一切の手抜きなしで作り込まれた作品 - ペイル・コクーンの感想

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ペイル・コクーン

5.005.00
映像
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ストーリー
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キャラクター
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声優
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音楽
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一切の手抜きなしで作り込まれた作品

5.05.0
映像
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
声優
5.0
音楽
5.0

目次

映像技術の高さ

まずは、本編を観始めて、その美しく綺麗な映像に魅了されます。

短編アニメであり、OVA作品という位置付けのアニメです。

まず、その点で、観る側に驚きを感じさせるレベルだと感じられます。そして、アニメ本編に、一気に引き込まれてしまいます。90分ほどの劇場版アニメと変わらないクオリティーに驚かされ、意外性を感じさせることで、本編に引き込もうとする意図があると考えられます。

そして、23分という時間尺においても、人間の集中力の持続する枠内に納められています。

一般的には、人間の持続させられる集中力は15分間隔とされているようです。そして、次の周期に乗ることで長い時間の集中もできるような構造になっているようです。しかし、15分を周期として区切られるようにできているのが、人間の脳といわれています。学者や研究者によって、諸説あるのかもしれませんが、一般的な考え方として定説のようです。

さすがに、当作品も15分という枠には納まっていませんが、それでも体感的には集中力を切らすことなく、観終えることができたのではないでしょうか。制作スタッフのそんな気配りがあったのだと考えられます。

そして、本編において、背景が地底世界となっていることから、青空が描かれていることがないにも着目したいと思います。

せっかくの美しい映像でも、強い光である日光が描かれることがないことで、強みを活かすことができないと考えられるのです。本編における光の要素は、機械的なものばかりです。地底世界という暗い場所を背景としていながら、僅かな電気的な光を強調することで、映像技術の高さを感じさせるのも、制作スタッフの上手な作画や映像作りを感じさせる部分です。

光が弱いことで色の描写も比例して弱くなります。それは人間の視界は、光が物に反射することで、色を判断するようにできている為です。

しかし、色によって美しさを表現しているのではなく、細かい作画をすることで映像技術の高さを感じさせているのです。想像以上に作画作業は手間がかかり、大変なものだったのだと考えられます。

しかし、視聴者としては効果も大きく、一般的なOVA作品とは毛色が違うことが、一発で感じとれるものに仕上がっています。

音においても秀逸

短編アニメとはいえ、間を大切にして制作されていることが伺えます。

それは、無音状態で映像だけの場面が多いことで、そのように感じます。そして、間を大切にしていることで、僅かな音にも敏感に反応してしまう作品づくりがされています。また、間の使い方において、当作品は2つの使い分けをされていることに気付きました。

ひとつ目は、次の展開まで間を持たせ、視聴者を焦らしているという使い方です。

ロングラン商品であるカップ麺の「どん兵衛」ですが、お湯を入れて、出来上がるまで5分の時間が設定されています。しかし、何故に5分なのかご存知でしょうか。お湯を入れ、麺が調理されるのに、どうしても5分を要するから5分なのではないのです。製造元である企業、日清の技術的には、1分や3分で出来上がるようにすることも可能のようなのです。しかし、食べる者を5分待たせるということを重要視しており、意図的に焦らすことで、更に美味しく感じさせることができるのだそうです。

焦らすという手法には、食べる者、観る者の気持ちを増幅させる作用があるだと考えられます。

ふたつ目は、視聴者に考える時間を与えている、という使い方です。

視聴者は、映像や音から状況や展開を理解し、想像を膨らませます。しかし、状況を理解するのに、時間を要する場面もあると思うのです。そして、次の展開を予想する、という楽しみ方もあります。無音の場面を意図的に作ることで、視聴者に、頭の整理や楽しさを感じる時間が用意されていると考えられます。

また、エンドロールを観て、「エイベックス監修」という文字を観て納得させられました。

音楽や映像作りに長けている企業で、アーティストの育成や音楽管理や販売を担っています。言い換えれば、音の専門家といえる企業なのではないでしょうか。だからこそ、間を大切にしている作品づくりが実現されているのだと考えられます。

時代背景における考察

勝手な想像なのかもしれませんが、今から1000年は未来の話なのだろうと考えていました。

アニメ本編における文明レベルが高いためです。本というアイテムに注目したいと思います。現実社会における本と、アニメ本編にあった本では使用方法や存在そのものが異質なものです。そして、破滅してしまったに等しい世界において、生産活動はないに等しいと考えられるのです。そう考えると、本編にあった本は、世界が崩壊してしまう前に世間に一般化しているものと考えることができます。

そして、文明が進んだ状態で地上環境が悪化し、人間は地底での生活することを余儀なくされてしまった世界なのだと考えられます。

そして、本編で描かれていた世界は、現代社会においての風刺だと考えられます。

太陽や雲、月、星など、空を眺めることができない未来は、悲しい姿です。間違いなく次の世代に残したいと思える世界の姿ではありません。また、閉塞感のある場所は息苦しさを感じさせ、誰もが望みません。公園で元気に遊び回る子供の姿や、海水浴、山登りなど、アウトドアが一切できない世界です。

敢えて、そんな息苦しさを感じさせる作品づくりがされていたのだと考えられます。

そして、その感じられる息苦しさは、環境問題を放置しておくと訪れる未来の姿です。すなわち、現代社会に向けての風刺だと考えられるのではないでしょうか。

記録を復元することの意味

本編における世界感や、先の展開を考えると、人類は滅像していく未来しか想像できません。

現実社会による環境破壊を風刺した内容であることは前述の通りです。

また、地下の施設で暮らしていながら、環境が悪化することで、さらに深い地底に追われる人間の姿は、まさに追い詰められた人類の姿だと考えられます。アニメ本編における閉塞感が強いのも、追い詰められている人類の姿がそのように感じさせるのだと考えられます。

また、このような環境下において、記録を集めることの意味が本編の中で問われています。しかし、主人公は記録を復元することで、人類が発展していく未来を模索すると主張していました。ただ、ヒロインの女性キャラクターは、前向きに、主人公の主張を捉えられなかったようです。

そして、物語の終盤には記録の復元が進むことで、置かれた現実に愕然とする主人公が描かれていたのが印象的です。

記録集めにおける意義は、生きる希望を捨てないという行為だと考えられます。

しかし、具体策を考えて実行していかないと、状況は悪化していく一方です。しかし、記録を集めるという行為は、有効性の高い具体策を考えていくことに繋がります。ただ、記録を集めれば、集まるほど絶望感が強くなってくる現実もみえてきます。

私の見解としては、率直に滅んでいく地球と人間を描いた物語だと受け止めています。

そして、そんな未来を描くことで、制作スタッフは現実社会の環境破壊が改善されることを期待しているのではないでしょうか。OVA作品なので、営利目的で制作された作品であることは間違いないです。しかし、アニメ業界や世間一般の風潮や好みを精査して、制作された内容とは考えられません。

環境破壊と滅びゆく人類を描いたのは、強烈な最終通告だと考えられます。

こうならない為に、今の私たちがすべきことはなんでしょうか。そこには具体性のあるメッセージ性はありませんでしたが、そういった気持ちにはなります。何か具体的な行動をしなければ、きっと、本編で描かれていた世界が訪れそうな気がします。

「こうなってからでは遅い!」というメッセージ性が強く込められた作品なのだと考えられます。

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