流れもしっかりと現代の「リアル」な教育現場を映し出している印象があった。というのも、筆者(現在20代前半)の高校でも同様な事象が起きていたからであり、それは一見普通の生徒による排他的な思考が導いた事件だったのだ。もちろんこの作中の体育教師の行動は誤解を招きかねない点も多々あった。ただ、最後の主人公の鈴木先生への嫉妬を露わにした瞬間では、「教師は聖人ではなく、人間である」と強く実感させるものだった。

説得力のある、ただ逸脱した性のモラル

中学2年となると、思春期真っ盛りであり、「性」への関心も高まりつつある多感な時期だ。子供だけではなく、その親もそういった話題に過敏になりがちな環境であった。頭ごなしに、起こった事象を否定してしまいがちな親と起こした生徒との摩擦も、この担任が間に入り、冷静に対応していく。

ドラマの話の中で、中学2年の受け持ちの生徒と小学4年の生徒との性行為が取り上げられた。「レイプされた。」と考えた母親がとり乱すものの、相互に確認すると、実は合意のもとの行為だったということだった。ここで興味深いのは「実年齢として成熟していないからダメだ」という意見で当事者と親に話さなかった事だ。大事なのは当事者の精神年齢と「覚悟」ということで、いくら親に注意されても納得できずモヤを残すことの多いこの疑問をきれいに晴らせたのが、この先生の凄いところとも言える。

それ以外にも、「コンドーム」をつけるかどうかなど、センシティブなテーマを数多く取り上げているが、先生の揺らぎない信念と、どこか説得力のあるが、一般から見れば「逸脱」したと思われてもおかしくない、理論や概念に、驚かされることが多々ある。

このコンドームの問題では、多くの男性との関係を持ったことのあるある女生徒の言葉も印象的であった。

大概、この手の話では、男性主体となり「行為」の良さなどが語られるものだったが、この女生徒が「女の子も、ゴム付けるより生でする方が気持ちいい。」といったニュアンスの意見を作中で言っていた。性行為の(特に若い)女性側の心境を取り上げられることにハッとさせられた気持ちになった。

逸材たちの光る演技

ドラマ初主演の長谷川博巳、そして当時はまだ無名であった土屋太鳳の演技が魅力の1つである。

クラスのマドンナでもあり、先生自身の「夢」や妄想にも多々登場する土屋太鳳は、美貌と透明感と、そして芯のあるキャラクターのヒロインとして瑞々しくも光る存在としてドラマを彩っていた。最初クラスの誰もが抱いていた「冷たい」という印象から、どんどん魅力が増していき、男子も女子も多くの心を掴む「温かい」生徒への変化を綺麗に魅せていた。

もちろん、他の生徒たちも中学生として瑞々しくも、露わとなった心の塊をまっすぐにぶつけてくる存在として、それぞれが光っていた。ただ、土屋太鳳は中でも、見るもの(視聴者)を惹きつけ、またクラスを綺麗に結び、また段階を1つ上に登った大人の女子生徒として、先生に投げかける言葉が先生を(良い方へと)動かす要因またはトリガーとなっており、注目せずにはいられない。

長谷川博巳は、この作品の主演であるが、冷静に生徒を観察しながらも、「生徒想い」な行動や言動を残し、また個性の光る独特なセリフ回しも非常に板についていた印象であった。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

本質をシュールに描く、革新的かつ斬新な学園ドラマ

既存の学園ドラマを覆す内容こんな学園ドラマは初めてだった。時代も変わったものだと感動すらおぼえた。好みはかなり分かれるかもしれないけど、私は、今までのどんな学園ドラマよりも面白いと感じた。とはいえ視聴率は2%台の週もあったほどで、その数字もオドロキだが、ホントに数字は関係ないと思わずにはいられない。視聴率はボロボロだったが、ドラマの質を高く評価され 映画版も製作された、というのも実に納得。 教師が主人公の学園ドラマはいろいろあるが、この作品は、不良学生たちを破天荒な教師や熱血教師が更生させていくものでも、教師と生徒との恋愛を描いたものでも、生徒のいじめや、スクールカーストなどを描いたものでもない。 そういう、何か奇抜なテーマや特殊な人物設定によるものではなく教師も生徒も、ごくごく一般的で、標準的な学校の日常が舞台。ただ、「これ、地上派だよね?」とびっくりするくらい、本質的。 人は体験...この感想を読む

5.05.0
  • たまこたまこ
  • 232view
  • 2672文字
PICKUP

教育について考える

考える事、伝える事現代の中学生や教師のリアルな生態を表していると思いました。割合が低いものもありますが、現実に起きている事です。クラスのヒエラルキーもハッキリと分かりやすかったですが、ゆとり世代のど真ん中が背景なせいか、1話目 から冷静な話し合いをする穏やかを感じました。バタフライナイフで事件が起きた時に、持ち歩いていた藤山くんが、証拠もなく庇われたり、疑われたりしていても、足子先生の「クラスメイトを信じましょう」の提案に大人しく従ったり、小川さんが異論を唱えた途端に、薄情者扱いをされているシーンなどを見ると、何も考えずに、多い方に流されているだけなんだな。と思いました。しかし、様々なトラブルを経て、鈴木先生のできちゃった婚での鈴木裁判の最終回。自分の発言で誰かが傷つく事を痛感したり、意見が多い方が正しい訳じゃない。とクラス全員が理解しながら冷静に討論が出来ていたと思います。中盤で竹地く...この感想を読む

4.04.0
  • たなまるたなまる
  • 388view
  • 2153文字

家族で一緒に見づらい学園ドラマ

原作に忠実なドラマ似ている…似すぎていて思わず笑ってしまったほどである。ドラマ「鈴木先生」の生徒役、カーベーが。この役にこの子をキャスティングした人にお礼を言いたいくらいの気持ちになったよ。カーベーはこのドラマに欠かせない重要な役どころなのである。まあ、それはのちに語るとして…。私はドラマが始まる前から、原作のコミックスを楽しみに読んでいた。ドラマになると聞いて「最近のドラマって、たいてい原作ありきじゃないか。オリジナルで勝負すればいいのに」と、いつも思う感想を抱いたのである。ところがどっこい、予想は嬉しい方に外れて、見ごたえのあるドラマにしあがっているじゃないか…と素人評論家は思ったくらいだ。だいたい、私は学園ドラマが大好物なのである。テロップで映し出される鈴木先生の心の声に、教育現場の苦悩やオトコの本音を見知った気がした。そもそも、長谷川博己はメガネが似合う。オープニングで、生徒た...この感想を読む

4.04.0
  • みまこんみまこん
  • 540view
  • 2096文字

感想をもっと見る(4件)

関連するタグ

鈴木先生を観た人はこんなドラマも観ています

鈴木先生が好きな人におすすめのドラマ

ページの先頭へ