心地よいノスタルジーが香る映画 - 八月のクリスマスの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

八月のクリスマス

4.004.00
映像
4.50
脚本
3.50
キャスト
4.00
音楽
3.50
演出
4.00
感想数
1
観た人
1

心地よいノスタルジーが香る映画

4.04.0
映像
4.5
脚本
3.5
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
4.0

目次

ノスタルジックな風通し

風通しの良い映画である。

扱っているテーマも重いし、ラストも決してハッピーエンドではないのだが、

爽やかさや美しさ、淡々とした日々への愛おしさが画面を通して伝わって来る。

特に食べ物がよく出てくるのだが、

魚やスイカ、アイスクリームなど、どれもとても美味しそうに撮っている。

食べる行為は、生きることには必要不可欠である。

その行為を作品中では上品にではなく、

良い意味で庶民的に、みずみずしく表現をしている。

このように活き活きとした食べる行為をとることで、

”生”とは食べるという、ごくありふれた行為と隣り合わせであり、

”生”とはみずみずしく生活感あふれるものなのだということを表現している。

説明しない自然さ

人物設定を観客へ明示するのが大変遅い。

ヒロインの名前がわかるまでに40分かかった。

しかもこのシーンは名前を聞いたりするのではなく

主人公ジョンウォンが話の流れでヒロインの名前タリムを呼ぶシーンである。

この非説明的な構造により、映画全体にリアリズムを生んでいる。

彼が病気であることも、薬をうつすショットによりなんとなくわかる程度で、

それだけでは日常で飲む胃薬とも捉えられるものである。

しかしこの映画全体が醸す、短命である主人公のやるせなさや儚さにより、

私たちが現実の日常で「あれ、この二人付き合ってる・・・?」と

恋人同士が醸す独特な雰囲気を察知するのと同じような感覚で、

彼の残りの人生の短さを察するという構造は、

この映画の繊細でもろいイメージの大きな構成要素になっている。

二人の恋を描く時間

この映画のラストはハッピーエンドではない。

しかし、バッドエンドでもないのだ。

主人公は死に、二人は結ばれず終わるのだが、それでもバッドエンドではない。

冒頭での主人公の「いつか父も僕もこの世から消えると思っていた。」というセリフと、

ラストでの

「僕の記憶にある写真のように、愛もいつかは思い出になってしまうものだと思っていました。

でも君だけは思い出ではありません。愛を秘めたまま旅立たせてくれた君に「ありがとう」の言葉を残します。」

そして写真館に飾られたタリムの写真。

この3つの要素をつなげると、決してバッドエンドではない。

もしかしたらハッピーエンドと呼んでもいいのかもしれないという気持ちになる。

97分という上映時間の中で、二人の様子を描いた時間はごくわずかだ。

しかしその短さが、二人の恋の儚さとやるせなさ、そして一瞬一瞬の尊さを表現している。

尺にもメッセージは込められている。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

八月のクリスマスが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ