自由で風通しの良いニューヨークの小さなドラマを気楽に愉しむ - スモークの感想

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スモーク

4.704.70
映像
4.00
脚本
4.90
キャスト
4.80
音楽
4.50
演出
4.00
感想数
1
観た人
2

自由で風通しの良いニューヨークの小さなドラマを気楽に愉しむ

4.74.7
映像
4.0
脚本
4.9
キャスト
4.8
音楽
4.5
演出
4.0

目次

自由で風通しの良いニューヨークが好き

1995年作品。20年前は、まだアメリカが素敵に思えていたのだなあ、と感慨深い。

ニューヨークを舞台に作られた素晴らしい映画は本当に数えきれないほどたくさんあります。ウディ・アレンの知的で洒脱なニューヨーク、あるいはスパイク・リーのアグレッシブな戦うニューヨーク、ジョン・カサヴェテスのドラマチックで緊張感溢れるニューヨーク、はたまたノーラ・エフロンのチャーミングでロマンチックなニューヨーク。個々の作品まで数え上げたらきりがないくらい、自分にとって、好きな作品はニューヨークを舞台にしたものが多いのだな、と改めて気づかされます。

その中でも私がとりわけ好きなのが、色々な人種の人たちが行き交う、自由で風通しのよさを感じられるニューヨークの風景を描いたもの。この「SMOKE」も思い入れが特に深い一本です。同じウェイン・ワンの「ブルー・イン・ザ・フェイス」も大好きだし、ジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・アース」の中のニューヨークのパートも最高に好きです。こんなにも多様性をあっけらかんと祝福し、「ジャッジをしない」姿勢というのは、ニューヨークならではで、それはこの街の持つ懐の深さと何事も面白がる若々しい気持ちのあらわれなんだと思います。

普通に市井に生きる人々がそれぞれにささやかな矜持を持ち、ひとりひとりが一国一城の主という風情をどこか醸している。そういうニューヨークらしい人々を見ると、いつでも心愉しい気持ちにさせられます。そんな彼らがいかにもな軽妙な会話を交わし、変に詮索もしないし、べたべたした人間関係ではないがその人情味で色んな悲喜こもごもを引き起こす。「SMOKE」にはたくさんの登場人物が出て来ますが、脇役に至るまで、ぐっとくる人ばかり。魅力的なニューヨーカーに会いたくなったら見直したくなる作品なのです。

気楽なのに心に残る、親密な空気感がある作品

そもそもは、ポール・オースターの「オギー・レンのクリスマス」という短編小説だけがあって、オースターと個人的にも親しいウェイン・ワンがこれに触発されて映画に発展したというこの作品。友人のよしみも手伝ったのか、映画の脚本もオースターが執筆しており、随分内容的には世界が膨らんだものになっています。この映画の持つなんとも言えない親密な感覚がとても好きですが、ウェイン・ワンとオースターの友情をベースに和気あいあいと作られた映画の成り立ちのおかげもあると思います。

構成は、タバコ屋のおやじ、ハーヴェイ・カイテル演じるしぶいおやじ、オギーと、ウィリアム・ハート演じる小説家のポールを中心に、色々な人物が交錯するある種の群像劇のつくりになっていますが、描き方が軽くさりげないので、とても気楽に気負いなくするっと見れてしまいます。お話の流れや配置のバランス感覚もいいので作品がとてもスムーズで、何度見ても気がつけば無理無く引き込まれて見てしまい、疲れることがありません。それでいて、ひとつひとつのエピソードになんとも言えない「余韻」を残すところがさすがポール・オースターだなと思います。

ラスト、トム・ウェイツのしわがれた声の心温まる「Innocent When You Dream」に乗せて、モノクロでセリフ無く「オギー・レンのクリスマス」のあらましを見せるパートの挿入は、この作品のハイライトと言えるでしょう。味わい深く、優しくて奇妙で忘れ難いシーンです。

煙草を介してゆったりと人と向き合う豊かさ

いつの時代も、どこの国でも「男はつらいよ」な訳で、男の人は苦労も多く、孤独で、諦めたり失望したり怒りを押し殺しているような人をテレビでも、身の回りでも少なからず見かけるものですが、だからこそ「なんか無理がなく楽しそうなおじさん」って、私は無条件に愛らしいと思ってしまいます。

「SMOKE」のオギーとポールの二人のおじさんは、おしゃれでもちょい悪おやじでもなんでもないんですけれど、オギーは適当な服を着ているし、ポールもいつもTシャツの胸のところに汗のしみがあるようなだらしない格好をしてるんですけれど、二人ともなんともいい具合に肩の力が抜けて余裕があって、かっこいいんですねえ。彼らの役の魅力と説得力が素晴らしいです。

年取るごとにどこまでもしぶく格好良くなっていくハーヴェイ・カイテルですが、この作品の彼も実にチャーミングです。しかめっつらの一介の煙草屋のおやじに見せて、お話が進めば進むほど、彼の振る舞いの人としての品の良さや、潔さのようなものに観客は魅了されていくことになります。

しゅっとした気難しいインテリの役も多いウィリアム・ハートは、髪も随分薄くなってしまいましたし、この映画の頃が一番セクシーだったなと思います。「妻を強盗に殺された心の傷を抱え、なかなか新作を書く事ができない作家」という役どころですが、どこかマイペースで泰然としていて、焦ったりみじめな感じがありません。でも、心に癒えぬ悲しみは抱えている。そのことが彼に湖のような静かさを与えていて、ポールを魅力的に見せていたと思います。

そして今ではあり得ない表現になってしまったけれど、題名の通り、事ある毎に登場人物たちはぶっとい葉巻だのシガーだのをしじゅうぷかぷかとふかしている。そうして煙草を介して人と人とがあんまり喋ることもなく、でも心愉しくのんびりと相手と向き合っている煙草ならではのコミュニケーションのあり方みたいなものを、改めてああ、なんだかいいなと感じつつ見ました。

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