ありそうでなかった応援団漫画
ちょっと珍しい応援団漫画
部活モノは、漫画のなかでもメジャーなジャンルであろう。
少年漫画黎明期から数多く存在し、名作・人気作の多いスポーツもの。近年、実写との絡みで一躍注目を浴びるようになった吹奏楽や美術部などの文化部ものなど、漫画誌を読めば必ず一つは部活モノを見つけることが出来るだろう。
しかし、応援団モノの漫画を上げることは、おそらく読者諸兄も難しいに違いない。筆者も長年ジャンル問わず様々な漫画を愛読しているが、応援団を扱った漫画の名前は聞いたことがなかった。
そしてようやく出会った漫画が、『アゲイン!!』である。作者は『モテキ』で知られる久保ミツロウ。驚くべきことに、このペンネームで女性である。
『アゲイン!!』は応援団ともう一つ、三年前の過去へとタイムスリップするという事象――「アゲイン」を軸に物語が展開していく。
普通、タイムスリップといえば壮大な物語になりがちだが、偶然「アゲイン」の力によって三年前へ戻ってきた主人公の今村は、「入団者がいなかったためになくなってしまった応援団」を消滅させないために動き出す、という極めてミクロな目的で動いていく。
つまらない高校生活を過ごし、偶然にも三年前へ戻ってきた今村だが、戻ってきてもとりたてて大きな野望もなく、特に目標という目標もない。応援団をなくしたくないという気持ちはあるが、だから何をしようという訳でもない……。精神的年長者でありながら応援団の連中やクラスメイトたちを上手く励ましたり鼓舞できないのが今村らしさであり、それが逆に彼の魅力となっている。
オチが壊滅的にダメだった
『アゲイン!!』の問題は、物語としてのまとまりが全くないところだろう。
これは致命的ともいえるほど作品に損傷を与えている。「アゲイン」という能力の謎、元の世界(今村がロン毛のまま自堕落に過ごした世界)で応援団長・宇佐美はどうなったかなど、回収されない伏線があまりにも多すぎた。
個性的なキャラクターが多いわりに、ほとんど掘り下げられておらず、たいていのキャラクターはお飾りか嫌なやつで終わってしまう。
こういった構成の面で、『アゲイン!!』は非常に残念なところの多い作品であった。
エピソードの面でいえば、野球部応援の回。宇佐美の想い人や野球部・鈴木の失恋、加保須南高校応援団オリジナルの演武「かわいく応援」などといった見せ場がたくさんあるのに、いまいち面白い着地点に落ち着かず、爽快感がないまま終わってしまう。
かと思えば、演劇「しにたいミュージカル」の回では、「死にたい気持ちを歌う」というものすごく斬新なアイデアをもってきたのに、演目のごたごたで二転三転するせいで落ち着きなく終わってしまう。途中にラブストーリーを挟んできたのもややこしくさせた元となってしまっただろう。「死にたいミュージカル」は素材が良かっただけに、本当に惜しかった……。
どれもアイデアは秀逸なのに、構成力の無さに足を引っ張られ、結果的にオチもグダグダになってしまう。絵も見やすく、キャラクターも個性的なのに、実にもったいない作品だ。
掲載誌は「週刊少年マガジン」で、同じく少年誌の「ジャンプ」に比べればさほど打ち切りに追い立てられはしないはずだ。ならばもっとじっくり編集者なりと相談し、ストーリー構成を磨くべきだったのではないか。
十数巻も続いた話のわりには、ぐだぐだのまま終わってしまった。辛辣なことをいえば、「ジャンプ」では十週打ち切りになってもおかしくない漫画だった。
今村萌えのストーリー
以上のように、『アゲイン!!』は構成とオチに難のある漫画である。表紙でデカデカとアピールしているような応援団モノとしては見どころが少ない。練習風景や応援団ならではの要素が少ないため(作者の取材不足によるものかやはり構成力のなさが問題か)、恋愛モノとしても非常に中途半端だ(結局、今村が誰を好きで誰とくっついたかなど語られないのも非常にモヤモヤする)。
ひとつ見どころというべきものを挙げるなら、主人公である今村の成長物語、という点であろう。
孤独で無為な三年間を過ごしてしまった今村が、「アゲイン」のおかげで過去の後悔と向き合うことが出来、結果として高校生活を充実させていく。友達を作り、応援団を再建させて、美少女たちと良い感じの関係を築いていく様はうらやましいの一言で(もちろん、過去を知っているが故にチート的能力の結果だが)、「自分もアゲインしたい」と読者に思わせることだろう。
だが、やはりこれは今村の今村による今村のための成長物語であり、他のキャラクターたちとの絡みが薄いように感じてしまった。
無理にラブコメ要素など入れずに、応援団モノか青春モノかで振り切ってもらったほうがまとまったような気はする。
こういった意味から、『アゲイン!』はやはり中途半端な作品としてのイメージが強く残った漫画であった。ドラマ化したのが不思議なぐらいである。
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