1920年代のイギリスを味わう映画
人生に真面目に立ち向かった青年の物語
「炎のランナー」という題名から想像していたのは、ロッキーのような情熱と闘志を全面に出すタイプの主人公。でも、登場するのは古めかしい白い運動着をきちんと着ている細い青年達だ。もちろん、ボクシングと陸上という種目の違いもあるが、名門ケンブリッジ大学生とスコットランドの宣教師が主人公ということが大きく影響している。全般的に上品な雰囲気が醸し出されている。
主人公達は、差別や信念との葛藤という重荷を負って、人生に悩み何とか活路を見いだそうとしている。そして、その情熱が陸上に反映される。直接殴り合うようなスリルはないが、オリンピックの舞台に向けて静かな闘志が燃やされるのだ。
1920年代のヨーロッパにタイムスリップ
印象的な場面の一つは、白い運動着を着た青年達が砂浜を走る場面。ケンブリッジ大学の場所を地図で確認すると、海にはさほど近くない。スコットランドの宣教師エリックはエジンバラで伝道していたようなので、こちらは海に近い。あの砂浜はエジンバラの砂浜だったか?イギリス・スコットランドは日本のように島国だということがわかる場面だった。
もう一つの印象的な場面は、ケンブリッジ大学の荘厳な石造りの建物と中庭の美しい緑の芝生だ。題名から、勝手に現代のフィールドトラックを想像していたのだが、全く違う雰囲気の映像だった。
ときは1919年の大学入学から1924年のパリオリンピックだというから、1920年代のイギリス・スコットランドなどが舞台なのだ。そのことを分かった上で観ていたなら、その当時ならではの雰囲気作りに工夫した点を発見できたに違いない。
心に残る映画音楽
「炎のランナー」と言えば、映画は観ていなくても音楽は聴いたことがある人が多いだろう。テレビのバラエティ番組などで、走る場面に使われているのを耳にすることがある。
走るシーンなのに、音楽はスローテンポだ。オリンピックの決勝で走るシーンでは、映像もスローモーションだったと記憶している。スローにすることで、その一瞬を長く見せることができる。今までの思いを全てのせて走る主人公に、観ている側も想像を働かせる余地があった。本当に、そのままのスピードで見せてしまったら、あっけなく事実だけを伝えることになったのだろう。また、演技者はそれほど足が速いわけではないから、ごまかしもきくと言ったら言い過ぎか。
いずれにしても、聞く者の気持ちを高揚させる、記憶に残る映画音楽となっていることは間違いない。
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