自然と共に生きるということ
不便を楽しみに変える
東北の山間にある「小森」という小さな集落で一人で暮らす若い女性いち子の日常の物語。
いち子は沢と森と谷に囲まれた盆地で暮らしています。夏場はとても蒸し暑く湿度は100%近くにもなります。部屋に籠った湿気を無くすためにいち子は薪ストーブを焚きます。夏場にストーブ!?かなり驚きました。しかも、彼女の家にはクーラーもない。普通ならこの状況は地獄ですよね。
しかし、いち子暑い中ただ我慢するのは癪に障るからとパンを焼きます。この時期にしか焼かない特別なパン。粉から捏ねて一から作るパン。とても美味しそうなパンだったけれど、私ならただただ暑さを嘆くだけで更に疲れそうなパンを作るという発想にはなりません。自分が置かれている状況を悔やむのではなくプラスに変える。物語の冒頭からいち子の行動に驚かされました。
夜になると家の窓へ明かりにつられて沢山の虫が寄ってきます。田舎だけあってカナリ大きい虫たちです。私ならギャーギャー騒いでしまいそうな程です。しかし、彼女はその虫たちが窓にぶつかる音を聞いて「あ!コレはカブトムシだ」とゲーム感覚で楽しんでいます。
作中通して、いち子が田舎暮らしでの不便さを楽しむ様子が描かれています。ただでさえ不便な集落で車さえもない生活を送っているいち子交通手段は自転車だけ、冬場は雪が積もるので徒歩という状況です。私も「小森」程ではないですが交通の便が非常に悪い地域に住んでいるのですが、車ナシで生活するなんて正直考えられません。そんな状況でいち子は嘆くこともなくただ当り前に生活しています。
不便さをポジティブに捉え楽しむことは生活を豊かにすることなのだと彼女を見ていると感じます。
自然の恵みを使った料理
いち子は様々な食材を育てています。野菜類はほぼ自給自足です。
その食材を使って作られる料理の数々がこの映画の最大の魅力だと私は思います。彼女は料理上手な母の影響からなのか手際もよくて料理が上手です。新鮮な食材を使った美味しそうな料理の数々、ここでしか味わえないものです。
彼女の料理シーンを見るといかに自分が適当に料理していたかが分かます。食材の収穫から始め丁寧に仕込み料理する。手間暇をかけるからこそ余計に美味しくなるのでしょう。
スーパーで綺麗に処理された食材で作る料理とは同じ料理であっても有難味が全然違います。自然に感謝しその恵みをじっくりと味わうというのは田舎でしか出来ない最高の贅沢だと思います。
本当の意味で生きている
人間は食べるために他の生物を殺しています。生きる上で必要なことです。いち子も合鴨を裁いて食べています。
「いただきます」と言って命をくれた生物に感謝し、食事をする。これを意識しながら食事を摂っている人は少ないです。でも仕方ないです。スーパーには綺麗に処理されて文字通り「食材」になったものしかないのだから
食べるために汗水をたらし作物を育て、生き物から命をいただいて生活する。
田舎暮らしだからこそ身近に感じられ、今自分が生かされているということに日々感謝して暮らしていけるのでしょう。
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