主人公の成長の描き方が斬新な手法
一歩の後輩
主人公の一歩にとって、後輩と呼べる二人の登場人物が、重要なキーパーソンといえるのではないでしょうか。
まずは、新シリーズから登場した板垣の存在について考えていきます。
圧倒的な存在感を誇っていた伊達に代わって、一歩は日本チャンピオンとなり、ボクサーとしての存在感を強くしていきます。ただ、当然のことながら、一歩もいつまでも新人ではありません。次世代のボクサーというものが現れ、世代は移り変わっていくものなのでしょう。
その次世代を象徴するキャラクターとして登場したのが、板垣の存在です。
そして、板垣の登場とデビュー戦におけるインパクトは大きかったです。アマチュアで優秀な戦果を残したエリートという背景で描かれていましたが、デビュー戦であっさりと負けてしまいます。散々持ち上げておいて、その負けっぷりは相当に無様なものでした。
負けたことに納得のいかない様子の板垣に、一歩はプロボクシングの厳しさを指摘します。
これまで、一歩の見せたことのなかった一面といえるのではないでしょうか。伊達という大きな存在感で君臨していた日本チャンピオンの次世代を担うべき存在が一歩です。そして、一歩の次の新しい世代を象徴する板垣に向けて、厳しい指摘をする一歩は、人間的な成長だと考えられます。
板垣という存在は、新人だった一歩が成長して、日本チャンピオンとなり、追う立場から追われる立場になりました。「新人」だった一歩が、新しい世代が現れることで「先輩」という位置付けに変わっていくのです。
本編において、一歩の立ち位置を変えたのが、板垣という登場人物なのです。
一歩という主人公を人間的に成長させる為、板垣というキャラクターが登場したと考えられるのです。次に、前シリーズから登場していたナオという存在について考えていきます。
同じボクシングジムに在籍しながらも、引っ越しの為、ジムを移籍せざるを得ないという背景が描かれていました。しかし、お互いが異なるジムに在籍していることで、プロボクサーとして拳を交えることになります。
こういった試合をマッチメイクすることで、優しい一歩に、プロとしての厳しさ、憧れの対象になった事実と向き合うことになります。日本チャンピオンだった伊達に、チャレンジャーとして立ち向かった一歩を描いた試合とは、まるで逆の展開だと考えられます。最強のチャレンジャーとして、かつての後輩である山田と戦うことになるのです。そして、自分自身の甘さを乗り越えないといけない試合といえます。
すなわち、一歩のボクサーとしての成長と考えられます。
一歩にとって、二人の後輩ボクサーが描かれいました。そして、二人の後輩ボクサーを通して描かれていたのは、一歩という主人公の成長だと考えられるのです。
焦点の当たった登場人物
一歩の好敵手である宮田、一歩の先輩である鷹村に焦点が当てられたのも、当作品からの新しい傾向といえます。
しかし、それぞれのキャラクターに焦点が当たっているとき、本来の主人公である一歩は脇役となります。完全に主人公が入れ替わっているような展開になっていくのです。しかし、このような場面が描かれていることに疑問が生まれます。
主人公である一歩の成長を描く本編に、何故、方向性の違う展開を挿入するのか、という点です。
まず考えられるのは、一歩を主人公に据え、一辺倒だった展開を変化のだと考えられます。
主人公が変わることにより、同じ物語であっても、明らかに違う印象をもつものになります。一歩とは違った格好良さを描くことができます。例えば、過酷な減量を必要としない一歩に、ボクシングの過酷さの代表格ともいえる部分を描くことができません。
宮田と鷹村の試合においては、それぞれ過酷な減量生活が強調されていました。一歩とは違う目線からボクシングというものを捉え、過酷さを描き、物語に魅力を打ち出していきたかったのだと考えられます。
また、一歩の先輩やライバルを一時的に主人公に据えることで、本来の主人公である一歩を、別の描き方をしたかったのだと考えられます。
それぞれを応援する位置として、一歩がその役を全うした際、鷹村においては素直な気持ちをぶつける役、宮田においては熱狂的な信者の一面を見せます。これまで、あまり見せたことのない一歩の表情や行動を観ることができるのです。
また、一歩にとっての刺激という部分でも、両者の試合は、一歩自身のモチベーションに繋がっていきます。
戦う理由が明確ではない一歩にとっては、こういった外から刺激を受けることが、自分の試合に向かっていく気持ちの強さになっていくのだと考えられるのです。
伊達からのバトンタッチ
伊達の世界戦が描かれている展開がありました。とても格好良い試合として、「はじめの一歩」名場面の候補に挙げられるほどの内容だったと感じています。
それは、それで素晴らしい試合だったと思いますが、その展開には違う側面があったと考えられます。
それは、本来の主人公である一歩の更なる成長です。伊達の世界戦では、脇役のように描かれていた一歩ですが、その目に凄烈な試合を一歩自身に焼きつけることで、一歩の成長を描いていたと考えることができます。
あまりのインパクトに、本来の主人公である一歩のことを置き去りにしてしまいそうになります。
しかし、伊達の世界戦がインパクトがあれば、あるほど、一歩の心にも刻まれ、一歩自身のボクシングに向かう気持ちに繋がると考えることができるのです。
実は、一歩の成長過程として、伊達の世界戦の存在意義があるのです。
それを表す場面として、試合に負けてボロボロの姿になった伊達が、病室で一歩にバトンタッチする場面が描かれていました。あまりに格好良くてインパクトが先行する試合なので、本来の主人公が霞んでしまいますが、間違いなく一歩の成長過程を描いていると考えられるのです。
一歩の成長
今シリーズにおいて、一歩ではない登場人物が主人公となる展開がありました。
その全てとは申しませんが、先輩や後輩という存在の目線から、一歩という本来の主人公の成長が、これまでとは違ったかたちで描かれていました。別の登場人物を一時的に主人公に据えることで、本来の主人公の成長を描くのは、「はじめの一歩」というコンテンツの特徴といえるのかもしれません。
「はじめの一歩」というコンテンツの個性であり、あまり類を見ない新しい手法と考えることができます。
同じボクシングアニメとして、「あしたのジョー」を比較対象に挙げます。「あしたのジョー」では、あくまで矢吹 丈が主役・主人公であり、他の登場人物に焦点を当てることがされていません。矢吹 丈の目線でアニメ本編は構成され、脇役となる場面はありません。そこは、当作品と、決定的に違う場面と考えられるのです。
そして、鷹村の世界戦が、今シリーズの最後の試合として描かれていました。そして、世界チャンピオンになった鷹村の姿は、一歩自身の最終目標だと考えられます。そんな試合が最後に描かれていたのは、最終目標に対して突っ走っていく一歩の姿を示唆したものと考えることができます。
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