著者のストイシズムと人間臭さをこれでもかっと感じられる美容エッセイ
人気少女漫画家自身の、美容放浪記!
「さくらん」「ハッピーマニア」などで一世を風靡した、安野モヨコによる、VOCE誌上に連載していた美容体験談をまとめたエッセイ。自分の体を削って作品を作り出す漫画家という仕事は、ストレスやプレッシャーがつきもの。それらをはねのけるために、手段を選ばず美容法にチャレンジしていく著者の気合に気圧されて一気に読める代物だった。
もちろん、他にも美容本、俗に言うピンク本は世の中にたくさんある。「〇〇すれば痩せる」「○○で綺麗に!」など、さながら数学の方程式のような綺麗な謳い文句をひっさげて、表紙にはあひる口をした女の子たちが一様にこちらを向いている。でも、そこに答えがないことは私を始め、多くの女子が知っていることだと思う。こうすれば、ああすれば、なんて、美容道に明確な答えがないのだ。トライアンドエラー、それこそが美への近道だということをこの本は改めて気付かせてくれる。
漫画家だって、女の子だもん。
漫画家という、一見華やかそうな職業だが、実際は締め切りと消しゴムカスとの戦いである。コップにいつの間にか消しカスが浮いていても、目の下に墨を塗ったようなクマができていてもおしゃれしてたい!そんなオトメゴコロに痛く共感できた。著者が仕事場でモットーとしていることは、そのまますぐに出かけられる格好をしていること。漫画家自身は表に出ることが少ない職業だけれど、いつでも人に見られても大丈夫な自分でいたいという、なかなか実現が難しいことを気合でやってのける著者がかっこいい。
終わりがない、美容道。
ワンダーでは特に「エヴァンゲリオン」の監督、庵野秀明と結婚したこともあって精神的に落ち着いたのか、「見た目がかわいくなりたい」という欲望だけではなく、「美しく生きるとはどういうことか?」という精神的な面にまで考えが及んでいた。本物の美人とはどういうことか?という問いたてや、体の中から綺麗にしようと漢方カレーにも手を出してみる。その興味は尽きることがない。
安野モヨコ=ストイシズム!?
これだけの作品を働いて働いて作り出してきた著者があけすけに失敗を繰り返しながら経験を積んできた美容道の末にたどり着いた境地だからこそ、説得力がある。冒頭にも書いたように、美には近道がない。トライアンドエラーが唯一の道である。それを作者は仕事でも美容というプライベートでも息をするように行っているのだ。見えない何かに向かって突き進む姿勢はストイックとしか言いようがない。仕事では常に作品で評価が決まる漫画家は、作品で常に完璧を求められる。妥協は許されない。安野モヨコが描く漫画の登場人物は常に可愛い女の子が主人公だ(まれに男性もいるが、相手役はやはり綺麗な女性)。しかしその宝石やリボンで彩られた見た目とは裏腹に、彼女たちは自分の道にもがき苦しむ。その姿は作者の安野モヨコに通じるものだ。彼女のストイシズムと人間臭さが全ページにわたって感じられる「美人画報ワンダー」を読んだ後に、ヨガをしたり、グリーンスムージーを飲みたくなってしまうのは、自分の中のどこかにいる「安野モヨコ」が疼きだすからかもしれない。
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