欧州版フォレスト・ガンプ
タイトルから想像するには…
何か、長寿&老人讃歌かと想像していたけど、見始めると意外にシビアな内容。
スウェーデンは現在は福祉大国。しかし現在に至るまでは二度の世界大戦、冷戦をくぐり抜けて激動の時代を乗り切って来た国。
主人公のアランを通して、100年の欧州の歩みが語られて行く、欧州版フォレスト・ガンプ。
アランの上を通り過ぎて行くひとたち
最初に登場する家族は、猫でハートフルな内容が展開されるのかと思えば、アランは爆破マニア。
身寄りの無い独居老人が何故爆破マニア?ひょっとしてスウェーデンでは普通なのか?と興味を引かれると、そこからは現在のアランからは想像もつかなかった激動の人生が語られます。
自分を生んだ母親、運動家で銃殺刑になった父親、母親もアランを抱えたまま夭折し、そしてアランはある事件から精神病院に。
そこで人としてとても重要な物を治療の一環として失いますが、それは時代のせいだったのか…
日本も戦前、戦中は人道を無視したひどい話をたくさん聞きますが、戦争のあった時代はアジアだろうが欧州だろうが人の想いや生き様が踏みにじられる事は変わらないよう。
精神病院で失う物に対し、語り手のアランは余りに冷静。
100歳ともなると、これくらい達観してしまうものなのか。
そして陽気な相棒と、若いカップルと、ちょっとした殺人
そんなアランが体験して来た激動の欧州史(途中でアメリカも加わる)に対して、現代で起こっている事件はあまりに平穏。
いや、殺してミンチにするとか脅されてはいるけど原爆実験や強制収容所暮らしに比べたら可愛いものにしか見えない。
今までアランが接して来た独裁者たちからしてみたら、マフィアの下っ端なんてもうほんとに可愛らしいもんで、冷凍庫で凍死させられちゃったりハンマーで殴り殺されたりとアランが手を下さずに簡単に片付いて行く。
いや、全ての事において、アランは何一つ実行してはおらず、常に周りの人たちがどんどん事態を動かしてゆく。
アランは無邪気に爆破をしているだけ。文字通りの爆弾から、歴史上の出来事から、人と人とのつながりから。
アランは点火スイッチを押しているだけで、アランが投げかけた事によって起こる爆発を、常に離れた所から眺めている。
それがこの映画の全て。
最後に、途中でたまたまヒッチハイクした学生(といってもけっこうな歳)と、動物愛護に熱心な象の飼い主(いや、象は誰の物でもないって言ってたな)を結びつける愛の起爆でお話は終わり。
たくさんの事をして、たくさんの国を渡り歩いたアランだったけれど、伴侶を得るという事だけは叶わなかった。
そのアランに対する手向けが、あのラストシーンなのでしょうね。
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