誰だって、産まれる時代と場所は選べない。 - ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

誰だって、産まれる時代と場所は選べない。

5.05.0
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
4.5
演出
4.5

目次

禁酒法時代。この、外からは判らないノスタルジア。

天下の悪法ともよばれ、その廃止をマフィアと聖職者がともに嘆いたと呼ばれる禁酒法。これは、その時代のど真ん中に運悪く生まれついたやつらの話だ。昔見た夢。掴みたかった未来。幸福。そして悪徳。そんなものを、生き延びてしまった老人が、繰り言のように夢を見る。そんな話だ。

老人は、夢を見る。三度――。

このヌードルスは、人生に三回大きく閉じこもる。少年時代に、現実から逃げるためにトイレの中に。仲間を殺した相手を射殺して、刑務所で。仲間を裏切って、アヘン窟へ逃げ込んで、世界から逃げ隠れて、そしてやっと今、産まれた街に帰ってくる。(ん、もしかしたらこの男、活動していた時間より、何もせずにひっそり閉じこもっていた期間の方が、遙かに長いんじゃないか?)そして、閉じこもった場所から出てくるたびに成長し、年を取り、世界がその明度を変えていく。少年時代は明るく、青年期は溌剌と、そして老年期の今、風景はすべて色あせている。見るものがすべて、かつてあったものの名残でしか無く、自分はその残りかすでしかない。なにかを思い出すたびに、時間が奪い去ったものの大きさを思い知らせてくれる。

ああ、悪いのは結局自分なのだ。

殺人を犯したのは、自分。かけがえのない友人を裏切ったのも、また自分。取り返しのつかない罪をかさねるたびにヌードルスの時間は奪われ、閉じこめられる。閉じこもっていたときに、彼はなにを見たのか。(それとも案外、彼は世界が好きじゃないのかもしれない)そして、時間は彼を置き去りにして勝手に流れていく。

それでも、過去は見逃してくれない。

どこに閉じこもったって、誰かがかれを外へ引っ張り出す。それは刑期だったり、謎の手紙だったりするのだけれとも。そこで状況が、友人が、彼になにかを強要する。本当に彼は、それを望んでいたのだろうか? 案外、いろんな人間か彼を大きく見積もり損なっていたのか。きっと、物語のいわゆるラスボスたるマックスも、ヌードルスに夢を見すぎた男の一人だったのか。

最後の笑顔。あれは、なんだったのか――。

仲間の命を助けるために、仲間を売る。そんな悲劇的な行為の果てに、彼は最後の逃亡に入る。ところが、それはマックスの監視するところで、復讐の一環だった。――そこは、いい。だが、結局ヌードルスは嘘をついていたのだ。彼は、大切な仲間を裏切って、金を奪ったのだ。いや、もしかしたら、どこへ逃げても、閉じこもっても追いかけてくる状況を、悪意を持って追い払ったのかもしれない。だからこその、あの会心の笑み。もちろん、そんなことはマックスが知るよしもなく、彼はただ純粋な友人を裏切ったとだけ信じて死んだのだろう。こうして、ヌードルスは禁酒法の時代からも、仲間からも自由になった。灰色の年老いた世界での自由にどれほどの価値があるのかは知らないが。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ