なにかもちがってますよ - なにかもちがってますかの感想

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なにかもちがってますか

3.503.50
画力
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ストーリー
3.50
キャラクター
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設定
3.75
演出
3.25
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なにかもちがってますよ

3.53.5
画力
3.5
ストーリー
3.0
キャラクター
3.5
設定
3.5
演出
3.0

目次

相変わらずの鬼頭イズム

中学時代のポエム思想に思い当たる節のない人はそういないが、ここまでパンチの効いたやつはそういまいって感じのイッサをまずは笑おう。まあ、色々こじらせすぎたんだね。いちおう「もち」がえていない部分もしっかりあるあたりがまた中学生らしい。今の時代では中二病などと揶揄されてしまうあの頃の考え方というものは、実は正しい部分もたくさん含まれている。この世の仕組みに対して、あるいは大人の言い分に対して、何かがもちがえてると感じて始まる反抗期は決しておかしいことではない。では何が問題なのかといえば、ようするに「世の中もおかしいが、お前もおかしい」という言葉に尽きる。文句は言えるが、ロクな代案はないというアレだ。そのくせ偉そうな発言をしていては、呆れられるのも当然。漫画というのも作るの難関批評は簡単である。おごらず、作者に敬意を持ちましょう……と、自戒も十分刻んだところでイッサの思想を考えてみると、まず目に付くのはイビツな社会貢献意識だろう。おおむね中学前後の反抗期というのは自らの過小評価への抵抗から始まる。自分の意思を優先させないで、何が人生だ!的な考え方は、もちろん正しい。しかし、そんなものはみんな一緒だ。「自分の意思を尊重すること」と「自分だけの意思を尊重すること」の違いを知ったあたりで、第一次中二病は卒業である。ではこのイッサくん、初めから卒業しているのかと思いきや、実にいろいろもちがえている。簡潔に言ってしまえば、己が短気なだけなくせにその理由を正当化する言い訳を考えて、自家中毒に陥っているということ、及び結局は自分の思想に対して、ルールを守らない人々と全く同等にワガママであることなのだが、ここではそれだけでは終わらず、どんなところがおかしいか、検討してみよう。

ダメな人間は死ね

あ、これ筆者の意見ちゃいますよ。イッサくんね、イッサくん。こいつの思想の多重的なもちがいのうちの、最初の一歩がここだろう。善悪の判断以前に、どういうわけか量刑的な発想がない。この部分がまず、どうしようもなく稚拙である。極端な結論に逃げすぎなのだ。理由はもちろん、話をわかりやすくするためというメタな事情なのだが……ま、考察でそんなこと言っても始まらないので、無視。で、イッサくんの思想だが、先ほど筆者は正しい部分も含まれていると言った。ルールを守らない人間は死んでもいいと考える彼の思想、正しいところとは何か。それはずばり、「ルールを守れない人間をルールで守る必要はない」という法則への理解である。これは論理的に正しい。また、「他人の命をないがしろにするやつは、殺されても文句が言えない」という発想も、もちがえていないと言える。しかしながら、「守らなくていい」と「殺していい」の違いに関しては、彼は理解していないのだ。まさに思春期。ぼくたちの失敗。確かにこの違いは意外に曖昧なものなのだが、そういうことを理解していくのも成長である。ガンバれイッサ。あ、でももう人殺してるのか。え、やったのはミッツくん?裁判的にはそうだけど、道徳的にはこいつである。ところで、人を殺すこと自体もちがっていると言われている意味、わかるだろうか。例えばイッサはルールを守らない奴は死んでいいと考え、実際にそれを敢行したわけだが、仮に彼が、そのもちがいに後に気がついたとしよう。殺された人にはそれをどう補償すればいい?完全に不可能だ。全体の利益を考える社会のルールという観点において、もちがいの償いができない手段は許されない。このあたりが、死刑がもちがえていると言われている一つの理由だったりするが、死刑の是非とかはここで語ることじゃないので、割愛。と、いうわけで、彼のもちがいをまず、殺人を行うことの肯定とするわけだが、じゃあイッサくん、それさえなければ正しいのか。実は、それだけでもかなりマシになるのだが、まだまだ黒歴史的思想の深みはこんなものじゃない。他に論理的にもちがえていると言える思想を見てみると、次項のような点が挙げられる。

勉強が役に立たないと言うやつはバカ

この点に関しては、彼は半分だけ正解と言える。学校の勉強とは社会で役に立つ云々ではなくて、与えられた課題への適応力を見ているのだという発想は、あながちもちがいではない。しかしながら、この点でもやはり、周囲の子供らに口喧嘩に勝てればいい程度の発想で止まりがちな、中二的思想が見え隠れしている。まずはじめに、与えられた課題への突破力を見てくれなどと、誰も頼んじゃいないことが挙げられる。だがこの点に関しては、正直イッサくんと意見の衝突が起こる場所ではないだろう。なぜなら勉強をサボることは自由だからだ。親や教師の対応は強制に近いものだろうが、本質的には選ぶ権利は自分にある。学校の勉強をサボり、やりたいことだけをやり、ルールは守った上で自由なやり方で社会で生きることは、何一つもちがいではない。しかし、そういう生き方を選べないくせに勉強に文句を言うのはおかしい。社会とはこういう場であり、それを受け入れなかったくせに恩恵だけ与ろうなどとはムシがよすぎる。普通に会社に入りたいなら勉強は必要なのだ。イッサくんにも、この点は頷いてもらえるのではないだろうか。彼の神は柔軟なんだそうですし。しかし次のもちがいに関しては、彼はハッキリともちがえていると言っていいだろう。すなわち、「学校が見ているのは課題への適応力ではなく、言われたことを素直に聞く資質」であるということを失念してる部分である。ようするに、単純な従業員として都合の良い人間の養成である。才能ある奴はどうせ何を教わろうと勝手なやり方で伸びるから、その他大勢には極端な話奴隷になってもらおうというのが、現在の教育の形……なんて言うと、それこそ中二的だが、エッセンスの正しさはご理解いただけるのではないか。「課題をこなす能力」などというのは、建前でしかない。彼はそんな、社会の建前を信じすぎてるフシがある。これは彼の発想全体に漂う稚拙さの、根本とも言うべきところかもしれない。社会は原則的に、変な話だが、個人優先でなければ破綻する。社会のために個人を犠牲にせよと言うのはおかしい。一体どこのバカが、生き物よりもルールを重視せよなどというのか。本末転倒もよいところである。では、誰を優先するべきかを考えた時に、それは「全員」という他ないのが論理的帰結である。どう帰結するかは割愛。そんな中で、学校の勉強をバカ正直にやることはやはりバカバカしいのだ。また、課題をこなす能力を見るからといって、役に立たない知識を教えることは正当化できないというのも、当然だ。イッサくんは、基本的に自分が見てきた、自分にとってのバカを言い負かすための論理しか持っていないのだろう。なんだか昔を思い出して、泣けてくる。

鬼頭イズムの正体

ここまでイッサくんのことばかり語ってきたが、ここでこの作者である鬼頭莫宏先生のことを思い出してみると、この人どうもこういう話ばかり作っているなということに気が付く。社会でよく言われている中途半端な道徳・反道徳に対して、かなりキツい立場でものを言う。「なるたる」がいい例だろう。なぜこの人、そんなテーマばかり扱うのか。これはあくまで筆者の感想だが、鬼頭さん、ルールを守らなければいけないことが相当思考的にプレッシャーであったのではないかと考えられる。他人に対し、ルールを守れと厳しい人々は、概ね自分がそれをやらねばならないことに多大なプレッシャーを感じていた人たちである。自分の我慢や理解を、他人に強いたくなる人たちである。しかし世の中は、甘い人たちでいっぱいだ。筆者も甘い。社会なんていうのは、ようするに社会と個人、両者が邪魔し合わないことが大事であって、所詮はしのぐもの程度にしか考えていない。実際それで正解だと思う。鬼頭さんは、どうも個人よりも社会の立場に立ちすぎている気がするのだが、それはつまり個人の欲求を誰よりも強く認識していることの裏返しなのではないか。何か、自分がやりたくないことを無理やりやったことを正当化したいがために、こういう話が多い気もするのだが、どうだろうか。

点数制は、正しいか

最後に少しだけ、イッサくんが言っていた点数制にも少し関して触れてみよう。これは作者も、多少自信があるようで、帯で「いいと思うんですけどねえ」とかおっしゃっている。では、実際はどうか。筆者は強くは否定しないまでも、どうかとは思う。おそらく、勢いで犯罪を犯す人たちに、その手の抑制は効き目がない。犯罪を犯す人というのは、一概には言えないが、「もう一回もミスれない」と考える前に、「あと一回なら大丈夫」と現実逃避をする人たちだろう。そういう人は間違いなく点数をギリギリまで使ったあげく、何かバカをやって死刑になる。死刑になる人たちが増えるのでは、世の犯罪数は減らず、意味がない。点数制は、ある程度の自己管理意識がある人たちにとっては効果が高いかもしれないが、そういう人たちはそもそも犯罪はしないだろう。そんなに聡い人たちばかりなら、そもそもそんな罰則は必要なかったのだから。論理的に正しいことを、守れないから犯罪者なのである。犯罪をする人は、ルールがどうとか関係がなく、衝動でそれを行う人たちだ。点数制はもちがえているというより、導入しても現状とさして変わらないと筆者は思ったのだが、もちがってますか?

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